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第一章 三話

初めまして! ナインと言います。

読んでくださってる方はありがとうございます!

感想など何でもいいので、頂けると嬉しいです!

次回からは第二章に入る予定です。

全部で第四章で一区切り付く予定ですので宜しくお願いします。


 ────進軍開始の前日────


 結局あの後、皆にも探してもらったのだが、盗まれた剣は見つからなかった。

 アンナは心配してくれていたが、ないものは仕方ないとシュンは諦めていた。

 そして進軍を明日に控え、アンナとシュンは一緒に話し合いをしていた。


「明日には進軍するんだな。時間が立つのが早かったな」


「そうだな。私はこの一週間で君の事が大分理解できたよ」


 アンナは微笑みながら言った。

 確かに二人は四六時中一緒にいたので、お互いの事を理解する時間は充分にあった。

 アンナは不安になったりしないのだろうか。

 自分が戦場に立ち、もしたしたら命を落とす危険もあるのに……。

 でもシュンはそれはアンナが強がっているだけだということを見抜いていた。

 アンナは実際の所は気が弱いとシュンは思っている。

 ただ立場上弱音は吐けないから強くあろうと無理をしているのだ。

 まだ十八歳の女の子がそこまで覚悟を決めているのだ、シュンも必ず守り通そうと心に誓った。


「結局君の剣はどこにいってしまったんだろうか?」


「わからない。ただ犯人は未だに捕まってないし、後でひょっこり出てきたらその時は回収しといてくれ」


「了解した。でわ私は明日に備えて眠るよ。君も早く寝た方がいいぞ」


「ああ。そうするよ」


 アンナが出て行ってからシュンは剣の行方に思いを馳せた。

 どこにいったんだ? 正直あの剣を盗んだ所で何のメリットがある?

 価値としてはあるとは思うが、簡単に使いこなせるような物でもない。

 あれを盗んだ奴は何に使う気だ?

 答えの出ない自問自答を繰り返してる内に、シュンは瞼が重くなるのを感じた。

 明日は早い……早めにベッドに入って眠りにつくことにした。


 シュンが眠りについてからどれくらい時間が立っただろう。

 シュンはまどろんでいた意識の中で、怒声を聞いた気がした。

 気になったシュンは目を覚まし、周りの音に耳を澄ましてみる。


 ────何か外が騒がしいな。

 シュンは不信に思い部屋から外へと出てみた。

 すると城内は喧騒に包まれパニックを起こしていた。


 何があった!? あれだけ静かだった城が打って変わって、戦場みたいな空気に変わっている。

 ふとシュンは血の匂いを敏感に感じ取った。

 戦場でよく嗅ぐ臭いだ。


 ────おかしい。城内で血の匂いがするということは、ありえないことだ。

 シュンは現状を把握するため、誰でもいいから話を聞こうと思った。


 そこへタイミングよくアンナが真っ青な顔をしてやってきた。


「アンナ!! どうした!? 何があったんだ?」


「私にもよくわからないのだが、アクアホルンにスパイが入り込んでいたらしい……。そのスパイの手引きで反乱を起こした者達がいる。それがこの惨状の原因だ」


「スパイだと? それで反乱の規模はどれくらいなんだ?」


「騎士団が応戦しているんだが、見た感じ一万はいる。私が駆け付けた時にはもう交戦中であった」


「わかった。とりあえず国王と王妃が心配だ。まず狙われるとしたら国のトップを狙うはずだ。無事を確認しに行こう!」


「ああ。シュンよ、すまない。私はどうしたらいいかわからないのだ……こんなことになるなんて思ってもいなかった……」


「今弱気になったらダメだ! 今できる事を優先してやろう。とりあえず謁見の間に向かうぞ!」


 シュンはアンナの手を取り、走り出した。

 アンナの手は冷たく、微かに震えていた。

 それはそうだろう、反乱が起こるなんて誰も考えていなかった。

 しかも進軍する前日にだ……。

 この様子じゃ前々から計画されていたのだろう。

 あえて進軍開始の前日を狙ったのも、皆が明日に備えて早めに寝付くと思ってのことだ。

 それを考えると、必ず内部に裏切り者がいるはずだ。

 じゃないと騎士団がいるのに、こんな手際よく侵入できないだろう。


 シュンとアンナは途中で交戦中の騎士団を目撃したが、加勢はせずに真っ直ぐ謁見の間へと向かった。

 反乱者達の恰好は皆同じで、黒色の皮鎧を着て顔は兜で覆われていて確認できない。

 使っている剣はありきたりな片手剣だ。

 装備からはわかるようなことは何もなかった。

 それはそうだ。足がつくような装備だったら意味がない。

 加勢できないのがつらいが、今は一刻も早く国王と王妃の無事を確認しなければならない。


 しばらく走っていると、前方に謁見の間のドアが見えてきた。


「よし! 突入するぞ! いちお剣は抜いておけ。何があるかわからない」


「わかった」


 二人はもどかしい思いでドアを勢いよく開け放つと、室内へと入って行った。


 ────二人の丁度目の前、国王と王妃が座る椅子に二人は座っていた。

 ただし体から大量の血を流し、顔は下を向いており、椅子の周りには血の海ができていた。

 室内が暗くてよく見えなかったが、国王の胸の中心に突き刺さっている紅い剣はシュンの盗まれた剣だった……。

 暗がりでも見事な紅い輝きを放つその剣は、今ばかりは不気味にしか見えなかった。

 まるで、今までも血を吸ってきて生きてきたかのような、そんな輝きを放っていた。


「お……と……う……さま。おか……あ……さま。……イヤァ────────!」


 目の前の光景が信じられなかったのだろう。アンナは絶叫して取り乱し始めた。


 ────無理もない。自分の父親と母親が殺されているのだ。シュンはフラッシュバックする記憶に頭痛を覚え、意識の中から追い出した。


 今はアンアを落ち着かせることが最優先だ。

 ここでシュンまでへばっては意味がない。

 自分を奮い立たせ、アンナの元へと駆け寄って行った。


「アンナ落ち着いてくれ! 今はここから逃げないと! じゃないと君も死んでしまうぞ!」


「イヤッ!! 離して! 私はもうどうなってもいい! 今更逃げたって行くあてなんかないじゃない!」


 アンナはシュンが掴んだ手を懸命に振りほどこうとした。

 シュンは絶対離さないという思いを込めて、アンナの目を見つめていた。


「今君まで死んでしまったらこの国はどうなる! 君は親も故郷も全て失ってしまうんだぞ!」


「もう失ってるわ!! 今更何をしたって無意味よ! 私はこのままお父様たちの傍にいて、一緒に死ぬわ」


 ────パーン


 周りはうるさいはずなのに、やけに乾いたハッキリとした音がした。

 シュンがアンナを叩いたのだ。


「アンナ。君はこれから逃げて、この国を取り戻さなくちゃならない。それが国王や王妃のためにもなるんだ。君がいなくなったらこの国の民も終わりだ」


「……」


 アンナは無言で下を向いていた。

 残酷なようだが、今は一刻も早くここから脱出して逃げなければならない。

 じゃないと本当にこの国は終わってしまう。

 アンナが生きていれば、必ずいつか反撃の時が来るだろう。

 シュンはそれをわかっているからこそ、つらくともアンナに奮い立ってもらわなければならなかった。


「つらいのはわかる。俺も同じだからな。でも今は脱出しよう。頼む……」


「一緒ってどういうこと?」


「それはいつか話すよ。とりあえず今はここから出よう」


「絶対よ。いつか話してもらうから」


 何とか立ち直ったアンナを連れてシュンは逃げ出すことにする。

 部屋から出た二人は、騎士団の宿舎へ向かう広場へ行くことにした。

 あそこが一番広いし、戦況を確認するのにいいだろうと思ってのことだ。


 広場に到着した二人は騎士団団長のゴードンが、声を張って指示をしているのに気付いた。

 ゴードンはなんとか戦況を覆そうと一生懸命指示を出していたが、見た感じ劣性みたいだ。

 周りには数々の死体が転がっており、明らかに騎士団の方が倒れている人数が多い。

 ここはゴードンに任せて、先を急ぐしかないだろう。

 するとアンナに気付いた反乱者達が一斉にこちらに殺到してきた。


「おい! 姫騎士バシリスがいたぞ! 姫騎士を倒せばこの国は終わりだ!! あいつを殺せっ!!」


 我先にとこちらに殺到してくる反乱者達を無視して、二人はさらにスピードを上げて走る。

 しかし彼らも早く、なかなか降りきれない。

 前方には城の出口が見えるのだが、出口は騎士と反乱軍の戦いで通り抜けられそうにない。


「アンナ! ここから城の外へ出る道は、一つしかないのか!? 出口からは出られそうもない。他に道はあるか!?」


「あるわ! 確か昔使っていた地下水路に通じる道が。城の出口に近い用水路から行けるはずよ!」


 二人はそのまま出口まで走っていき、アンナが言っていた用水路へ入ることができた。

 なんとか追手は巻けたらしい。

 二人は息も絶え絶えだったが、追手が追いつく可能性があるので歩き続けるしかなかった。

 地下水路はカビ臭く、使われていなかったせいか薄暗い。

 壁にはコケが生えており、ネズミもうろついている。


「ここまで来れば大丈夫だろう。アンナ大丈夫か?」


「大丈夫ではないが、とりあえず追手は巻けたみたいじゃの。君は大丈夫か?」


「俺は大丈夫だ。鍛え方が違うからな。それよりこの先へ行くとどこへ出られるんだ?」


「昔聞いた話だと、アクアホルンのすぐそばの森に出られるそうじゃ」


「そうか。なら早いとこ抜けよう。追いつかれない内にできるだけ遠くまで行きたい」


「そうじゃな。そうしよう」


 しばらく二人は無言で歩いた。

 疲れていたのもあるが、一番はあんなことがあったばかりで何と声をかければいいかわからなかったせいだ。

 アンナは普段の表情と変わらないが、強がっているのだろう。

 さすが姫騎士と言った所か。自分の立場をちゃんとわかっている。

 シュンはしばらくそっとしておこうと話かけずに、黙って歩き続けた。


 半分程進んだ辺りで、ふいにアンナが話かけてきた。


「なあシュンよ。一体誰がスパイだったと思う? 正直私は誰も疑いたくはない……」


「そうだな……怪しいのは大臣だと思う。最近出てきたのはスパイとして潜り込んだからかもしれないし、奴が俺の剣を盗んで俺に罪を着せようとしてるのかもな」


「そんな……そんなことして何の意味が……それにシュンに罪を着せる理由は何じゃ?」


「それは俺もわからない。ただ丁度ぽっと出の俺が都合がよかっただけかもな」


「そんな理由だったら私は許さないぞ。必ず真実を突き止めてみせる」


「ああ。そのためにも今は逃げないとな」


 暗く薄暗い地下水路もそろそろ終わりに近づく。

 二人は何とか逃げ延び、アクアホルンのすぐ近くにある森へ出た。

 アンナに聞いた話だと、その森の名前は【迷いの森】というらしい。

 入り込んだ人間を霧で包み込み、方向感覚を失わせるのだ。

 二人は霧立ち込める森の中、離れないように自然と手を繋いで歩いていた。

 風が木々を揺らし、葉っぱがこすれる音が笑い声のように聞こえる。

 二人を嘲笑うかのように、夜の月が二人を照らしていた。





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