~存在意義と理由って必要ですか?~
主人公の生活スタイル
依頼人が来るまでまだ時間があるとはいえ、当の本人はシャワーを浴びただけ。
仕事をする姿勢にはまだまだ程遠い。
「朝ご飯は?」
食べてないことなど承知している。
だが、真知子が聞きたいのはそれではない。
「コレ」
片手に持った煙草をヒラヒラと振り、コーヒーを一口。
視線はパソコンに釘付けだ。
煙草とコーヒーは朝ご飯とは言いません!!!
真知子が入社して数日後、彼女の生活スタイルが発覚した。
いくら唯一の従業員とはいえ、入社早々、大事な合鍵が貰える筈もない。
住居も兼ねているのだから尚更。
最初の数日は、新人ということで、出社も依頼人が来る直前でいい。
と言われていたのもあり、気づかなかったのだ。
合鍵を渡すよう強引に迫った切っ掛けは、時間になっても事務所に人はなく、電話をしても出ない。
もしや何かあったのか、と心配し、管理人さんにお願いして鍵を開けて貰った。
当時は事務所の合鍵だけは管理人さんが持っていたのだ。
ドアを開けてもらい、奥の扉を叩きまくり、大声で呼び掛けること、数分。
寝起きで不機嫌な彼女が顔を出したのである。
彼女の説教は後回しにして、管理人さんに平謝り。
管理人さんは彼女の知り合いらしく「そんなことだと思ったよ」と笑って返っていった。
心配は怒りに代わり、管理人さんに恥ずかしいところを見せた上に、当の本人は無理矢理起されて不機嫌。
そのままシャワーを浴び、身支度をして、時間がないので説教は後回しにして依頼人との会談。
彼女が食事をしたのは夕食のみだった。
その夕食も、真知子が無理矢理食べさせたのだ。
彼女曰く「これが普通」と言う。
人間、三食は大事だ。
特に朝ご飯は食べるのと食べないのでは、雲泥の差。
彼女の仕事は、主に頭脳労働。
必要カロリーは一食で賄える物ではない。
嘘か真かは知らないが、簡単な肉体労働より、頭脳労働の方が消費カロリーは多いと言われている。
それなのに、食事は良くて一日一回…。
眩暈がした私はおかしくないだろう。
結果、私は面倒がる彼女を説教と、ゴリ押しと言う説得で合鍵を貰った。
彼女は説教が嫌いなので、終わらせる為なら多少は譲歩するのだ。
説教の内容を聞いていないなんて承知の上だ。
むしろ、大人しく聞いてるフリをするだけマシな対応である。
実は、彼女はお気に入りと認識している人間には意外と甘い。
それ以外の人間が説教や苦情など口にしようものなら、無視をして何処かに行くか、
「命令する権利も資格も与えた覚えはない」等と言われたりする。
興味がない人間が自分に対して怒っていようが、困っていようが関係ないのだ。
認識すらしていない。
その後、合鍵を使い、仕事前に部屋に入るようになると、
ボロボロと判明する彼女のダメっぷり。
食事は煙草とコーヒー。
夜は遅くまで読書をし、寝るのは朝方。
仕事ギリギリの時間まで寝て過ごし、夜まで仕事。
いつ身体を壊してもおかしくない生活スタイルだ。
それ以降、彼女の生活は真知子が面倒を見る、というのが定着した。
ここまで私生活の面倒をみる羽目になるとは思わなかった。
中学時代、扱いの難しい彼女を教師などに頼まれたり、
真知子の性格から放っておけず、何かと面倒をみたが、それの比ではない。
冷凍食品の温野菜とリンゴを彼女の目の前に置く。
「いらない」と目で訴えてくるが、甘やかさない。
何せ食べさせなければ、食べないのだ。
彼女は空腹中枢も麻痺しているなら、満腹中枢も麻痺しているらしい。
食べても幸せと認識するよう脳内物質が分泌されないらしい。
その上、味は分かるが、それが美味しいのか不味いのかわからないそうだ。
確かに、それでは食欲など出ないだろう。
だからと言って「口に運ぶのが面倒。咀嚼が面倒。飲み込むのも面倒」という理屈はどうかと思う…。
もしゃもしゃと、嫌そうに食べ始めた。
本当はトーストの一枚くらい追加したいが、そんなことしようものなら、一切食べない。
まだ食べる可能性がある物だけでも食べさせた方がマシだ。
朝も始まったばかりだが、一番大変なのが朝である。
これがこの事務所での毎日の習慣なのだから、そろそろ慣れるというもの。
人間、慣れる生き物なのだ。
うわぁい。