幕間
こんにちわ! ナインと言います。
今回は少し小休止的な話になります。
次回からは第二部に突入します。
────某日の夜────
アクアホルンでの反乱から二日後。
今では騎士団の活躍により暴徒は鎮圧されたが、国王と王妃の死によってこの国の実権は変わってしまった。
今回の反乱の糸を裏で手引きしていたのが、大臣のカルメルだった。
彼は元から【サンドローム】のスパイとして潜り込んでおり、見事使命を果たした。
騎士団団長ゴードンも捕らえられた今、実質カルメルに刃向う人間は皆無の状態だった。
その大臣は今は国王の椅子に座り、優雅にワインなど飲んでいた。
そこへ部下の一人がやってくる。
部下は大臣に一礼すると報告してきた。
「カルメル様。謁見を申したいと言ってる者がいます。どうなさいますか?」
「誰だ? もし素性の分からぬ者であれば、拒否しろ」
「それが【サンドローム】の騎士団団長を名乗る者でして。いかが致しますか?」
「なにっ!? 団長が来たのか! それを早く言わんか! すぐに連れて来い!!」
部下は慌てて部屋から出ていった。
現在カルメルは謁見の間にいる。
まさか【サンドローム】の騎士団団長が来るとは思っていなかったので、慌てて身なりを整えた。
彼には今回大きな戦果を挙げてもらった。
今回の反乱の糸口を作ったのはカルメルだが、この国を制圧し混乱に陥れたのは騎士団団長のおかげだ。
「カルメル様! 騎士団団長をお連れしました」
「入ってよいぞ。おお団長殿! 久しぶりですな! 元気にやってますかな?」
「ああ変わりないさ。それよりこの国はもうあんたの物だ。俺は一旦【サンドローム】に戻って報告しようと思う。その挨拶に来ただけだ」
暗くてわかりづらいが、団長は非常に偉丈夫だった。
背は高く体格はがっしりしている。
顔は暗くてわからないが、きっと精悍な顔つきをしているに違いないと思わせる雰囲気があった。
大臣は緊張を解くと、団長殿に挨拶し謁見は終了した。
一息付くと大臣は部下にアクアホルンの騎士団団長、ゴードンの状況について聞いた。
「ゴードンの奴はどうなっている? こちら側に付くと言ったか?」
「いいえ。奴は頑固でして……どれだけ拷問しようとも首を縦に振らないのです」
「ちっあの堅物が……せっかくのチャンスを棒に振るつもりか。仕方ない殺さない範囲で拷問を続けろ。奴にはまだ利用価値があるからな」
大臣は下卑た顔で部下に命令した。
まだまだゴードンには働いてもらわないと困る。
姫様の追手に加わってもらって、あの二人が戦う様を見てみたいものだな。
大臣は暗い笑顔を顔に貼り付け、ワインを飲むのだった……。
更に月日は流れ、反乱が起こってから一週間が起った。
未だにゴードンへの拷問は続けられていたが、一向に寝返るつもりはないらしい。
業を煮やしたカルメルは、直接会いに行く事にした。
地下の拷問部屋まで来たカルメルは、体に無数の傷を負い目も虚ろになったゴードンを見た。
まるで死人のようだなと思った。
しかしこの状態で未だに我慢しているのだ、尊敬の念すら覚えるなとカルメルは戦慄した。
ドアを開けて入ってきた人物がカルメルだとわかると、ゴードンの目に少しだけ精気が宿った。
「カ…ル…メル……貴様のせいでこの国は終わる。絶対に儂はお前を許さんぞ。この手で殺すまでは死ぬつもりはない」
眼光鋭く言ったゴードンに対して、カルメルは少し畏怖の念を覚えた。
こんなになってまで、まだあんな顔が出来るのか……末恐ろしい男だと思った。
「そうか。それもいつまで持つかな? 姫様には追手を向かわせている。あの傭兵が一緒にいるようだが、すぐに捕まるだろう。いちお生かして捕らえよと命令している。その後は命の保証はできないがな」
クックックと下卑た笑顔を浮かべるカルメルが、ゴードンは殺したくて仕方なかった。
「クズが……姫様はそんな簡単に捕まるお方ではない。それにシュンが傍にいるのだ、簡単に捕まりはしないだろう。余裕を見せていると、いつか足元をすくわれるかもしれんぞ」
「ふん死にぞこないが下手な希望を持ちおって。あんな小娘と傭兵風情に何ができる。すぐに捕まって貴様の前で殺してやるさ」
それまで希望を抱きながら生きるのだな……カルメルは去り際に一言残すとそのままいなくなった。
ゴードンはまだ姫様とシュンが捕まっていない事実に、少しだけ安堵した。
まだ捕まっていないのなら希望はある。
あの二人ならいつか必ずこの国を取り戻してくれるだろう。
その時のためにも、今は耐えるしかない。
ゴードンは毎日の様に続く拷問に耐えるだけの日々を送った。
まだ希望はあると信じて。
────しかしそこへ唐突に告げられた言葉が、ゴードンの希望を破壊する。
拷問官が嬉しそうに報告してきた。
「どうやらシュンに指名手配がかかったらしい。これで捕まるのは時間の問題だな。はっはっはっはっは」
その言葉は悪魔の囁きの様に聞こえた。
なぜシュンが指名手配されなければならないのか、ゴードンの頭の中を疑問が駆け巡る。
「どうしてシュンが…………」
「教えてやるよ。国王の死体に奴が持っていた剣が刺さっていたらしい。それで殺人者として指名手配されたんだよ」
「なん……だと!? ありえない!! シュンが国王を殺害する動機もないぞ! 大臣の仕組んだ事かッ!」
ゴードンは歯噛みすると、やるせない気持ちになった。
まさかカルメルがそこまでするとは思っていなかった。
無実の罪を着せてまでシュンと姫様を捕まえようとは……。
ゴードンの抱いていた希望の光が少しずつ消えていく気がした。
でも諦める訳にはいかない。
まだ捕まった訳ではないのだ。
頼りない光だが、希望がある限りゴードンは耐えるしかないのだ。
いつか二人が戻ってきた時に、力を貸せるようにと……。