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ぐうたら主の相談所  作者: 日下みる
59/63

~お披露目 6~

一人、夜空を楽しむ。

少し淡い紺色の壁に、黄色い丸。

それが理乃にとっての夜空。

感じされるのは風だけ。

それで充分。

後ろでは、他のみんなが話ているけど、自分がいなくても問題ない。

少しずつ身体を楽にする。

雪に教わった事。

教えて貰った事。

身体に纏まり付き、重かったモノから解放される。

本当は人前でしたらダメなんだろうが。

いつもなら、これくらいは問題ないはず。

一体何が原因なのか。

ま、いいか。

どうでもいい。

疲れた。

みんなの話し声が、言葉ではなく音の羅列になり、音の奔流になる。

それも最初の内だけ。

次第に何も聞こえなくなる。

自分の口から零れる音が何を言ってるかも分からない。

手を伸ばせば、自分の手は夜空に埋もれる。

黄色い丸は触れない。

原寸大は地球の四分の一だったか?

それが手のひらよりも小さいのなら、物凄く遠くにあるということ。

数値を見たけど、よく分からない。

自分の世界は壁と音と風だけ。

壁も厳密には壁じゃない。

壁の圧迫感もない。

ただ目の前にある平面な絵柄。

場所が悪いのか、星も見えない。

つまらないから、パチパチと星座図鑑で見た絵柄を書き足す。

手持ち花火で描いた様に、光の残影だけが残る。

すぐに消える星座の名残り。

それも珍しい事じゃない。

ねぇ、雪。

あんなに一緒にいたのに。

あんなに話をしたのに。

あんなに泣いてる雪の頭を撫でたのに。

顔も声も感触も覚えてないと言ったら怒るだろうか。

今の自分に分かるのは、座っている椅子と寄り掛かってる窓枠の感触だけ。

人に触れても分からない。

触っているのは分かるけれど、よく分からない。

本当にソコに在ると認識出来ない。

人間も木や地面みたいに、ソコに在ると分かればいいのに。

トントンと肩に軽い衝撃。

何だ?

振り返っても誰もいない。

さっきと絵柄が変わっているだけ。

けれど、絵柄が変わるのは良くある事。

同じ絵柄でいる事なんて滅多にない。

絵柄の中で、一番大きな人型が何だか動いている。

けれど、自分には何か分からない。

そういえば、子供の頃に行った水族館。

そこで子供のラッコが伝えて来た。

”遊んで”と。

水槽越しにも関わらず、異種族の自分に意思伝達が出来るのが、不思議とは思わなかった。

その後は暫く子供の男の子のラッコと遊んだ。

自分の手の動きに合わせてクルクル動くラッコ。

目の前の人型は、ラッコに似ているのか、その時の自分に似ているのか。

あはは。マヌケだな。

ラッコから見た自分もコウだったのか。

けれど、絶対的に違うのは、互いの意思が伝わらない所。

ラッコはちゃんと分かったし、分かってくれた。

音もないのに。

途中で”息、待ってて”と伝わったから、頷いて、上を指した。

頷き返したラッコが”絶対だよ”って念を押して。

上に行ったラッコが、慌てて戻って来て”良かった、居た”と喜んでいた。

それから再び遊び出した。

途中で親に呼ばれて仕方なくバイバイするまで、ずっと。

今まで人間と遊んだ事よりずっと楽しかった。

楽だった。

”行かないで。もっと遊ぼ”と伝えてくるラッコに謝りながら、ポッカリと空いた人の輪を抜ける。

自分の動きに併せて、人の輪も広がる。

まるで、自分と人間を現したよう。

手の届かない所にいる人間。

いくら近付こうとも、自分の動きに併せて届かなくなる。

人間のなり損ないの自分。

いつになったら届くのか。

それとも、黄色い丸みたいに、届かないまま、見てるだけで終わるのか。

ねぇ、雪、夜子、花音。

ここは何もなくて、自分には分からない。

みんななら、ちゃんと楽しく生きれた筈なのに。

何で分からない自分が残ったのだろう。

みんななら、有意義に感じて生きれたのに…。

自分は人間に近付くので精一杯。

でも、大変なのは自分だけじゃないと、ちゃんと知ってるから。

人間も生きるのに精一杯。

人間も精一杯なんだから、なり損ないの自分が大変なのは当たり前。

だから、誰にも迷惑掛けないようにしないといけない。

自分なんかに関わってる余裕があるなら、少しでも自身の為に使った方が有意義。

自分は一人で頑張らないといけない。

それでも。

たまになら。

少しだけなら。

弱音を吐いても良いだろうか。

「…はぁ……窮屈…重い……」

疲れた。

地球の重力は何故、こんなに重いのだろうか。

周りの人間はそんなもの気にもしていない。

耐えられない自分はどれだけポンコツなのか。

時々、嫌になってくる。

一人耐えている事に。

昔は、仲間がいた。

いたのに。

なんでみんないないんだろう。

「……俺だけ…か…」

みんなと居たかった。

目の前の人型が触れてくるけど、分からない。

感じない。

認識出来ない。

誰も居ない。

ムシャクシャする気分を紛らわす。

向き直った夜空に、爆ぜる閃光だけが眩しく見えた。

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