第四章
今回の話から第二部が始まります。
読者の方は引き続き読んで頂けると嬉しいです。
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【フレアランド】を出発してから二日後。
三人は【フレアランド】の東に位置する、【タンタロスの咢】と呼ばれる険しい山を登っていた。
この山にはタンタロスと呼ばれる、不死の龍が住んでいると言われている。
昔の人達が言っていた作り話だとは思うが、この山が険しい事に変わりはない。
そもそも龍などおとぎ話の世界であって、現実に存在しているはずがない。
龍を見たという報告もないし、存在していたら大ニュースになっているはずだ。
三人が向かっている【スノーゲーテ】だが、この【タンタロスの咢】を登って東に行かないと辿り着けないのだ。
ここ以外の道がなく、仕方なくこんな険しい山を登っている次第である。
標高は五千メートルはあろうか……道は整備されておらずゴツゴツした岩がむき出しの状態だ。
この山を登って【スノーゲーテ】まで行こうとする物好きは、いなかったに違いない。
シュン達だって用事がなければ、こんな山登りたいとも思わない。
三人はやっと山の中腹辺りまで登った所だった。
もう地上は遥か下の方に小さく見えるぐらいだ。
ここから引き返す事はできない。
三人は一旦岩肌に腰を下ろし、休憩する事にした。
「やっと中間地点って所か。まだまだ先は長いな。二人共大丈夫か?」
シュンがアンナとジンを気遣って問う。
するとアンナが疲れを隠す様に笑顔で答えた。
「私は大丈夫だ。シュンこそ平気か? 先頭を歩くのも大変だろう。私が変わろうか?」
シュンはアンナに逆に心配をかけていたようだ。
アンナは本当に強いお姫様だ。
自分より他人の心配ができる人間は、そうそういない。
ジンに至っては何を考えているのか、鼻歌なんか歌って疲れを感じていないようだった。
ジンにはいらぬ心配だったようだ。
「俺は大丈夫だ。鍛えてるからな。じゃあこのまま頂上付近まで行って、今日は休む事にしよう。そして明日には下山して【スノーゲーテ】まで行きたいな」
「そんな簡単に行くのかねえ~。俺はそんなうまい事行かないと思うけど」
ジンが座っている石の上で、足を優雅に組み替えながら言ってきた。
「どういう意味だ?」
シュンは刺のある声で返した。
どうも最初からジンとは反りが合わなかった。
シュンはジンという男を、まだ図れずにいたのだ。
そのため変に感情が表に出てしまう。
「そのままの意味さ。この【タンタロスの咢】には龍が存在するって言われてるだろ? もし本当にいたら俺達はここで死ぬかもしれないぜ」
「おいおい。そんな話真に受けてるのか? 以外だな。ジンはその手の話は笑って流すタイプだと思ってたよ」
シュンがからかい気味に言うと、ジンは気にした様子もなく受け流した。
二人は無言になり、気まずい空気が流れそうになったが、そこへアンナが助け舟を出してくれた。
「まあまあ二人共。シュンもジンに変に絡むのは良くないぞ? それにジンの言う事も一理ある。龍はわからないが、ここら辺はやっかいな魔物もいるかもしれない。気を引き締めて行こうぞ」
「わかったよ。ジンも済まなかった。何が起こるかわからないし、気を引き締めて頂上まで登ろう」
ちなみにアンナが言っていた魔物の事だが、魔物とは動物が突然凶暴化して襲ってくるケースがある。
その凶暴化した動物の事を、魔物と呼んでいるのだ。
三人がそんな話をしていると、丁度狼らしきシルエットがこちらに向かって走ってくるのが見えた。
もし魔物であれば倒すしかない。
魔物に咬まれたりすると、稀に毒を持っている場合があるので危険なのだ。
三人が各々の武器を構えると、そいつらはやってきた。
目の前まで来て判別できたが、やはり狼型の魔物みたいだ。
目は鋭く尖り、口からは唾液がダラダラと出ている。
獲物を前に興奮しているのだろうか。
魔物を見てジンが言った。
「こいつは《ハウンドウルフ》だな。ここら辺じゃよく見かける種類だ。いちお毒とかは持ってないから大したことないぞ」
「詳しいな。ジンはこの山に来たことがあるのか?」
アンナが聞き返す。
「以前一回だけ来た事がある。その時と遭遇したんだ。簡単に倒せたけどな」
ジンは言うが早いか、《ハウンドウルフ》へと己の自慢の斧を持って突っ込んで行った。
《ハウンドウルフ》は以外と素早い動きで、左右に揺れながら距離を測っている。
ジンは構わずに《ハウンドウルフ》目掛けて上段から斧を振り下ろした。
大振りの一撃だったため、簡単に躱されてしまい、躱した《ハウンドウルフ》は咬みつく隙を窺がっている。
シュンはジンへと加勢に入ろうとしたが、ジンに手で制止された。
「心配するな。この程度なら俺一人で十分だ。お前等は他の魔物が近くにいないか、警戒していてくれ」
そう言ったジンは、再度アッタクを仕掛けると今度は距離を測りながら、慎重に立ち回っていた。
痺れを切らした《ハウンドウルフ》は、ジンへと飛びかかった。
鋭い牙を覗かせて、獲物を味わう喜びを噛みしめる様な顔をしていた。
しかしその牙がジンに届く事はなかった。
ジンの持つ斧が《ハウンドウルフ》の牙を直前で押しとどめていた。
獲物を捕らえたと思っていた《ハウンドウルフ》は、己の牙が何も貫いていない事を不信に思った。
ジンは冷静に斧で牙を弾くと、その隙をついて斧を横に振った。
ジンの斧は大きな風切り音を響かせて、《ハウンドウルフ》を一刀両断していた。
ジンの目の前に、真っ二つに斬れた《ハウンドウルフ》の死体が横たわる。
戦闘を終えたジンは、何事もなかったかのように言った。
「大した事なかっただろ? こいつは動きが単調だから簡単に倒せるんだ。この山にはもっとやっかいな魔物がいるかもしれない。今日はこの辺で休まないか?」
「そうだな。後少しで頂上だし、この辺で休むか。夜になったら視界も悪くなって危険が増す。アンナもそれでいいか?」
シュンはアンナへと聞いた。
「私は構わないぞ。さすがに疲れたしな。明日の朝、早く起きてそのまま頂上まで行き、下山しよう。もし【スノーゲーテ】に着けないなら、どこかでもう一泊するしかないな」
アンナが言った通り、その方針で行く事にした。
もう今日は交代で見張り番をして、各々眠る事にした。
ゴツゴツした地面では背中が痛くなるが、贅沢を言ってられる状況じゃないので我慢した。
魔物からの夜襲を防ぐため、火を焚き交代制で眠る事にした。
最初はシュンが見張りをやる事になった。
辺りは静かで虫の鳴き声すら聞こえない。
薄暗い中に一人でいると、少し不安になってくるなと思った。
三時間ぐらい時間が立っただろうか、少しシュンがうつらうつらと船を漕ぎそうになっていると、アンナから話しかけられた。
「見張り交代だ。シュンも早く眠るがよいぞ。私が見ているから安心して寝てくれ」
「そうか……じゃあ俺は寝るよ。アンナも何かあったら起こしてくれよ」
「わかった。さあ早く寝た方がよいぞ」
アンナに言われたシュンは、地面に横になるとすぐに眠りについた。
アンナの次はジンが見張りをしてくれる。
とりあえず今は何も考えずに眠ろう。
────そして三人は少しの仮眠を取るとまた歩き出すのだった。
頂上まではあと少しの道程だ。
頂上に着いた時に、もし本当に龍がいたらどうしようかとシュンは考えていた。
シュンがそんな事を考えていると、すぐそこに頂上が見えてきた。
どうやら頂上は大分広い空間になっているようだ。
円形になっており、広さは一キロはあるかもしれない。
端から端までが見えないぐらい広い。
しかも少し霧がかっており視界が悪かった。
頂上まで来た三人は一息ついていた。
すると三人の上空に広い影が落ちてきた。
不信に思った三人が見上げた先には────全長がどれくらいあるのか、分からない程の龍が空から降ってくる所だった。