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第五章 三話

「────ッ」


 暗い牢屋の中、鈍痛により目を覚ましたシュンは、周りを見渡した。

 シュンの左右にはフィアナとジンが目を覚まして、何も言わずにただ座っていた。

 二人共怪我をしており、喋る気力もないのかもしれない。


 ────いや、ただシュンの不甲斐なさに何も言う気が起きないだけかもしれない……。


 暗い牢屋の中、痛む程の沈黙が場を支配する。

 誰も何も言わず、ただひたすら天井を眺めるか、下を向くかのどちらかだ。


 ────どれくらい沈黙が続いただろうか。フィアナが一番最初に言葉を発した。


「シュン、あなた何であの時何もしなかったの? 何でアンナをみすみす渡す様な真似をしたのよ?」


 フィアナは声を荒げる事もなく、静かにシュンを攻めた。

 シュンは一瞬の間を置くと、静かに語り出す。


「俺はあの時恐怖していたんだと思う。師匠がいきなり現れて、しかも敵として目の前に立っている。その現実が怖くて仕方なかったんだ……。あの人の強さは、俺が一番わかってる。だから何もできずに、アンナを連れて行かれてしまった」


 シュンは自信の心を吐露した。

 もしかしたら初めてかもしれない。

 今までシュンは、このメンバーのリーダー役を務めていた。

 だから自分の弱さを見せる事ができなかった。

 しかし今は違う。

 アンナを連れて行かれ、何もできなかった自分が憎い。

 皆にも迷惑をかけてしまった。……もしかしたら失望されているかもしれない。

 そんな不安でいっぱいだったが、初めてシュンは弱音を吐いた。

 頼れる仲間に弱音を吐いた事で、少しだけシュンの心には余裕ができてきた。

 気持ちが楽になれば、後はやる事は一つしかない。


 ────そう、アンナを取り戻すんだ。


 そして祖国を奪還して、また皆で笑いあおう。

 シュンは決意を宿して、仲間達に問う。


「皆すまない。俺は弱くてダメな人間かもしれない。でも今一度、最後の頼みを聞いてくれないか?」


 シュンがフィアナとジンの二人に、真剣な瞳で問いかける。


「その言葉を待ってたぜ。俺は最初からシュンに付いて行くって決めてたからな」


 ジンは笑顔で快諾してくれた。


「私も乗りかかった船だもの。最後まで付き合うわよ。でも今度はちゃんとしてよ? もしまた腑抜けたら、私があなたを斬るわ」


 フィアナは不敵に言った。

 今はフィアナのその態度がありがたかった。

 気を使って言ってくれているのがわかる。

 シュンはいい仲間を持った事に感謝の気持ちでいっぱいだった。


「ああ! 今度はちゃんとアンナを助けるさ。俺の命に代えても守ると約束したからな!」


「羨ましいわね……」


「何か言ったか?」


「何でもないわよっ! それよりまずはここから脱出しないと、話にならないわ。どうやって脱出するつもりなの?」


 フィアナが何か言った気がしたが、本人が何でもないと言ってるので、深くは追及しなかった。


「実はゴードンを助ける時に気付いたんだが、天井に一枚だけ外れる仕掛けがしてあったんだ」


 言うとシュンは天井の板一枚をはずす。

 すると本当に天井が外れ、少しだけだが隙間ができた。


「な? ここからなら脱出できる。まずはジンから行ってくれ。次にフィアナ、最後に俺が行く」


 シュンはしゃがんで、ジンの土台となった。

 ジンはシュンの背中に足を乗せると、天井のふちに手を引っ掛けて、腕の力だけで登った。

 続いてフィアナもシュンを土台にすると、上からジンが手を貸して引っ張り上げる。

 最後にシュンは、ジャンプした手をジンに掴んでもらい、何とか引っ張り上げてもらった。


 見事脱出を果たした三人は、看守にバレない内に足音を殺して遠くまで逃げる。

 ある程度距離を離した三人は、一度隠れながら相談する事にした。


「アンナはどこに連れて行かれたと思う?」


 シュンは二人に聞いてみた。


「俺は牢屋だと思ってたんだけど、それらしい気配がなかった。となると、大臣と一緒にいる可能性が高いな」


「私もそう思うわね。大臣が居そうな場所に心当たりはあるの?」


「たぶん謁見の間だろう。あそこは国王と王妃がいた場所だ。たぶんそこで踏ん反り返っているに違いない」


 大臣が椅子に腰かけ、偉そうにしている所を想像すると、吐き気がしてくる。

 勝手にこの国を手中に収めた大臣には、必ず鉄槌を下してやる。

 シュンは謁見の間へと走り出した。

 二人もその後に続き、三人は最上階目指して登り続ける。


 途中何度か【サンドローム】の騎士と戦闘になったが、難なく倒すと三人は止まることなく登る。

 登っている途中で、フィアナが話しかけてきた。


「ねえ一つ聞きたいんだけど……あのマイクって男に勝てる見込みあるの?」


 シュンは痛い所を突かれたと思った。

 正直考えない様にしていた、一番の問題だった。

 シュンの師匠にして、【サンドローム】の騎士団長。

 その実力はシュンが最も知ることだ。

 勝てる見込みなどありはしないが、もうあんな気持ちを味わうのはごめんだ。

 何もしないで死ぬより、何かを選択して死ぬ方がまだマシだと思ったのだ。


「正直に言うと、勝てる自信はない。でも必ずアンナは助け出すつもりだ。最悪命に代えてもな」


「そう……その言葉が聞ければ充分だわ。私達がサポートするから、シュンはマイクを倒す事だけに専念して」


「ありがとう。俺は必ず師匠を倒してみせる」


 シュンとフィアナが言葉を交わす横で、ジンもしっかりと頷いてくれた。

 シュンはこの二人がいれば、勝てるかもしれないと思った。


 そんな会話をしていると、ついに最上階へと辿り着いた。

 目の前には豪華で分厚い扉がある。

 これを潜れば、たぶん死を覚悟しなければならないだろう。

 シュンは最後にもう一度だけ、仲間に質問する。


「ここを潜ればたぶん死ぬ運命もあると思う。それでも力を貸してくれるか、最後に聞いておきたいんだ」


 シュンの問いに、二人は確かな意思を込めて真剣に答える。


「俺はそんな大層な信念を持って行動しているわけじゃないが、ここまで来たからには一緒に死ぬ覚悟はできてるぜ」


 ジンが力強く答えてくれた。


「私もここまで来たら最後まで戦うわ。それにシュンは私に勝ったのよ? きっとマイクにだって勝てるわよ」


 フィアナが励ましてくれた。


 二人が最後まで付いてきてくれれば、必ずアンナを助けられる。

 シュンは根拠のない自信が満ちてくるのを感じた。


 ────そして謁見の間の扉を開いた。


 ゴゴゴと音を立てながら扉は開き、予想通り国王の椅子にカルメルが座って待っていた。

 カルメルの隣では、マイクが控えて国王を守る騎士の様に立っている。

 そのすぐ近くに、手を縛られ壁に磔にされているアンナがいた。


「アンナ!!」


 シュンは急いで駆け寄りたい気持ちを何とか抑えて、声をかけた。

 アンナは疲れ果てた顔をしており、腕や足には無数の痣があった。

 きっと拷問をされたのかもしれない……。

 シュンは怒りで我を忘れそうになりながらも、何とか自制した。

 今感情に任せて動けば相手の思う壺だ。

 シュンはもう一度アンナに呼びかける。


「アンナ!! 無事かっ!?」


「今は気絶しておるよ。少し遊びすぎたみたいだ。クックック」


 カルメルが下卑た笑い声をあげる。

 シュンはキッと睨みつけると声を荒げた。


「カルメルッ! 貴様だけは俺が殺す!」


「威勢だけはいいな。前回何もできずに座り込んでいた男とは思えんな」


 カルメルは尚も余裕を崩さない。

 マイクが近くにいるので、自分に被害は来ないと思っているのだろう。

 そのマイクがシュンに向かって話しかける。


「お前は俺に勝てると思っているのか? 俺はお前の師だぞ。お前の全てを把握している」


 静かにマイクが喋る。

 自分が負けるとは微塵も思っていないようだ。


「俺はアンタに勝てないかもしれない。でももう何もせずに奪われるのは勘弁だッ!!」


 シュンはジンとフィアナに目配せすると、三人同時に駆けだした。

 マイクへと向かってまずはジンが初撃を放つ。


「うおおおおおおお!」


 気合いの声と共にジンの渾身の一撃が振るわれる。

 マイクは冷静に二刀で防ぐと、鍔迫り合いになる。

 そのタイミングを見計らって、フィアナが二撃目を叩きこむ。

 フィアナは無防備なマイクへと、大剣《ウィンド・ブレイカー》を叩きこむ。

 上段からの一振りを、防御するすべのないマイクは避けれないと思った。

 しかしマイクは、ジンを二刀で弾き、フィアナの大剣が来る頃にはその二刀で防御していた。


「なんてやつッ! これでもダメなんて!」


 フィアナは渾身の一撃を防がれ、驚愕していた。

 あそこから防御できるなんて、死角がないのと同じだ。

 フィアナとジンはどうすれば勝てるのか、勝機を見出せずにいた。

 そこへシュンが攻撃を放つ。


「はあああああああ!!」


 気合いの入った右と左の袈裟斬り。

 今マイクはフィアナと剣を交えている。

 防ぐ術はないッ!


 しかしシュンの剣もまた、躱されてしまった。

 マイクは一旦フィアナと距離を取ると、そのままバックステップしてシュンの剣を躱す。


「甘いな。俺はその程度じゃ倒せないぞ? それにシュン、俺がくれた剣はどうした?」


「アンタの剣ならカルメルに盗まれたよ。その剣でアンナの両親を殺し、俺を指名手配犯に仕立てあげたんだ」


「そうだったのか。まあいい、今のお前の剣を俺に見せてみろ。また稽古をつけてやろうか?」


 あくまでマイクは遊びのつもりらしい。

 シュンは歯噛みした。

 このままでは勝てない。

 どこかで勝機を作らなければ、一撃も入れられずに殺される。


「ふざけるなッ! 俺はアンタを倒してアンナを取り戻す!」


「なら俺を倒してみろ! お前の覚悟を示せッ!」


 シュンは愛剣の二刀を逆手に持ち、マイクへと逆袈裟斬りを放つ。

 マイクも同じ攻撃をし、二人は鍔迫り合いになった。

 しばらく膠着状態を保った二人は、一旦距離をあける。


 シュンは己の最大限の攻撃を放つ事にした。

 精神を集中させ、自分の剣筋をイメージする。

 体に力が漲るのを感じた瞬間、シュンは爆発的な膂力で駆けた。

 一瞬で距離を詰めたシュンは、マイクへと連撃を放つ。


 最初の右袈裟斬りは防がれた。

 二撃目の左袈裟斬りも防がれた。

 三撃目は二刀をクロスさせ、一気に横に放つ。

 ここでマイクの剣が上へと弾かれ、胴体がガラ空きになる。

 四撃目はその胴体へと二刀で突きを放った。

 しかし何とか反応したマイクはこれも防ぐ。

 五撃目は右袈裟斬りと見せかけて、左からの横薙ぎを放った。

 マイクは反応できずに、薄皮一枚分斬られる。


「────クッ!」


 マイクは焦りを感じた。

 自分が押されている事が信じられないとでも言いたげだ。


 六撃目は逆袈裟斬りを放ち、マイクの剣を弾く。

 最後に横に回転しながら、マイクの背後に回り込み、背中をクロスさせた剣で一気に切り裂いた。

 マイクは、背中から大量の血を流しながら床に膝をつく。


「────クッ! まさか俺が負けるとはな……」


 マイクはそのまま床に倒れ伏した。

 はあはあ荒い息をしながら、シュンは床に倒れるマイクを見つめる。

 今まで師と慕ってきたマイクに、初めて勝てる事ができた。

 しかし喜びよりも、複雑な感情が胸に広がるのを感じる。

 まさか自分の師が敵国のスパイで、尚且つ目の前に敵として現れるとは露程も思っていなかった。

 シュンはカルメルへと視線を向け、そのまま国王の椅子に座るカルメルの元へと歩いて行く。


「バカなッ!? マイクが負けるはずはない! 奴は我が国最強の騎士だぞッ!」


 マイクが負けた事により、自分の盾を失ったカルメルは焦った。


「だったらこれからは俺が最強だな。アンタの出番もそろそろ終わりだ」


 シュンは鋭利な視線で睨みつけると、カルメルまで続く階段を一息に登り切った。


「────ヒッ!!」


 恐怖に引き攣ったカルメルの顔を目に焼き付けながら、シュンは渾身の二刀でその首を刎ねた。

 後に残ったのは、静寂だけだった。

 たった今まで戦闘を行っていたとは思えないぐらい静かだ。


 シュンはカルメルの死体に目もくれずに、一目散にアンナの元へと走った。

 早く彼女を抱きしめてあげたい。

 そんな感情に突き動かされるまま、シュンはアンナの元へと駆ける。


 アンナを縛る鎖をはずすと、シュンはアンナに呼びかけた。


「アンナッ!! 大丈夫かッ!?」


 するとアンナの瞼がゆっくりと開く。

 アンナは掠れる声で答えた。


「……シュン……終わったのじゃな? 何もかも全て……」


「ああっ! 全部終わったよ……カルメルは死んだ。これでアクアホルンも元に戻る。君の国を取り戻したんだっ!」


「そうか……ありがとうシュン」


 アンナはそう言うと再び意識を失った。


「アンナッ!?」


 シュンが取り乱していると、後ろから声をかけられる。


「大丈夫よ。気を失っただけだわ。アンタは私達の存在忘れてるんじゃないの?」


 フィアナが不機嫌そうに言った。


「そうだぜ。俺達だって一緒に戦って頑張ったのに。最後はシュンがいいとこ持っていったけどな」


 笑いながらジンが言った。


 シュンはそうだったなと笑顔で答え、アンナを背中に背負うと謁見の間を後にした。

 外ではゴードンが待っていてくれて、近くにはアクアホルンの騎士団が詰めかけていた。


 聞いた話では、アクアホルンにいた【サンドローム】の騎士達は、皆追い払ったらしい。

 ゴードンが帰ってきた事により、騎士団達も皆嬉しそうにしていた。


 ふと空を見上げると、太陽が昇る頃で暗闇になれた目を刺激してくる。

 これから大変だろうが、ひとまず眠りにつきたいと思うシュンであった。

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