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第一章 二話

 翌朝、少し気だるい気分でシュンは目を覚ました。

 昨日は夢を見ていた気がする……。

 しかも昔、まだシュンが幼い時の夢を。

 シュンがまだ自分の無力さに気付かずに、平和に暮らしていた時のことを……。

 いや……やめよう。今更思い出しても意味がない。

 もうあの頃の無力な子供ではないんだ……。

 師匠のおかげで、自分の身を守れるくれらいの力は付いた。

 今はそんな些細な事を気にしている余裕はない。


 シュンは部屋に掛けられている時計で時間を確認した。

 時計の針は十一時を指している。

 どうやら結構な時間、寝てしまっていたらしい。


 シュンがベッドから起きだすのと同時に部屋のドアがノックされた。


「シュン、起きてるか?」


 どうやらアンナが起こしに来てくれたらしい。

 シュンはドアまで歩いて行き、扉を開けた。

 そこにはしっかりと騎士服を着こなした、アンナが笑顔で立っていた。


「おお起きていたか。今日は用事がなければ、騎士団に君を紹介しようと思うのだが、どうだろうか?」


「俺は問題ない。どうせこの一週間やる事もないからな」


 シュンとアンナは連れだって騎士団へと向かうことにした。


「ちなみに騎士団は普段どこにいるんだ?」


「騎士団は自分達の宿舎に寝泊まりしている。何か有事があったさいに、すぐに駆けつけられるようにするためだ。だから騎士団に入っている者達は、皆この城に住んでいるよ」


 アンナの話を聞いてシュンは納得した。

 確かに城にいなければ、いざという時間に合わない恐れがある。


「ここから騎士団の宿舎までは遠いのか?」


「いや遠くない。広場へ出て、こことは反対側に渡ればすぐだ」


 二人が歩いていると、前から神官風の服を身にまとった男達が歩いてきた。

 アンナが横で会釈していたので、シュンもいちお会釈した。

 神官風の男達の中で、一際豪華な装いをしていた禿頭の男がシュンは気になった。

 何か得体のしれない雰囲気を彼から感じたからだ。

 根拠はないのだが、シュンの傭兵としてのカンがそう思わせた。


「なあ、さっきの男達は誰なんだ?」


「さっきの人達は大臣とその部下だ。一番服飾が豪華で目立っていたのが、この国の大臣、カルメル・リッツだ。あやつはつい最近出てきた大臣でな。あまりよくは思われていないんだ。かくいう私も、あやつは何を考えておるか読めないから、不気味に感じている。あまり他言はしないでくれよ?」


 そう言ってアンナはウィンクをした。

 確かにあいつはキナ臭かった。

 シュンは得体のしれないモノを感じていたが、あまり気にしても仕方ないと気持ちを切り替えた。

 そして二人は広場までやってきて、広場にある噴水を回り込む形で反対側へ行き、騎士団の宿舎へと足を進めたのだった。


 ────程なくして二人は騎士団の宿舎へと到着した。


 特に騎士団の見張りがいるわけでもなく、中にはすんなりと入れた。

 シュンは見張りを立てないで物騒だと思ったが、まあここに侵入するには、城に侵入して尚且つここまで辿り着かなければならない。

 そんな手間をかけて、わざわざ騎士団の宿舎に侵入する物好きがいるはずもないかと考える。

 二人の目の前に、昨日シュンが出会った騎士団団長ゴードンが現れた。


「これはアンナ様! このような場所に何の御用でしょうかな? ここま男所帯、アンナ様の様な綺麗な女性が来たら、兵達が騒ぎますぞ! がっはっはっは!」


「騎士団団長も世辞がうまいな。私など大したことはない。しかし綺麗と言ってくれた事はありがとう。素直にお礼を言っておこう」


 アンナも満更ではないのか笑顔だ。

 この二人からはどことなく家族にも似た空気を感じる。

 普段傭兵をやっていると、そうゆう空気を感じることに自然と長けてくる。

 空気を感じる事ができないと、戦場では命取りになる場合がある。

 危機管理もその一つだ。


「今日は皆にシュンを紹介しに来たのだ。戦場では皆と共に戦う仲間だからな」


「そうですか! でも皆あの試合は見ておったので、シュンのことは知ってますぞ。姫騎士を倒した凄腕の傭兵が来た! ってね」


「私もまだまだ修行が足りないと言う事だな。ゴードンよ、護身用のレイピアでの戦闘訓練は学んだが、更に技を磨きたい。今度付き合ってくれるか?」


「もちろんですとも! ですが、姫様は前線で戦う訳ではないのですから、あまり無理はせんでくださいね」


「わかっているさ。しかし私だってシュンに負けたのが悔しいのだ。もっと強くなりたいと思うのは普通のことさ」


「わかりました。そこまでの覚悟があるならこのゴードン、訓練に付き合いますぞ!」


 この二人は昔からの付き合いなんだろうか、シュンはあまりにも仲がいいので聞きたくなったが、立ち入った事は今度余裕があるときにでも聞こうと思った。


 程なくして会話が終わり、シュンはアンナに連れられ騎士団員に挨拶を済ませることにした。


 騎士団は気さくな人物が多いらしく、皆シュンを歓迎してくれた。

 正直傭兵なんて職業は、その日暮らしの流れ者みたいなもんだ。

 そんな奴をこんなに喜んで受け入れてくれるのは、すごいことだと思った。

 たぶんゴードンが気さくな人柄だから、この騎士団も気さくな雰囲気になったのだろう。

 シュンは少し暖かい気持ちになった。


 挨拶を済ませた二人は、また広場へとやってきて、噴水近くのベンチで少し休憩することにした。


「シュンよ。今日はもう予定はないから、自由行動でよいぞ」


「わかった。アンナはこれからどうするんだ?」


「私はこれからお父様とお母様に挨拶に行く。あと少しで戦争になる。少しでも一緒にいて、二人を安心させてあげたい」


 そう言ったアンナの瞳は真剣なものだった。

 シュンはアンナを無事に守らなければと再度誓うのだった。

 アンナはこれから国を統べる存在になるのだ。

 こんな所で消えていい命じゃない。

 シュンは血が止まるのではないかってぐらいに、拳を握りしめた。

 そんなシュンの様子を、アンナは不思議なモノでも見るような瞳で見つめていた。


 二人はその場で解散し、シュンはやる事もないので自室へと戻る事にした。

 自室に戻ったシュンは、部屋の中の違和感に気付いた……。

 なんだ? 侵入者か?

 シュンは慎重に部屋の気配を探る。

 部屋の中に侵入者の気配はない……とすると、もう出て行った後か。


 シュンは何か盗まれた物がないか確認する。

 すると────シュンの片方の剣がなくなっている事に気が付いた。

 ない……紅い方の剣がなくなっている……。

 城内で帯刀は禁止のため、部屋に置いておくしかなかったのだが、まさかそれが仇になるとは……。

 そもそも侵入されるとは思っていなかった。


 シュンは後でアンナに言って、どうすればいいか聞こうと思った。

 とりあえず剣はまだ片方あるので問題はないが、二本ないと落ち着かない。

 アンナが暇になる時間を見計らって確認してもらおう。

 シュンはそれまでしばし眠りにつくことにした。








 ────その後、アンナに確認してもらったが、目撃者もいないためわからないとの事だった。

 しかし騎士団も今捜索してくれているらしく、少し待ってて欲しいと言う事だった。

 シュンは探してくれるだけでも助かるので、感謝の言葉を口にすると、自分自身も剣を探しに歩き回った。

 アンナが一緒に来てくれて、今まで行った所や、可能な範囲で探したのだが、結局剣は見つからなかった。

 心配したアンナが、騎士団で使っている剣を使うか聞いてくれたのだが、使い慣れた剣でないと感覚が掴み難いのでやんわりと断った。


 今日の所は探しても見つかりそうもないので、とりあえず解散してまた後日皆で探す事にしたのだった。

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