未定稿2(仮題 なし)
「…なので鷹尾山の麓では長い間に」
「ちょっとタンマ」
九月の午後四時過ぎ。クーラーが必要な季節はすでに終わり、窓を開けっ放しでは次第に寒く感じられることもある。が、その辺は気合い一つでどうにでもなる、という説もある。プロレスラーは年中裸じゃないか、と言う奴もいる。俺も、とりあえずプロレスラーが裸であるべきとの意見には賛同する。
「なんだ?」
「鷹尾山ってどこだ?」
「む……」
まぁだからといって黒タイツをはきたいわけじゃない。まして、えーこに水着を着せてデビューしたての女子プロの真似をさせるなんて冗談じゃない。どう考えても冗談の域を出ないけどな。
新生地研第三回の活動は、六名の参加者をもって始まった。たまに参加予定の祐子さんが名誉顧問。あの川辺の祭の面子が見事にそのまま揃ったわけだ。
俺はまぁ…、それほど積極的な興味はなかったが、良とちさりんには借りがあるのでやむを得ない。ついでに、えーこは割とやる気だった。彼女とご一緒出来るならば、誰が拒絶しようか。
………。
叫べば叫ぶほどに虚しい。こういうのを世に金魚の糞と言うのだ。
「昔の北平田村って分かるか?」
「昔っていつだよ」
「生まれるより二十年は前だ」
「良はなんで知ってんだ?」
「本で読んだ」
しきりに質問を繰り返すのは我らが勝彦だ。まともな活動はまだ二度目だが、前回もひたすら勝ピーの声が響いていた。密かにちさりんが驚いていたぐらい、ヤツは熱心だ。
とりあえず俺が口を開かないのは、中学の図書室みたいで嫌だという他愛のない理由である。良ははっきり言って寂しがりやだから、常に誰かが質問してやらねばならない。そんな義務的な質問にはもう飽きた。
が、だから勝ピーに頼んだわけでもない。ヤツは思ったことはさっさと口にする男である。そのうち鬱陶しくなる可能性は否定できないけれど、会話の乏しい場では貴重な人材と言えよう。
「良くん」
「お、おう」
そんな会話のループにえーこが加わると、俺の眠気も醒める。
何も大好きな彼女だからではない。また難題をふっかけるのではないかと緊張するのだ。
「今日のプリントも面白いけど、あの……」
「………」
そもそも、良とえーこという組み合わせ自体が微妙だ。カッコつけ野郎と毒舌女。しかも毒舌女は、自分はそうではないというポーズ付き。いずれ腹を割って話すべき時も来るに違いない。
注目し続けるのも疲れるから視線を動かしたら、千聡と目が合う。気苦労が絶えない、という顔をしている。もしかしたら俺も同じかも知れない。
「中学で読んだ本の復習から始めたらどうでしょう」
「え…」
「ねぇ、ちさりん」
「あ、…うん」
それにしても、えーこは強引な性格だと思う。




