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第五章 二話

双剣使いと姫騎士物語もそろそろ終わりに近づいております。

終わりまで後少しありますが、最後まで読んで頂けると嬉しいです。

 シュンとアンナとジンとフィアナの四人は、一旦アクアホルンに戻る事に決めた。

 決して祖国を奪還するためではなく、騎士団長ゴードンを救出するためである。

 ゴードンが囚われている現状を聞いたアンナが提案したことだ。

 ゴードンを無事に救出する事ができれば、必ず力になってくれるはずだ。

 それに両親亡き今、アンナとしては親しい間柄のゴードンがいてくれれば、何かと心強いだろう。

 そんなわけでアクアホルンへと急いでいる途中、今は四人共【タンタロスの咢】を抜けて、【フレアランド】に入ろうかという所だった。


「ちょっと聞きたいんだけど、その騎士団長ゴードンって生きてるの?」


 フィアナがいきなり質問してきた。

 アンナはフィアナの言葉にすぐに反論した。


「彼なら必ず生きている!! 彼は簡単に生を諦める様な人間ではないっ!」


 アンナはムキになって言った。

 実際の所はアンナも不安で仕方ないのだろう。

 でも強がるアンナは、もしかしたら……という現実を受け入れられないのかもしれない。


「わ……悪かったわよ……。何もそんなに怒る事ないじゃない」


 フィアナは悪い事を言った自覚があるのか、殊勝な顔をして謝った。

 少し空気が悪くなったが、今はアクアホルンへと戻るのが先だ。

 シュンもジンも特に触れる事なく、そこで会話は打ち切られた。


 四人は無事に【フレアランド】を抜けて、アクアホルンへと続く川を上流へと進んでいた。

 途中【フレアランド】を出る時に、馬を借りた四人は行きとは比べ物にならない速度で走っていた。

 馬で走っていると風を切るのが気持ちいい。

 ────程なくしてアクアホルンの入り口手前まで辿り着いた。


 四人はまず、フィアナとジンを先頭に入国する。

 シュンは手配されているし、アンナに至っては顔が割れすぎている。

 フィアナとジンの後に続いて入国した二人は、何とかバレずに入国する事ができた。


 まず四人はゴードンが囚われているであろう、城の地下に向かう事にした。

 途中懐かしい街並みに心惹かれるアンナの顔が寂しそうだったが、今は前に進むしかない。

 城の手前まで来た四人は、脱出した時同様、地下の水路を使って城に潜入する事にした。


 フィアナが水路に入るのを嫌がっていたが、何とか説得して付いてこさせた。

 ひたすら水路を直進すると、城へと続く階段が見えてきた。

 四人は階段を一息に駆け上がると、城の中へと侵入する事に成功する。


 城の中は不気味なくらい静かで、人の気配が感じられなかった。

 少し前までなら、広場には人が溢れ談笑の声が聞こえたものだが……今はそれも見る影がない。

 大臣カルメルがこの国を乗っ取って、随分と様変わりしてしまったみたいだ。


 ふとアンナを見ると、寂しそうな悔しそうな、そんな顔をしていた。

 シュンは気になって一度話しかける。


「アンナ大丈夫か? もしかしたらゴードンが死んでいる可能性もある……それでも進む覚悟はあるか?」


 シュンは厳しいようだが、今一度アンナに問う。

 アンナはシュンの目を真っ直ぐに見つめると、意志のこもった声で言った。


「私はこの国の姫騎士。何があろうと前に進む覚悟はできている。心配なら無用じゃ」


 儚げな笑顔を浮かべて懸命に強がるアンナは、とても頼りなく見えた。

 しかし今はアンナの意志を尊重しよう。

 シュンはわかったと伝えると、迷わず歩みを再開した。


 城の中には警備の騎士もおらず、余計不穏な空気を醸し出す。

 普段なら警備の騎士が巡回しているはずだ……シュンはまさか情報が漏れているのではないかと考えた。

 しかしそれはありえない。

 四人の中にスパイがいるわけがないし、まして情報が伝わるのが早すぎる。

 どうにも腑に落ちなかったが、四人は前に進むしかなかった。


 やがて地下への階段が見えてくる。

 四人は地下へと降りていくと、牢屋の前に警備の騎士が一人いるのに気付いた。


「皆止まれ。警備の騎士が一人いるみたいだ。でも一人だけなんておかしくないか?」


「別におかしくはないでしょ? 大人数で警備してたら、場所を教えてるようなもんじゃない」


 シュンの言葉にフィアナが返すが、そんな簡単に割り切っていいのだろうか……シュンは嫌な空気が肌に纏わり付くのを感じた。

 しかしここはフィアナの言うとおり、楽観的に捉えようと思った。

 それが後々致命的なミスになるとも知らずに……。


「じゃあ俺が警備の騎士を昏倒させるから、その間に皆はゴードンを救出してくれ」


「「「わかった」」」


 三人から了解を得たシュンは、一息に接近すると音もなく警備の騎士を昏倒させた。

 あまりにも簡単だったため、拍子抜けしてしまったほどだ。

 まあ簡単に行くならそれに越した事はないかと、シュンは大して気にも留めずにいた。


 無事牢屋の中に入った四人は、鎖で繋がれやつれ切ったゴードンを発見した。

 ゴードンは昔のハツラツとした雰囲気もなく、虚ろな顔をしていた。

 しかし眼だけは違った。

 希望を捨てずに助けが来ると信じていた者の眼だ。

 そんなゴードンを見たアンナは、自然と涙が溢れてくるのを感じた。


「ゴードン……。そなたは大した男じゃ……こんな姿になってまで希望を持ち続けた眼をしておる。そなたは真の騎士だな……」


 感極まったアンナは涙していた。

 静かに涙を流し、ゴードンに抱きついている。

 ゴードンはアンナを見た瞬間から、自分はまだ死ねないと思った。

 必要としてくれる人がいる以上、こんな所で終われないと……。


「姫様……私はずっと待っていましたぞ。姫様が必ず戻ってくると信じて……本当に無事でよかった」


 ゴードンも歓喜の涙を流し、アンナをそっと抱きしめる。

 まるで親子の様な二人に、他の三人も涙しそうになった。

 しかし今は一刻も早くここから脱出するのが先決。

 再開の喜びは無事に脱出してから、盛大に祝う事にしよう。


「悪いが今は脱出しよう。早くしないと見張りの騎士が来るかもしれない」


「そうであった。シュン殿の言うとおりだ。シュン殿もよく無事で戻ってきてくれた。姫様を守ってくれてありがとう」


「感謝の言葉は後だ。今は一刻も早くここから出よう」


 シュンは空気を引き締めると、城から脱出するために元来た道を引き返す。

 ゴードンは満身創痍で、自分で歩く事も困難なため、アンナが肩を貸して一緒に歩いている。

 歩みはゆっくりでも確実に進んでいる。

 やっと地下から抜け出し、広場まで出てきた。

 そのままバレる事なく地下水路へと入る。


 ここでまたしてもシュンは違和感を感じた。

 あれだけ大胆に行動していたのに、見張りは誰も来ない。

 城に入ってから遭遇したのは、牢屋の警備の騎士一人だけだ。

 シュンは嫌な予感が強まるのを感じたが、皆にはまだ内緒にする事にした。

 ただの憶測で不安を煽る事もないだろうと思ったのだ。

 今はただひたすら前に進もう。


 地下水路も終わりに近づき、地上へと続く階段を一気に駆け上がる。


 ────そこで四人とゴードンが目にしたのは、大臣カルメルとシュンの師匠マイクであった……。


「なっ……!? なんで師匠がここに!?」


 驚愕を隠せないシュンはマイクに向かって言った。

 マイクは表情一つ変えないまま喋った。


「久しぶりだな。あれから三年か……随分成長したみたいだな。お前の噂は俺の耳にも届いていたぜ。師匠として鼻が高いよ」


 最後は笑って言ったマイクだったが、シュンはどうしてカルメルと一緒にいるのかが理解できなかった。


「姫様もお久しぶりですな。ご機嫌いかがかな?」


 ニヤニヤした顔でカルメルがアンナに話しかけた。

 アンナは沸騰しそうな感情を押し殺して返す。


「貴様よくもぬけぬけと……! 私の両親を殺したくせによくそんな顔ができるなっ!」


「これはまた変な事を言いますな。姫様の両親を殺したのは、そこの傭兵ですぞ」


 ニヤニヤした顔を張り付けたまま、カルメルは言う。

 アンナの怒りはついに爆発した。


「カルメル!! 貴様だけは絶対に許さんぞ!! 今ここで殺してやるッ!!」


 アンナが突っ込みそうだったので、シュンは手で制してそれを止める。


「なぜ止めるのじゃッ!? あやつは私の敵だぞ!」


「アンナ落ち着け。何かがおかしい……俺の師匠が大臣と一緒にいるのが変だ。事情を聞きたい」


「そ……それはそうじゃが……わかった、今はシュンに従う」


 渋々アンナはシュンに従った。

 場が収まったため、シュンは改めて問う。


「改めて聞く。何であんたが大臣と一緒にいるんだ? 何かの笑い話か?」


 聞かれたマイクはやれやれとでも言いたげな顔で、予想外の事を言った。


「シュンよ……俺は【サンドローム】の騎士団長をしている。そしてカルメルは【サンドローム】の大臣だ。ここまで言えば分かるか?」


 まるで出来損ないの弟子に言う様に、さらりとマイクは真実を告げる。


「おい……あんたまさか……【サンドローム】のスパイだったのか……?」


「正解だ! さすが俺の弟子だな。そう俺は【サンドローム】のスパイだ。あの時お前に会ったのは、俺がこの国に潜り込むために潜入していたからなんだよ。たまたまお前を見つけた俺は、たまたま剣の

 師匠をする事になった。全てが偶然、この国が滅びる以外の事象は全てが偶然の産物なのさ」


 ゆっくりと真実を語るマイクが、何を言っているのかシュンには理解できなかった。

 脳が思考を停止し、理解する事を拒んでいる。

 後ろでは仲間達全員が絶句している。

 あのゴードンですら目を見開いて、口を開けたままにしている。


「そんな……じゃあ最初から全てが繋がっていたのか? 俺は何のためにここまで戻ってきたんだ……?」


 虚ろな目で独り言を言い続けるシュンに、もはや気力はなかった。

 突然宣告された事実があまりにも衝撃的で、何もかもがどうでもよくなっていた。


「モロイなシュンよ。俺はお前をもっと強い男に育てたつもりだったが。ここで死ぬのもまた運命か……」


 マイクがそう言うと、物陰から何十人と騎士が出てくる。

 しかもアクアホルンの騎士ではない、見た事もない鎧を身に着けている。


「こいつらは全員【サンドローム】の騎士達だ。早い話が俺の部下だ。お前等にはここで死んでもらうぞ」


 マイクが命令すると一斉に騎士が殺到してきた。

 シュンは虚ろな目をして立ち尽くすばかりだ。

 騎士達に気付いてもいないかもしれない。


「アンナ!! シュンを連れて逃げろ! 俺とフィアナが食い止める!」


 ジンが叫んだが、フィアナが反論する。


「何で私がアンタと一緒に戦わなきゃいけないのよ! しかも勝てる気がしないし」


「シュンがあの状態だと話にならないだろ! 時間がないッ! 行くぞッ!!」


 ジンは言うが早いか騎士達に向かって駆けた。

 それを見たフィアナは嫌々ながら、後を追いかけて付いて行った。


「シュンッ!! しっかりしろ! ジンとフィアナが戦っているんだぞ。シュンはこのままでいいのかッ!?」


 アンナが呼びかけるが、シュンは返事をしない。

 一人何事かブツブツ呟いたまま微動だにしないのだ。

 諦めたアンナはジンとフィアナに加勢する事にした。


「何で逃げないんだよ!? 今全滅したら全て台無しだろ!」


 ジンは騎士と斧を交えながら言ってくる。


「シュンがあの状態ではどの道逃げ切れない! それにゴードンもいるんだ。逃げるのは無理だろう」


 確かにアンナの言う通り、逃げ切るのは不可能に近いかもしれない。

 それでもここで全滅するより、少しでも可能性のある方に賭けた方がいいんじゃないかと、ジンは思うのだった。


「二人共喋ってる暇があるなら、手伝ってよねッ!!」


 フィアナが交戦しながら、叱咤してくる。

 もう今は腹を括って、戦うしかないだろう。

 たとえ死んだとしても、逃げるよりはマシだとアンナは思った。


 三人は何とか戦況を保っていた。

 しかしそこへマイクが加勢してきた。

 シュンと同じ二刀流の使い手みたいだ。

 シュンからアンナが聞いた話だと、相当強いらしい。

 あのシュンにそこまで言わせる実力の持ち主だ、正直勝てる気はしないとアンナは思った。


「皆それなりに強いじゃないか。これだけの戦力を失うのはもったいないが、これもまた運命だな」


 マイクは二刀を構えると、ジン目掛けて駆ける。

 自分に向かってくるマイクに気付いたジンは、マイク目掛けて牽制の袈裟斬りを放つ。

 マイクは難なく体を横にして躱すと、ジンへと二刀をクロスさせて放つ。

 ジンはマイクの斬撃をモロに受けて、倒れた。


「まさかジンが一瞬でやられるなんて……シュンの師匠はとんでもないな」


 正直アンナは身震いする思いだった。

 今の攻防を見ただけで、勝てないのが分かってしまった。


「君は懐が甘いね。それじゃ俺には到底及ばない」


 マイクは答えぬジンへと言った。

 何の感情も浮かべないその顔は、見る者を凍りつかせる。

 冷酷なまでの実力の差があった。


「生意気な奴ねッ!! 私が《ウィンド・ブレイカー》の錆にしてあげるわ!」


「風を穿て、大地を抉れ、《タイタン・スラッシュ》」


 フィアナはシュンにも使った大技を使った。

 大地を抉りながら進む風の刃は、マイクへと向かって一直線に進む。

 マイクは別段棒立ちのまま、風の刃をそのまま食らった。


「やった!? バカなやつ。私の《タイタン・スラッシュ》を防御もせずに食らうなんて」


 フィアナは勝ち誇った様に言ったが、煙が晴れるとそこには無傷のマイクが立っていた。


「なんて奴なの……化物だわ……」


 フィアナは姫騎士にも関わらず、自らが震えている事に気付いた。

 あの男には勝てないと本能的に悟ってしまったのだ。

 フィアナが茫然としていると、気付けばマイクが目前に迫っていた。

 全く動きが見えなかった……。

 フィアナは死を覚悟する……。

 しかし待てど暮らせど、フィアナを貫くはずの痛みがやってこない。

 薄く目を開けると、アンナがマイクの凶刃を防いでいた。


「俺の動きに反応できるとは、少しはできるようだな。だが甘い」


 マイクは防がれた二刀を切り替えし、下段からの逆袈裟斬りを放つ。

 レイピアを弾かれたアンナは、もう成すすべがなかった。

 アンナの目の前に二刀の凶刃が上段から振り下ろされる。

 スローモーションで剣が見える中、横から割り込む影があった。


 アンナの前に躍り出たフィアナは、身を盾にしてアンナを庇った。

 マイクの剣に斬られたフィアナはその場に倒れる。


「フィアナッ!? どうして……」


「バカ……今の内に早く逃げなさいよ……あんたが倒れたらこの国はどうするのよ……」


 息も絶え絶えにフィアナが言う。

 アンナは涙を浮かべながら、その場に立ち尽くしていた。


「アンナ様もう分ったでしょう? 抵抗しても無駄ですよ。このまま投降すれば無下には致しません」


 カルメルが下卑た笑い声をあげる。

 アンナは悔しくて仕方なかった。

 無力な自分が憎い、目の前に両親の仇がいるのに何もできない自分が憎かった。


「あんたは殺すなと言われている。抵抗しなければ命は保障するが、どうする?」


 マイクが最後の確認をしてくる。

 アンナは何も喋れなかった。

 抵抗がないとわかると、マイクはアンナを捕らえカルメルへと引き渡す。

 その後、ただ塞ぎ込んでいたシュンの元へと歩いて行った。


「お前は最低だな。何の役にも立てず、何もできず。何のために俺が修行してやったのか分からんな」


 シュンはそれでも何もできなかった……。

 シュンと倒れているジン、それにフィアナを確保した騎士達は、三人を牢屋にぶち込んだ。

 ジンとフィアナは大怪我を負ってるし、シュンは怪我こそないものの、もう立ち直れないかもしれない。


 暗い牢屋の中、シュンは自責の念に駆られていた。

 無力な自分、アンナとの約束を守れなかった自分、何より目の前でアンナが連れて行かれたのに何もできなかった。

 暗闇の中もがき続けるシュンは、そのまま意識を手放すのだった……。


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