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ぐうたら主の相談所  作者: 日下みる
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~五感をフル稼働~

理乃の「思考を読む」というのは、超能力の類ではない。

情報を蓄積し、分類し「このパターンはこう考える」と予測する精度が高いため、相手が「思考を読まれた」と錯覚するのだ。

よくいる占い師のやり方とほぼ似た様なモノだ。

そのため、全く情報がない人間の思考を読むことは出来ない。

そして、最初の頃はそこまで精度の高いものではなかった。

何故、そんな事が出来るのか。

彼女は、幼少の頃からソレをする必要があったからだ。

彼女は正常な人間がプラス能力として発達した訳ではなく、欠けていた機能を補う為に発達した能力だった。

盲目な人間の聴覚が異常に発達する、というのと似たようなものである。

空間認識能力の欠如と言語の理解力の低さが主な軽度とも認定されない軽い障害であり、それ等を補う為に認識力と処理能力が発達していた。

最も、空間認識能力が欠如しているが故に発達をしたのか、脳の使用領域が平均より遥かに上回るが故に少しでも負担を減らそうとしたのかは、わからない事だった。

彼女の目は両眼がピントを合わせる事はなく、各々の視野から映像を入手していた。

だが、ピントが合っていない映像は一部重なる事になり、映像として認識するのにはとても不便であり、邪魔だった。その為、普段は効き目で得た映像だけを認識し、逆の目は必要とした時にのみ映像を認識することが可能となった。

ちょっと器用な、ガチャ目と言われる症状に酷似している。

全てが平面な世界であり、立体は認識出来ない状態になる。

その彼女が歩き回る為には、景色を覚え、何かを特徴として見分ける事で認識している。

普通の人間が一本道を歩く時、目の前にある道を進めばいいだろう。壁があれば避けるし、下に何か躓きそうなものがあれば、これまた避ける。

それらは、意識することなく「見ればわかること」だ。

だが、盲目の人間の場合、杖などを使い、感触で何があるか、道は何処かを判断しながらでなければ、躓いたり壁にぶつかったり、道を踏み外してしまう。

彼女は「線」で判断していた。

境界線で全ての区切りを判別しているが、ソレが何なのか、道なのか壁なのか、近いのか遠いのか、幼く経験の少なかった頃はまだ判断が遅く、別の事に意識が取られている場合は、そちらが疎かになっていたが、成長するに連れ、それも皆無ではないが減った。

何かしら障害がある人間は複数同時作業を苦手とする特徴もあるという意見もある。

彼女は家の中を歩く為だけでもかなりの情報が必要であり、距離などを何かしらの目印を着け、歩く度に情報の補正が必要となる。

そして常に最初から分析している訳ではなく、ある程度を分類化しパターン化させて記憶する事で処理しなければならない情報量を減らしていた。

一つのモノとして認識するのではなく、集合体としてある程度纏めてしまうのだ。漢字などが良い例だろうか。

彼女は情報を蓄積し、ある程度、分類、パターンとして区別し状況に合わせて検索、抽出をする必要が幼い頃からあった。

そしてソレは彼女にとっては意識することもない「当たり前なこと」だった。

理乃の「見ればわかる」はその無意識下にまで染み付いた認識、分析、処理があって初めて成り立つ事である。


それは、食事という行為にもあてはまる。

まず、長さが把握出来ない箸を持ち、何処に置いてあるかわからない食べ物が乗っている皿の食べようとしている物があると思われる場所に伸ばす。

どの皿が手前にあり、奥にあるかは、テーブル上に皿を目安にして把握する。

これをしなければ、大きなモノは近く、小さいモノは遠くにある、と認識してしまうため必須の目安となる。

彼女にとって料理が乗っているテーブルは、テーブルに料理が埋まっている様に見える。テーブルの方が料理皿よりも大きいからだ。

そして箸の先端と料理の差は間に違うモノの見た目で判断し、箸先に食べ物の感触があればそれを掴み、どこにあるか理解していない口元へと適当に引き寄せる。

サイズも正確に認識出来ない為、口の大きさと食べ物の大きさが合わない場合、口に当たって初めて齧る、などの対処が行われる。

そして咀嚼し飲み込む。

一つ食べるだけでもかなりの計算と分析をしなければならず、一口に対して得られるカロリーは消費カロリーよりも遥かに低い。

そしてその分だけ脳の容量を使うため、食事中の会話に割り当てる容量はかなり減る。


それ等はまだ幼少の頃には判明しておらず、小さな彼女にとっては、ソレが当たり前であり、他の見え方があるなんてことも知らなかったので、ソレを誰かに言う必要性を感じていなかったし、幼少時にそこまでの説明が出来る訳もなかった。


聴覚に対してもそうだった。

彼女にとっての会話とは、周囲の雑音から肉声のみを選り分け、音の羅列を言語の形にまで纏めなければならなかった。

全ての音の羅列を完成させることは難しく、長文になると音を集める前に新しい音がするため、集めた音は霧散してしまう。その為、重要となる単語のみを拾った。

そこから、過去、現在の状況などを蓄積した情報から関連があるものを検索、抽出し適当と思われるもので返答する。

彼女にとっては、音の羅列を全て完成させるよりも、こちらの方が楽だったのだ。

だが、これもかなりの脳の容量を要した。

検索、抽出するだけではなく、それによって続く会話を何パターンか相手に合わせてシュミレートされ、一致したパターンにそって返答していた。

彼女の会話のレスポンスが早いのはその為であり、戯言遊び程度の事はパターンとして記憶されているため、より早いレスポンスを可能とした。

この二つの同時進行は、かなりのエネルギー消費となり、理乃曰く「エネルギーがもったいない」と滅多にすることはなく、特に何かに集中している時などは耳から入る情報は過多としてシャットダウンする。

また、これらの一連の作業はかなりの脳の使用領域を必要とした。

人間の脳の使用率は十%前後と言われており、数%上回っただけでもかなりのエネルギー消費となり、衰弱死してしまう、とも言われている。

明らかに容量過多な使用量の為、幼い頃から痩せ細り、”意識して”使える容量はかなり少ない。


これらの生態が判明したのは後の事であり、彼女自身が幼い頃は判明していなかった。

そのため、両親にも分かるはずもなく、単純な障害を疑われた。

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