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ぐうたら主の相談所  作者: 日下みる
30/63

~幼児編 11~

児童保育のお姉さん達は毎日いるわけではなかった。

友達と遊びに行っていて来なかったり、クラブや習い事など理由は様々だ。

そんな日は兄が面倒を見なければならないのだが、妹の普段の構われ方を遠くから見ていたが、同じ様に出来ない。

何せ妹の周りにいるメンバーは各学年の中心メンバーとも言えるほどの影響力や人気がある者達ばかりだったのだから。

自分ではあれだけの人数を集めるほどの力はない。

いつも、余っている場所で数人の友達と遊んでいるのが兄の児童保育での過ごし方だった。

ドッヂボールをするなどの人気がある場所は競争率が激しく、高学年に取られてしまう。

絵本を読むのも人気シリーズは取られてしまうし、絨毯が敷かれ居心地が良い場所は早い者勝ちだ。

悩んだ兄は、母の職場に行こうと提案した。

商店街は保育から家とは逆方向だが、歩いて直ぐの場所にある。

家の鍵を貸して貰えれば、自分は家でゲームが出来るし、妹も家ならば一人で過ごすのに不都合はない。

寝てるか横でゲームでも見てるだろう。

特に異論もなく二人手を繋いで商店街に向かった。

最初は驚かれたが、児童保育に遊んでくれるお姉さん達がいない日は来るのが定番になるに連れ、兄は鍵を預かり帰宅するか、店頭のゲームで遊ぶようになった。

妹はそのまま本屋で母といることが定着した。

最初、母は慌ててどうしようかと思ったが、葛西が別に構わない、と言い事務所で大人しく絵本を読む様になった。

泣きもせず、騒ぎもしない子供だったのが幸いしたのだろう。

お手伝いにブックカバーの紙に書店の判子を押す作業を教えて貰った。

荒らされている文具雑貨を丁寧に並べ直したり、汚れている場所は拭いたりと、出来る事は手伝っていった。

ビニールに入れられている本を読み終わり、入れ直そうとしたのだが、母に怒られたので、ビニールに入っていないのだけ読む様になった。

何せ、店のテープは大人用で子供が使うには大きく重い。

そのせいか、カッター部分で盛大に抉る様に切り、血が点々と床やカウンターに落ちていたのだ。

最初に気付いた時の母親の心情は、何処の猟奇事件?というほどだったとか。

血の跡で誰の物かすぐに判明した。

ポタポタと血を流しながら、気付いていない鈍い娘に慌ててティッシュを渡し「危ないでしょ!」と叱ればキョトンとした顔をされ、「本に血が着いちゃうでしょ!」と注意すれば慌てて拭いだした。

慌てる場所は自分の怪我ではなく、本が汚れてしまう、というのは些か問題だと思った母だった。

危ないので、テープの使用は禁止した。

それ以降は問題もなく、時折、事務所で葛西でポツポツと会話をしていた。

母はそれをカウンターから見て、夫といるよりも親子に見えるなぁ…と思った。

二人とも何処と無く雰囲気が似ているとは前々から思っていたが、並べてみると顔立ちまで似ている。

中性的な顔に切れ長の目尻、色素の淡い瞳に無表情。

髪なんて長いか短いかの違いしかないように見える。

他の人もそう思ったのか、次第に理乃は葛西の子供という認識が広まった。

住宅街の唯一の商店街の唯一の本屋に店長そっくりな小さな女の子が頻繁に現れ、店内だけならず事務所の中にまで入り、雑用までしていたら誰もが身内だと思うだろう。

本当の父親は仕事で滅多に地元を歩かないので尚更だった。

一緒に外出する場合は車で少し遠出をするか、近くて駅前のデパートである。そこで近所の人と遭遇する事はあまりない。

時々「お家のお手伝いして偉いわねー」と声を掛けてくる人まで現れては、噂はあっという間に広がった。

否定している理乃の言葉など聞いてもいない。

葛西の顔面偏差値が高いのも噂を広げるのに一役買った。

美形なのに女の影もなく、狙っていた女性陣。

あれだけ美形なら彼女がいない訳がないと諦めていた女性陣。

目の保養にと楽しんでいた噂好きなご婦人方。

噂とは当人の耳に入るのは最後というのが定番である。

葛西の妻と勘違いされ話し掛けられた母は笑いながら否定した。

美形とは釣り合わないので、今迄は有り得ない、とよく言われていただけあって、美形な夫と子供とセットと言われたら悪い気はしない。

実際、葛西は彼女の好みだった。

けれど、葛西は彼女よりも娘との方が仲が良い。

娘が来る様になってからという物、差し入れとしてジュースやお菓子を用意してくれていたりする。

自分よりも娘との方が話が弾んでいるのも少し面白くない。

折角、楽しい職場だったのに。

娘が来始めた頃は自分に似て本が好きねー。くらいにしか思わなかった。

二人並べると眼福。とすら思っていた。

だが、いつの頃からか、自分のテリトリーだった筈のこの場所が、娘に奪われていくような気がしてきていた。

自分に懐いていた子供達も娘に話し掛ける事が増えた。

普通に話し掛ける分には良いのだが、ちょっかいを掛ける子もいる。

それを嫌がった娘を見て、葛西は事務所へ入っているか、暇なら住居の方に居ても良いと言い出した。

自分の休憩場所は裏のプレハブ小屋なのに、娘には住居の方を勧めた葛西に、娘に対してイラついた。

またか、と。

人妻を一人暮らしの住居に上げるのには抵抗があるが、幼い子供で、且つ悪戯をする様な子供ではないからなのだが、そんな事に気付く彼女ではなかった。

過去の出来事。

まだ数年すら経っていない過去。

彼女は娘によって立場を危うくした。

自業自得ではあったが、そうさせたのは娘だ。

最近はやっと上手く関係が作れる様になったのに。

やっと距離感がわかったのに。

なのに、どうしていつも娘は何もかも奪って行くのだろう。

この娘が近くにいる限り、自分の居場所はいくら作り直そうが奪われていくに違いない。

「すみません。邪魔ですよね。今度からこっちに来ない様に言い聞かせますね」

小さな子供では役に立たないし、仕事の邪魔にしかならない。

ここは職場であって託児所ではないのだから、何も言われないからと言って甘えてすみません。と。

申し訳なさそうに肯定してくれると思った。

葛西はどう見ても子供好きなタイプではない。

「いや。手伝ってくれてるしな。駄賃が現物支給しか出来なくて申し訳ない。園児を雇う訳にもいかないしな」

と苦笑しながらの返事が来た。

葛西が笑っているのを彼女は初めて見た。

そしてこんなにも長文を喋るのも初めてだった。

その原因は娘。

何処までも何処までも纏わりつき取れない鎖のように。

蜘蛛の巣のように。

釈迦の掌のように。

彼女の周りは全て娘の影響下にある、と錯覚した。

ウトウトと眠りかけている理乃を抱き上げ、住居へ運ぶ葛西の背中を見ながら、彼女の心は消えかけていたドス黒いモノに満たされつつあった。

区切りのために刻んですみません。

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