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川辺の祭  作者: nats_show
葦芽
36/84

p6

 その日は朝から雨が降っていた。

 出掛けようと思ったのに、僕はただ窓の外を眺めているだけ。


 だって、気が滅入るだろ?

 だって、体が湿気を吸うだろ?


 蛍光灯は不規則なリズムを奏でている。

 それはきっと何かの合図だったというのに、何も判らない僕は天井を見上げるだけ。


 だって、気が滅入るだろ?

 だって、目がチカチカするだろ?


 やがて僕の体は冷え切って、

 僕の瞳は光を失い、

 何をするでもなかった日々だって、すべては空に還るだろう。

 腕をもがれた痛みもなく、

 胸を切り裂かれた悲しみすらなく、

 僕の頭は闇に消え、残るものなど何もないはず。




 いつも、そうだった。

 君は自分勝手で、約束も守らなくて、何を言ってもただ笑っているばかりで。

 嫌いだった。

 君を見ていることが。

 君の話を聞くことが。


 いつか君が泣いたなら、僕はその力で大気圏だって超えてみせるさ。

 炎の中で逆立ちをして、それから布団を片づけるさ。

 今朝はだから、雨が降ってはいけなかった。

 このまま僕の根は深く地を這うだろう。

 世界中がいつか、僕の地下茎で覆い尽くされるだろう。


 窓枠の冷たさをいつか忘れていった僕の、

 焦点の合わなくなった縦線の、

 その落ちていく先を僕は知っている。

 ずっと、ずっと昔から。

 ずっと、ずっと。

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