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川辺の祭  作者: nats_show
※未定稿、詫びなど
84/84

未定稿3(仮題 父との遭遇)

「ラーメンたーべたい」

「は?」

「うーまいのたーべたい」

「おやすみ」

「ぶー」


 昼休みの教室に、矢野顕子には似ても似つかぬ歌声が響……くほどではない。だいいち、今時の高校生が歌う歌ではない。たぶん。

 実力テスト後に行われた席替えで、俺の席は若干後ろに変わった。ただし窓際の列はそのままなので変化に乏しい。

 さらに問題なのは、ちさりんが斜め後ろで勝ピー様は一人挟んだ前の席だという点。中途半端に近い。まぁ背後の危険がなくなったのは大きいが。


「で、何か用かね」

「うん」

「…………」

「何の用か聞いてください」

「そういうお約束は嫌だ」

「ぶー」


 我が想い人であらせられる――何となく高尚な表現を使ってみた――えーこは、廊下側の中ほどに移った。横の列はなんとびっくり、俺と同じ。だけど残念ながら何のメリットもない。くじ引きに不正があったと疑われても仕方がない。


「で?」

「ラーメンたべたい」

「い、た、べ、た、ん」

「暗号にはなってません」

「それは失礼」


 ともあれ離れてしまったのは事実。まぁ別に教室の中にいるからいいや…とあきらめたわけだが、ここでもう一ひねり。

 俺と勝ピーの間に座った女子は、えーこと親しかった。つーか、俺をいつもからかう一人だった。密約が交わされるのは当然の成り行きだった。

 そんなわけで俺は今、豪勢な弁当をぱくつく女と向かい合っているのである。


「で?」

「ラーメン…」

「で?」

「……もう言った」


 取り決めによれば、週に二度ぐらいこの席はえーこに譲られるらしい。

 ついでにその日だけは、勝彦様が遠慮なさるらしい。さすがにえーこを挟んで三人で食うのは無理がある。やめた方が無難だろう。幸か不幸か勝彦の隣にプロレス者がいるので、時々思い出したように奇声が響いている。


「………」

「……………」

「………」

「…………」

「……揚げあんパンは我が国が誇る文化だな」

「うん」


 ちらっと真ん前の顔を覗いて、パンをかじる。

 えーこが本気なことぐらい、最初から判っている。冗談なら歌うはずがないのだ。


「三人というのも検討中です」

「誰と…」

「………」


 言い終えた時には三人目の見当もついた。

 今さらこんな話を出してくる執念深さに戦慄しつつ、最後の一口。えーこの手作りお弁当を食す会なら何の迷いもないのだが、一度っきりで終わったままだ。


「一応尋ねておくが、行き先は?」

「学校から徒歩で行けます」

「…なんだ、えーこも食いたかっ…」

「今日のヒロちゃんはすべってる」


 別にボケたつもりはないのだが、そこを主張する価値はなさそうなので、とりあえずティッシュで指先を拭く。

 えーこの表情はすっかり二人っきりモードになっている。昼休みの教室であることに変わりはないのだし、あまりリラックスし過ぎないことを期待しておこう。


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