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その日は朝から雨が降っていた。
出掛けようと思ったのに、僕はただ窓の外を眺めているだけ。
だって、気が滅入るだろ?
だって、体が湿気を吸うだろ?
蛍光灯は不規則なリズムを奏でている。
それはきっと何かの合図だったというのに、何も判らない僕は天井を見上げるだけ。
だって、気が滅入るだろ?
だって、目がチカチカするだろ?
やがて僕の体は冷え切って、
僕の瞳は光を失い、
何をするでもなかった日々だって、すべては空に還るだろう。
腕をもがれた痛みもなく、
胸を切り裂かれた悲しみすらなく、
僕の頭は闇に消え、残るものなど何もないはず。
いつも、そうだった。
君は自分勝手で、約束も守らなくて、何を言ってもただ笑っているばかりで。
嫌いだった。
君を見ていることが。
君の話を聞くことが。
いつか君が泣いたなら、僕はその力で大気圏だって超えてみせるさ。
炎の中で逆立ちをして、それから布団を片づけるさ。
今朝はだから、雨が降ってはいけなかった。
このまま僕の根は深く地を這うだろう。
世界中がいつか、僕の地下茎で覆い尽くされるだろう。
窓枠の冷たさをいつか忘れていった僕の、
焦点の合わなくなった縦線の、
その落ちていく先を僕は知っている。
ずっと、ずっと昔から。
ずっと、ずっと。




