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第四章 三話

今回は書いていて楽しかったです!

次回はバトル展開になる予定です。

引き続き読んで下さると嬉しいです!

 ────【タンタロスのアギト】────


 ドラゴンの戦闘から数十分が経過していた。

 やっと目を覚ましたシュンとアンナは、自分達が重なり合って倒れている事に気付くと、勢いよく離れて顔を真っ赤にしていた。

 少し気まずくなった二人だったが、ジンが間に入ってくれたおかげで、変な空気にはならずに済んだ。


「それにしてもシュンは強いな。あんな化物を一人で倒すなんて、信じられないぜ。何で力を隠してたんだよ?」


 ジンに冷やかし気味に問われ、シュンは何を言っているのか理解できなかった。

 シュンはドラゴンと戦っていた時の記憶が、あまりない事に気付く。


「悪い、あの時は頭に血が上っていてあんまり覚えてないんだ」


「そうなのか? いやでもすごかったぞ。一人で倒しちまったんだからな」


 そう言われてもいまいちピンと来ないシュンだった。

 無我夢中で戦っていて、そんな事を気にしている余裕はなかったのだ。


「でもシュンのおかげで後は下山するだけだな! もう【スノーゲーテ】までは何もおこるまい」


 アンナが笑顔で言った。

 シュンとしても、これ以上やっかい事が増えるのは勘弁願いたい。

 三人は一休みしてから、下山する事にした。


 アンナの言った通りその後の道程は、順調だった。

 特に魔物と遭遇する事もなく、無事に【タンタロスの咢】を抜ける事ができた。


「後はこの平原をひたすら真っ直ぐ、時間にすると一時間も歩けば【スノーゲーテ】に着くはずだ」


 ジンが教えてくれる。

 ジンは以外と物知りだと言う事が判明した。

 知識は深いし、土地勘もある。

 シュンはジンを仲間にして、良かったと思い始めていた。


 そんな三人が平原を一時間近く歩いていると、雪が降る町が見えてきた。

 さっきまでは暑かったのに、今は寒気すら覚える程だ。

 このミッドガル大陸の特異性が垣間見える瞬間だった。

【アクアホルン】は一年を通して過ごしやすかった。

【フレアランド】はとても気温が高く、正直一生住むとなると厳しい気がする。

 そして今度の【スノーゲーテ】は、雪が降っているため寒い。

 ここまで国ごとで気候や気温が変わるのは、世界広しといえどこのミッドガル大陸だけではないだろうか。


 三人は体を震わせながら歩き続けた。

 町に着いたらまず防寒着を買わなくては、このままの服装でいたら皆凍死してしまうとシュンは思った。


 そうこうしているうちに、もう【スノーゲーテ】の入り口まで来ていた。

 三人は入国手続きを終えると、無事に【スノーゲーテ】へと入った。

 まず目に付くのは、氷の彫刻が多いと感じた。

 いたる所で氷のオブジェクトがあり、それは様々な形をしていた。

 鳥のオブジェクトだったり、はたまた人間のオブジェクトなんて物まである。

 個性豊かな街並みだった。

 たぶん彫刻を観光の目玉として売り出しているのだろう。

 観光客とおぼしき人々が、彫刻を目の前に感嘆の溜息をもらしたり、記念撮影したりしている。


 三人はそんな街並みをじっくり見る事もなく、一直線に服屋に突入した。

 思い思いに防寒着を買った三人は、やっと一息つく事ができた。

 この寒さのせいで会話する気にもならず、みな無言で歩き続けていたのだ。

 やっと寒さをしのげるようになって、少し余裕がでてきた。

 三人は話あった末に、まずは温かい飲み物でも飲んで、それから姫騎士バシリスに会いに行こうと決めた。


 三人は服屋の前に在った飲食店に入り、思い思いに飲み物を注文する。

 店内は暖房が入っており、とても暖かかった。

 このままここで寝てしまいそうなぐらいだ。


 三人の目の前に、ホットコーヒーが出てくると、無言で一口飲んだ。


「やっと体が温まったな。このまま凍死するんじゃないかと思ったよ」


 シュンはやっと話ができる状態になると、他愛もない雑談を始めた。


「本当じゃな。私も寒さのせいで指がかじかんでしまったぞ」


 アンナは手に息を吹きかけながら、両の掌を擦り合わせて温めようとしていた。


「俺も仕事柄、いろんな所に行くがこの国は初めてだったんだ。こんな寒い国だとは思ってなかったぜ」


 ジンは苦笑しながら言った。

 あのいつも飄々としているジンですらこの有様だ。

 余程体にこたえたんだろう。


 三人は他愛もない会話を続けながら、誰かが本題を話始めるのを待っていた。

 その空気を敏感に感じ取ったシュンは、早速本題に入る事にした。


「これからだが……さっそく今夜姫騎士に会いに行こうと思う。俺達にはそんなに時間がない。悠長に構えていられる立場じゃないからな」


 シュンは厳しい様だが言うしかなかった。

 シュン達……特にアンナだが、今でこそ落ち着いているが、内心は気が気でないだろう。

 自分の生まれた国を……自分がゆくゆくは女王として即位するはずだった国を乗っ取られたのだ。

 アンナの内心は想像にがたくないだろう。


「私はいつでも行けるぞ! シュンに従うと決めているからな」


 アンナは真っ直ぐ答えてくれた。

 シュンの目を見ながら、真っ直ぐに真剣な瞳で……。


「俺も大丈夫だ。お前等の事情は理解して付いてきてるんだ。ただシュンは手配書が出回ってるのを、忘れるなよ?」


「ああわかっているさ。俺は顔を隠してバレないようにする。ここでバレたら全てが水の泡だからな」


 三人はホットコーヒーを飲み終えると、夜になるまで時間を潰した。


 やがて辺りが暗くなると、闇に蠢く三人の影があった。

 もちろんシュンとアンナとジンである。

 三人は気配を殺しながら、なるべく裏道を通って姫騎士のいる通称【氷の要塞】まで足を進めていた。

【氷の要塞】とは、この国の一番高い所にある城のことである。

 外見は正に氷の城と形容するのが一番わかりやすいだろう。

 先程街中で見た氷のオブジェクトなんか比較にならないレベルである。

 全面氷で造られており、この国の気温が低いから溶ける事なく存在していられるのだ。

 そんな氷の城は、他国からは【氷の要塞】と呼ばれていた。

 堅牢な氷に守られ、突破するのはなかなか難しい。

 氷は固くどこから攻めようにも、氷を砕く事はできないのだ。

 一説ではこの城の守りが堅いのは、姫騎士の力ではないかと言われていた。

 眉唾だろうが、この城を目の前にすると、あながち嘘ではないかもしれないと思わせるだけの迫力はあった。


 三人は【氷の要塞】まで辿り着くと、どこから侵入しようか迷っていた。

 正面突破はないにしても、この城の高さは百メートルぐらいある。

 これを登って侵入したとしても、向こう側で降りる準備ができていないと、八方ふさがりだ。


 悩んだ末に一人が囮になり、監視の目を引き付けてる間に、残りの二人が侵入するという話で纏った。

 問題は誰が囮をやるかだが……以外にもジンが自分から名乗りでた。


「囮は俺がやろう。お前等は自分達の成すべき事がある。ここは俺がやるのがいいだろう」


 シュンはジンは本当は、いいヤツなのではないかと思った。

 普段は口下手なだけで、本来の姿は思いやりのある人間なのかもしれない。

 少しジンへの評価が、変わり始めているシュンだった。


「じゃあジンに任せよう。ジンが監視を引き付けてる間に、俺とアンナは城へ侵入する。それでいいな?」


「私は問題ない。ジンは本当にそれでいいのか? 無理してないか?」


「俺の事は気にすんな。お前等のやりたい様にやれ。俺はそれに従うさ」


「すまないな。但しジンも気をつけるのじゃぞ! 決して死ぬなよ!」


「そっちこそ気をつけろよ。城の中は敵だらけだ。うまく姫騎士だけを誘い出せよ」


 アンナがジンと別れの言葉を交わすと、二人と一人は別々に走り出した。


 まずジンがわざと足音を立て、塔の上で見張りをしていた監視を引き付ける。

 その間、シュンとアンナは気配を殺して近くの木に身を隠す。

 聞き取りづらいが、監視の罵声が聞こえた。

 上手くジンが引き付けたのだろう……だんだんと足音が遠ざかって行く。


 せっかくジンがチャンスを作ってくれたのだ、今の内に二人は手薄になった正面から突入する。


 正面、敵は二人いた。

 シュンは音もなく近づくと一人を剣の柄で気絶させる。

 するとすかさずアンナも続き、もう一人をレイピアの柄で気絶させた。


 予定通り内部に侵入を果たした二人は、【氷の要塞】の最上階を目指すことにした。

 大体姫騎士や偉い人間程高い所にいると、相場が決まっている。

 二人は城内の監視をかいくぐりながら、どんどん登って行く。

 二人が三階に差し掛かった時、城内の警備をしている数が明らかに変わっているのに気付いた。


「たぶんこの上が最上階だろう。ここまで警備が万全だと逆に居場所を教えているようなものだな」


 シュンは小声でアンナに話しかける。


「そうだな。なんとなくだが気配を感じる。理由はわからんが、何か通じるモノを感じ取っているのかもしれない。相手も感づいてる可能性がある」


「わかった。ここから更に慎重に行こう」


 二人は密談を終えると、右に左に迂回しながら何とか警備をやり過ごそうとした。

 丁度最上階への階段が見える位置まで来た二人は、警備の人間が三名陣取っているのに気付く。

 あの三人を倒さない限り、最上階への道は他にないだろう。

 腹を括った二人は、同時に駆けだした。


 三人の内一人がシュン達に気付いた。


「おいお前達! 何者だっ!! 止まれ!」


 二人は制止の声も聞かず、そのまま突っ込んで行った。


 まずシュンが一人を気絶させる。

 するとアンナがもう一人を気絶させた。

 残るは一人のみ。増援が来ない内に倒すのが吉だ。


 シュンとアンナは残る一人を、両サイドから挟撃する。

 残りの二人も無事に気絶させると、最上階への階段を駆け上がった。

 階段を上がってすぐに一つの部屋が見えた。

 豪華な装飾の扉に、名前が書いてある。


 《フィアナ》


 どうやら姫騎士の名前はフィアナというらしい。

 二人は扉に耳を当て、中の様子を探る。

 特に物音は聞こえず、もしかしたらいないのかもしれない。

 ハズレかと思ったが、二人は構わずにゆっくりと扉を開けた。


 ────すると中にいたのは、バスタオル一枚を体に巻いた女の子だった……。


「きゃああああああああ!!」


 部屋中に響き渡る程の悲鳴が鼓膜を打つ。

 慌てたシュンは、咄嗟に女の子の口を手で塞いでいた。


「んむぅぅぅぅ!!」


 口を塞がれた女の子は、何かを叫んでいたがよく聞き取れない。

 むしろ今はそれどころではない状況だ。

 どうしようかと悩んだシュンは、とりあえずアンナにドアを閉めるように頼む。

 シュンに頼まれたアンナは、物凄く不機嫌そうだったが、今は構っていられない。


「んーーーー!!」


 女の子の顔が真っ赤になってきた。

 どうやら息ができないらしい。

 やっと気付いたシュンは、とりあえず塞いでいた手を放す事にした。


「ぶはっ!!」


 やっと酸素を吸う事ができた女の子は、息も絶え絶えになっていた。

 ちょっとシュンは罪悪感にかられる。

 隣では未だにアンナが不機嫌そうな顔をして立っている。


「ちょっとアンタ!! いきなり何すんのよ! 私が誰かわかってんの!? 私は【スノーゲーテ】の姫騎士バシリスフィアナ様よッ!!」


「やっぱりあんたが姫騎士か。あんたに用があって俺達はここまで来たんだ」


「あんた図太いわね……まあいいわ。それで用って何よ? くだらない用件だったら速攻で斬るからね!」


 フィアナは近くに置いてあった大剣を持つと、こちらを威嚇するようにブンブンと振り回す。


「振り回すな危ないだろ! バカなのか?」


「なんですってッ!? あんたマジで殺すわよ!?」


「やれるもんならやってみろよ。俺は負けるつもりはない」


 ヒートアップしていく二人を見かねたアンナが止めに入る。


「ちょっと待て二人共!! シュンも熱くなるな! 何のために来たのか忘れたのか?」


 静かな怒りを滲ませて凄まれては、さしものシュンも落ち着きを取り戻した。


「悪かった。アンナの言うとおりだな。目的を見失っていた。それよりあんた服着たらどうだ?」


「ヘッ……?」


 言われてフィアナは自分の恰好に気付いた。

 みるみる顔を真っ赤にしたフィアナは叫ぶ。


「こっち見んなヘンタイッ!! エッチ!! 死ねッ!!」


「なんでだよ……」


 シュンは行き場のない感情を押し殺した。

 せっかく教えてあげたのにと思いながら……。


 急いで着替えに行ったフィアナを待つ間、二人の間に会話はなかった……。

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