未定稿1(仮題 勝彦大作戦)続き
二日ぶりの授業。
少しだけ違和感を覚えて、ため息をつく。
月曜の朝と条件が変わらないし、そもそも二学期の授業自体始まったばかりなのに、休み明けという感覚が糸を引く。
学校を休んだという後ろめたさ? そんなものはあるはずがない。休んでせいせいしている。何でもさぼってやる。
………。
それも違うのだろうか。
たとえば昨日の出来事が、この世界を変えてしまう?
昨夜はそんな気もした。
昨日の夜の布団の中では、もう俺はすっかり変わってしまった気になっていた………のに、いつものように俺は沈んでいる。それどころか、学校の休んだ罪悪感に囚われ、重圧に潰されかかっている。
このちっぽけな人間のクズ。
今日の俺が変われないなら、いったいいつになれば変われるんだ?
永遠に俺はネガティブの海に沈んでいるだけなのか? 海底でユートピアを適当に夢想して、そのうち存在を消して終わりなのか?
「ハックン、飯食おうぜ」
「じゃあ二人で半分こだ」
「断る!」
沈んだ気分のまま昼休みになだれ込む。
教室の後ろを一度確認してみたら、一瞬苦笑いを浮かべる彼女がいた。さすがに今日は二人で食べるのも厳しそうだ。あまり近くで見たら危険だ。パニックになりそうな予感。
「こうやって食うのもあとわずかだな」
「気持ち悪い感傷に浸るな」
「なんだ、ハックンは淋しくないのか!」
「ない」
席替えして離れたら昼休みにやって来ないとでもいうのか。強いて言えば、この席で食べるかどうかだろうが、窓際三列目の席にそこまでの愛着はない。あってたまるか。
ともかく、いつも豪華な勝彦の弁当を眺めつつ、揚げあんパンをかじる。病み上がりに食べるものではないような気もするが、他に食べたいパンはなかった。
豊かな食生活は豊かな人格を築くらしい。きっと勝彦は俺より豊かであるに違いない。突然イタコに変じたり、突然原人化したり……と、これは豊かな人格ではなく多重人格だ。
「その唐揚げは食中毒の危険がある」
「何っ?」
「だから俺が一つ毒味…」
「クッ、ハックンはなんて悪の枢軸なんだ!」
ともかく平穏に昼休みは過ぎる。昨日の午後四時から混乱の時が続いてきただけに、二十時間ぶりにゆったりと俺は生きている。
嘘だ。昨夜はぐっすり寝たじゃないか。たぶん十分ぐらい布団の中で悶々として、だけどその後の記憶は何もないじゃないか。
パニックにならなかったら、それだけ俺はあの瞬間を軽く考えたことになる。そうだろ?
「で、風邪は治ったのか?」
「今頃そんな質問する魂胆はなんだ?」
「何を言う、友を思う熱き心を貴様は知らないのかっ!」
…どんな言い訳を重ねようと、昨夜さっさと寝た事実は覆せない。教室後ろでゴシップ雑誌軍団――なんとなく命名してみた――に囲まれてる彼女を、なるべく見ないようにしてることも隠せはしない。くだらない偽善。そんなことしなくたって俺はえーこが大好きだ。大好きだってことと睡眠は別に関係ないのだ。だぶん。
………。
「勝ピーは緑黄色野菜が嫌いだってな」
「あっ、パセリ食うな!」
ちょっと気を許すとネガティブ思考に逆戻りだ。




