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第五章

 ────【氷の要塞】────


 現在二人はフィアナが着替え終わるのを待っていた。

 バスタオル一枚の格好だと話をすることもできず、シュンとしては目のやり場に困るからだ。

 十分くらい待つと、フィアナが戻ってきた。


「それで私に話って何よ? くだらない用件だったら本当に斬るからね」


 右手に持つ大剣をチラつかせながら、フィアナは脅しをかけるように言ってきた。


「実はあんたに仲間になって欲しくて説得しに来たんだ」


「はあ? 仲間になれってどういう事?」


 まったく話について行けないフィアナは、不思議そうな顔をして聞いてきた。


「実は俺達はアクアホルンから来たんだが、アクアホルンが今現在乗っ取られている状況なんだ。それで祖国を取り戻すのに力を貸して欲しくて、ここまで来たんだ」


 シュンはフィアナに今までの経緯を話した。

 終始何の反応もせず聞いていたフィアナは、話が終わると冷笑した。


「何で私があんた達に力を貸さないといけない訳? 理由がないわ」


 シュン達は一笑にふされてしまった。

 確かにフィアナがシュン達に手を貸す理由はない。

 でもここで簡単に引き下がってしまっては、ここまで来た意味がなくなってしまう。

 シュンは少し粘るためにある提案をした。


「俺から一つ提案なんだが、俺と勝負してもし俺が勝ったら、俺達に力を貸してくれないか? もし俺が負けたら俺を殺すなり自由にしていい。どうだ?」


 フィアナは笑っていた。

 こいつは馬鹿なのではないかと言いたげだ。


「ハッ、貴様は馬鹿なのか? 私に勝てる訳ないだろう? 私は姫騎士だぞ? 実力が違いすぎる」


 結局馬鹿にされてしまった。

 しかしシュンは本気だった。

 本気で勝つつもりで言ったのだ。

 ここで負けるようなら、シュンの運命もそこまでだったと言う事だ。


「悪いが俺は本気だ。あんたに勝って必ず力を貸してもらうからな」


「いいだろう。余興にしては悪くない。私に勝てると言うなら、その実力を見せてみろ!」


「ちょっと待て! ここで戦うとマズくないか? ここはお前の部屋だろ? どこか戦える場所はないのか?」


「そうだった。私の部屋がめちゃくちゃになっちゃう。じゃあ地下に闘技場があるから、そこで戦いましょう」


 そう言うとフィアナは部屋の外へと出て行ってしまった。

 二人も慌てて後を追い、部屋の外で待っていたフィアナと連れだって地下に行く。

 三人で歩いていると、警備の人達から不信な目で見られたが、幸いフィアナが一緒にいたので特に捕まる事もなかった。

 三人は地下の闘技場へとやってきた。


 闘技場はその名の通り、コロッセオみたいな形をしており、円形の広いフィールドで戦闘が行えるようになっていた。

 闘技場の中央まで進んだシュンとフィアナは、互いに武器を構える。


 フィアナは右手に大剣を構え、シュンは両手に黒と蒼の剣を構える。

 それを見たフィアナは、馬鹿にするように言った。


「あんた何それ? カッコつけのつもりなら残念だわ。二刀流なんてただのカッコつけでしょ?」


「見かけ倒しかは戦ってみればわかるさ」


 シュンはニヤッと笑いかける。

 その顔が気に食わなかったのか、フィアナはイラついたような顔をしていた。


「セリフだけはいっちょまえね。瞬殺してあげるわ」


 フィアナは高飛車に言い放つと、自ら攻めてきた。

 大剣を持っているとは思えないスピードだ。

 すぐにシュンへと肉薄したフィアナは、すさまじい風切り音を響かせて大剣を振り回した。


 大振りの攻撃だったため、難なく躱したシュンだったが、躱したはずなのに剣から発生した風圧で吹き飛ばされてしまった。

 フィアナは得意気な顔で言い放った。


「私の《風穿つ魔剣》通称《ウィンド・ブレイカー》はどうかしら? これで勝てるなんて思い込みは捨てる気になった?」


「こんなもんで勝ち誇るにはまだ早いと思うぞ。勝負はこれからだ」


「その減らず口もいつまで持つかしら……ねっ!」


 フィアナはまた大剣片手に突っ込んでくると、今度は突きを放ってきた。

 予想より鋭い突きを紙一重で躱すと、カウンターの袈裟斬りを放つ。

 フィアナはバックスッテプし難なく躱すと、一旦距離を取る。


「避ける事だけは上手いみたいね……でもそれじゃ私には勝てないわよ!」


 フィアナは《ウィンド・ブレイカー》を正眼に構えると、体の周りを紅色のオーラが包み込んだ。

 シュンは危険を察知し、自身も二刀をクロスさせて防御の姿勢を取る。

 そこへフィアナの大技が炸裂した。


「風を穿て、大地を抉れ、《タイタン・スラッシュ》!」


 フィアナは大剣を上段から一気に振り下ろした。

 その力強い剣閃は風を巻き起こし、大地を抉りながらシュンへと飛んでいく。


 二刀をクロスさせて防御するシュンだったが、耐えきれずに壁まで吹っ飛ばされてしまった。

 壁に激突したシュンは、咳き込みながら倒れる。


「シュンッ!! 大丈夫か!?」


 心配したアンナが声をかけるが、返事がない。

 シュンは返事をする事なく、地面に倒れ伏したままだった。

 アンナは居てもたってもいられなくなり、駆け寄ろうとしたが、二人の戦いが決着を迎えるまでは動く事ができなかった。


「私の《タイタン・スラッシュ》をモロに受けて無事な訳がないわ。勝負あったわね」


 フィアナは勝ち誇った顔をして嘲笑していた。

 シュンは未だに起き上がる事もせずに、地面に伏したままだ。

 フィアナは止めを刺すために、シュンの元へとゆっくり歩いて行く。


 ────するとシュンが何とか立ち上がった。


「なんですって!? まさか私の《タイタン・スラッシュ》を受けて立ち上がるなんて……でももう満身創痍じゃない。私の勝ちで決まったようなものだわ」


 フィアナは多少動揺はしたものの、自らの勝利を疑う事はしなかった。

 そこにシュンの付け入る隙が生まれる。

 シュンは何とか立ち上がると、二刀をしっかりと握り締める。


「悪いが俺達にも負けられない理由がある。簡単に負ける訳にはいかないんだよ!」


 シュンはボロボロの体に力を入れると、精神を集中させる。

 体に力がみなぎるのを意識すると、シュンは一気に加速した。


「うおおおおおお!!」


 シュンは気合いの咆哮を響かせると、神速のスピードでフィアナへと接近した。


「!? 何なのこのスピード!? 私が捉えられないなんて!」


 フィアナは動揺を隠せなかった。

 まさかシュンがこんな力を隠しているとは思っていなかったのだ。

 もう勝負は決まったと慢心していた。

 だからこそシュンに勝機が生まれたのだが……。


「秘剣《ミストクロウ》!!」


 シュンは霞む様な速度で、二刀を振りぬいた……。

 フィアナは気付かない内に斬られており、身に着けていた鎧が粉々に砕け散る。


 秘剣《ミストクロウ》とは、神速の剣を振るう事により、相手が反応できない内に斬る技である。

 斬られた本人は、まるで霧がかった様な幻影を見る事になる。


 鎧が粉々に砕け散ったフィアナは、上半身裸だった……。

 それを見たシュンは急いで目を逸らし、フィアナは自分の姿に気付くと大声を上げた。


「きゃああああ!! またあんたは人の裸をッ!! このヘンタイ!!」


「誤解だっ! 不可抗力なんだ!」


 シュンの弁解は聞き入れてもらえず、フィアナはその場に座ると大事な部分を腕で一生懸命隠していた。


 ────殺気を感じたシュンが振り返ると……アンナが物凄い形相でシュンを睨んでいた。


「……ちがっ! アンナ!? これは不可抗力なんだ!」


「どうだかな……シュンがそんなエッチな奴だとは思っていなかったぞ……」


 アンナから冷たい視線を浴びせられたシュンはやるせない気持ちになった。

 一先ず勝負が決まったので、フィアナはまたもや着替えに行った。


 ────数分して戻ってきたフィアナは、今度は私服姿だった。


「約束通り俺達に力を貸してくれるな?」


 シュンが確認すると、渋々フィアナは頷いた。


「嫌だけど……一国の姫騎士として約束は守るわ。本当に嫌だけどねっ!」


「はいはい。とりあえずこの城を出て、俺達の仲間と合流しよう」


「勝手に仕切らないでくれる!? あんた本当にムカつくわね!」


「はいはい」


 フィアナとシュンが仲よさげに話しているのを見ると、アンナの心はイライラした。


「二人は仲がいいな……私は仲間はずれか?」


 不機嫌な顔でアンナが言った。


「なんで私がこんな奴と! それにあんたも姫騎士よね? なんでこんな奴と一緒にいるわけ?」


「こんな奴とはなんだっ! シュンはとても頼りになる男だぞ!」


「へーあんたこいつが好きなの?」


 フィアナがアンナをからかうと、アンナは顔を真っ赤にしながら反論した。


「だ……誰がこんな奴と!! こんなヘンタイこちらから願い下げじゃ!!」


「おい! さっきと言ってる事が違うだろ!」


 思わずツッコんでしまうシュンだった……。


 三人は城を出て、ジンと合流するため辺りを探す。

 思いの外ジンはすぐに見つかった。


 ジンは城のすぐ近くで、警備の人達と交戦中だった。


「あんたたち! そいつは私の連れよ! 戦う必要ないわ」


「これはフィアナ様! 左様でしたか。失礼しました」


 フィアナが命令すると戦闘は中止され、ジンは何とか生き延びることができた。


「助かったー。マジでしんどかったぜ。今回は死ぬかと思った」


 ジンは大した怪我もなく無事に生き残っていた。

 シュンとアンナは安堵して、三人はお互いを労うのだった。

 そんな中フィアナが話しかけてくる。


「こいつが仲間? 何か弱そうなんだけど……」


「もしかしてこれが姫騎士か? 思ったよりチンチクリンだな」


「なんですって!? あんた殺されたいの?」


 確かにフィアナは背が低かった。

 見た目十四歳くらいに見える。

 背は低く顔も童顔なせいもあるだろう。

 体型にしたって、かわいそうなぐらい幼児体型だった。

 髪は紅く、その紅い髪をショートカットにしている。

 肩ぐらいしか長さはなく、髪を自然におろしている感じだ。


「まあまあ。こいつが姫騎士のフィアナだ。で、こっちが仲間のジンだ」


 シュンが間を取り持ち、お互いを紹介する。

 二人は反りが合わないのか、お互いそっぽを向くと険悪な雰囲気を醸し出していた。


「会って早々喧嘩するなよ。それにジンは年上だろ」


「そうだった。大人げなかったな……子供に対して接する態度じゃなかった」


 全く謝る気のないジンは、フィアナへ喧嘩を売っていた。


「あんた本当にムカつくわね! シュンの仲間じゃなかったら、速攻殺してるわ」


「なんでシュンの仲間ならいいんだよ? まさか……」


 ニヤニヤしながらジンが聞くと、フィアナは顔を赤くして言った。


「勘違いしないでよっ!? 別にシュンだからとか関係ないからっ!!」


 ジンはニヤニヤしたまま、マセガキめとか何とか言っていた。

 まあそれにしても、一気に賑やかになったなあと他人事のようにシュンは思っていた。

 これから上手くやっていけるか先行き不安になるシュンであった。

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