~大人組 編 2~
「ちょ!出たって、家に戻ったって事ですか?!なんで戻したんですか!?」
五月蝿いなぁ。
そんなの一つしかないじゃないか。
「本人が戻るって言ったからだけど?」
ウチ、強制出来ないしね。
牢獄じゃないからさ。
「戻せる環境なんですか?」
「さぁ?俺、家族とは数回会っただけだし」
さっき家に行って来たけど。
あれは凄いね。
家族じゃかったよ。アレ。
まるで権力者に擦り寄って恩恵に預かろうとするハイエナみたい。
ハイエナに失礼かも。
あの状態はウチでもそうだったから、俺には見慣れたものだったけど。
まさか親がそっちに回るとはねぇ。
特に母親が凄かったなぁ。
粘着質でストーカーみたい。
母親にストーカーされるってどんな気分なんだろうね?
想像しただけで気持ち悪いや。
「無責任でしょう!!」
「あのねー。ウチは強制じゃないの。本人が帰りたいって言えば帰すしかないの。OK?」
例え帰った先が地獄でもね。
止める権利なんてないんだよね。
「ま、あの子なら大丈夫だよ。家族は知らないけどね」
気にしてなかったしね。
歯牙にも掛けないってあんな感じなんだろうなぁ。
あ。お代わりくれる?
ここの酒、美味しいよね。
「その家族のケアは僕の担当ですか?」
「患者として訪れればね」
病院は患者が来る事を強制出来ない。
相手が来なければ何も出来ない。
だからこそ手駒として動いて欲しいワケ。
プライベートで関わるならば問題ないし。
「それでは僕は何も出来ないと同義だ。兄さんが僕に声を掛けたという事は何かあるでしょう?」
おや?俺の性格は流石に把握してたか。
あー。酒が美味い。
楽しい事を企んでる時の酒ほど美味しい物ってないよね。
「母親は近い内にお前の所に行くかもね。けれど、以前と同じとは思わない方が良いよ」
立場も状況も何もかも違うからね。
「同じじゃないと言うと…?」
「娘を排除しようとしていたのが、どう擦り寄れば良いのかに変わってると思うから」
人って勝手だよねぇ。
手の平を返すにしても、露骨過ぎだし、都合良すぎでしょ。
受け入れる訳ないじゃないか。
いくらあの子でも拒否すると思うよ?
拒否しなくても、逃げそう。
あ。それって一緒かな?
「先輩、俺は?」
「ん?葛西はそのままでいいよ」
「は?」
「勝手にあの子の方から顔を出すと思うから。適当に葛西らしく対応してくれれば問題ないよ」
似た者同士だし。
何か企んだ方があの子にはバレるしね。
近寄るなら自然体じゃないと。
俺を見た時のあの顔。
何を企んでる?って感じだったし。
企んでるんだけどさ。
何でバレるかなぁ。俺、面の皮の厚さには自信あるんだけど。
ま、今更だけどね。
大抵、あの子が俺と会う時って普通の状態じゃないし。
普段から会ってれば違ったかなぁ。
惜しい事したかも。
でもまだチャンスはあるしね。
無ければ作れば良い。
その為の手駒だし。
”俺と知り合い”の奴等と接触して貰えれば、チャンスは増えるってね。
「兄さん、施設で何があったんですか?何故、そんなに変わってるんですか?!何があればあんな小さな子供にそこまでの変化があるんですか!!正直に答えてください!!」
何がって…色々?
変わったというか、本来のモノが出たというか?
「社外秘なのでお答え出来ませーん。個人情報守秘義務があるの。お前の所にもあるでしょうが」
愚弟にも程があるよ?
似てない兄弟だよねぇ。
そりゃ、あの子も気付かない訳だ。
真面目というか何と言うか。
あの子とは違う意味で世間知らずだよね。
その方が都合良いけど。
俺みたいだったら、警戒しすぎて近寄らなさそうだし。
「兄さん…何がしたいんですか?」
「ん?あの子がどうやって生きてくのか興味があってね」
どう対応するのか興味ない?
あそこまでズレた価値観で。
社会はあの子ほど真っ直ぐじゃないのに。
真っ直ぐだけど、真っ正面に向かってない所が面白いよね。
流石、方向音痴。
「人間はオモチャじゃないんですよ?!」
「俺はそこまで行ってないよ?」
「似たようなものでしょう!」
そうかなぁ?
人間をオモチャと思っていたら、ウチの研究所はもっと酷い事になってると思うけどね。
「あの子は大丈夫だよ。壊れないし。周りが壊れる事があってもね」
「人間を壊れたとか壊れないとかで考えないでください!」
うん?そこなのかい?
「じゃぁ、何て言うんだい?お前の病院では。有名所だと”精神分裂症”だっけ?その名前の方が酷くないかい?分裂だの、崩壊だの。一体、何様で何を指して、何を境界線にしているんだい?偉そうに」
色んな在り方があっても良いだろうに。
少しでも外れたら、ダメだの何だのレッテルを貼ってどうしたいんだろうね?
「それは開き直りです。自分勝手を正当化しているに過ぎない。協調性がなく、社会に適応出来ないだけだ」
「社会に必ずしも適応しないといけないのかい?」
その社会が正しい形だと、誰が決めていると思っているんだろうね?
そちらの方が酷い事を言っているように俺は感じるんだけどね。
ま、少数派の意見だろうけど。
「当たり前でしょう。社会とは、組織とはそういう物です。みんなが自分勝手では収集が付かなくなる。人間である以上、社会に、組織に属します」
俺自身が不適格者だしね。
俺が言っても開き直りにしか聞こえないって事かな。
「適応出来ない者は?」
「適応出来るよう、矯正します。でなければ、爪弾きされますよ」
矯正、ねぇ?
そんな社会だからこそ、あの子は”普通”を目指したんだろうね。
俺のように自分が通るような組織を作るという手もあるのに。
爪弾きだなんて、何様なんだろう?
独りがいけないなんて、誰が決めたんだろうね。
「では、お前は親と子、どちらに矯正が必要だと思うの?」
「…子供の方にはまともに会ってないのでわかりません。親にしても、子供と合流した後を見ていないので何とも」
「優等生なお答えどーも」
つまらない弟だね。
子供を売った時点で、お前の理屈だと筆頭に上がるべきだろうに。
何故、そこは見ないんだろうね?
点ではなく、線で見なよ。
そこだけを見るからおかしくなる。
矛盾する。
大局を見ろ、とは名言だと思うよ。
誰しも大局を見たつもりで、狭い視野に留まる。
誰もが大局など見れやしない。
「むしろ、兄さんに必要だと思いますけど」
つまらない上に可愛いくないね。
「そんな俺に頼った親父も同罪だよ。そしてそんな親父の下で働いているお前が何を言う?あの子を助ける手段として、親父が選んだのは、お前じゃなくて俺だよ。その意味をちゃあんと考えるんだね」
お前も、あの子を近くで見ればわかるさ。
あの子の近くで。あの子に接すれば嫌でもね。
自分が如何に小さな視点で物事を見ているかを。
実際に見る器官が働いていないからなのか、理由はわからないけれど。
あの子の許容範囲や視野は誰よりも広い。
あの子は自分以外を否定しない。
どんな在り方でも、そのまま受け入れ許容する。
そこに感情はない。
考える事もなく当たり前だと。
あの子の心は何処にあるんだろう?
おそらく、誰も触れた事も見た事もない心。
雪君ですら触れた事がないかもしれない。
あるのかなぁ?
聞いてみればよかった。
可能性のある子は、二度と話せない場所に行ってしまった。
あの子の心は見えるようで見えない。
掴めるようで掴めない。
触れられるようで触れられない。
直ぐそこに有るような気がするのに。
「お月様みたい、とは良く言ったものだね」
子供の感性は馬鹿に出来ないなぁ。
「「は??」」
今度、月見酒でもしようかな。
「先輩が壊れた」
「兄さん?!頭大丈夫ですか?!らしくないですよ!?」
お前達、覚えておきなさいね?
人を壊れた扱いしたこと。




