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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

生まれ変わっても

作者: 和月

思い立ってすぐ書き上げた話ですので、穴や矛盾があったらスイマセン...

オレの名前はアナトール。

神々の眷属の1人として、大陸を覆おうとする魔族との戦いに日々明け暮れていた勇敢な戦士。

神より授けられた大剣を振るえば炎が巻き上がり、次々と邪悪な魔族を屠っていた。

だが、それは1万と5千年ほど前の話だ。



現在のオレの名前ははアナ。

魔族との死闘の末平和を取り戻した大陸のとある国に生まれた人間の、女。

―――そう、女なのだ。

赤ん坊の頃から前世の記憶を持っていたオレにとっては到底受け容れ難い現実。

隆々とした筋肉が自慢だった身体は、あの頃に比べると腕の太さなんか半分にも満たないだろう。

そんな、脆弱な身体を持つ女。しかも、絶世の美少女。

非の打ち所のない完璧な対称(シンメトリー)の顔はいっそ不気味なほど整っている。

自分で言うのもなんだが、国を挙げての美少女コンテストに参加すると間違いなく優勝してしまうだろう。

もちろんそんなふざけたコンテストになんか参加しないが。

それでもオレの評判は王都内では有名で、家族でやっている小さな食堂は今日も客で溢れ帰っている。

「アナちゃんーん!こっちに注文取りに来て!」

「いや、こっちに麦酒を運ぶのが先だ!」

「何言ってやがる!こっちが先に注文したんだぞ?!」

ムサ苦しい男たちが仕事を終えると同時に詰め掛けて、小さな食堂は今夜も満員御礼だ。

「あ~もう!うるせぇな!ちょっと静かに待ってろ!!」

「「「はいっ!!」」」

声を揃えて返事した後、男たちは互いを牽制するように睨みあった。

その様子を見て、オレは大きく溜息をついた。

―――何故神の眷属であり勇猛果敢な戦士であったオレが、ムサ苦しい男たちを相手に酒を運ばねばならんのか。

いや、この仕事が嫌というわけではない。

幸い両親はとてもいい人間で、それは大切にオレを育ててくれた。

家族で経営しているこのこじんまりとした食堂も気に入っている。

父親と母親は食べることが大好きで、王都の店を食べ歩きしている最中に知り合ったのだそうだ。

その後順調に愛を育み、結婚しこの食堂を開いた。それから数年後、オレが産まれた。

前世の記憶を持って生まれたオレは自分が人間の赤ん坊、しかも性別が女だということをなかなか受け容れられず泣き喚いて暴れた。

だが、所詮は人間の赤ん坊のすることだ。泣き喚こうがちょっと近所迷惑だという程度で、両手両足をバタバタさせようが「あらあら不機嫌なのね」とひょいと抱き上げられた。

ようやく言葉をしゃべれるようになった時には現実に抗うことに疲れてしまっていた。


―――カランッ


食堂の扉が開く音がして、「いらっしゃいませ!」と言いながら振り返る。

残念ながら店内の席は全て埋まってしまっている。それを伝えようとしたが、入ってきた客の顔を見て「なんだお前か」と思わず呟いた。

「なんだ、とは随分だね。」

すらりとした長身に見事な銀髪の男はそう言いながら苦笑を漏らした。

オレと同じく対称(シンメトリー)の整いすぎた顔。見つめられるとゾクっとするような蒼い瞳。世間一般に言う超絶美形とはこいつの為にあるような言葉だ。

こいつの前では、オレの容姿ですらも霞んでしまうのではないかと思う。悔しくなんか無い、絶対に!

店内にいた男たちはオレが扉のほうに駆け寄るのを視線で追い、その先にいる人物を見ると「げっ」と苦虫を噛み潰したような顔になった。

「今日は早いじゃねぇか。」

「今日はわりと暇だったんだよ。」

そう言って男はいつもの席に足を進めた。

厨房から一番近くに設置された小さなテーブルと一脚の椅子。お一人様専用というか、この男専用の特等席だ。

たとえ店が満員になろうと、この席に他の客が座ることはない。

「今日は何がオススメ?」

「新鮮な兎の肉が入ったんだ。」

「じゃあそれのソテーで。」

もちろん麦酒付きで、と笑みを浮かべた男にオレは「おう」と応えると厨房へと入っていった。

「父さん!兎肉のソテーと麦酒ね!」

「了解ー。」

大きな鍋をかき回しながら父親は手をひらりと挙げた。

「あら、ヴァレリーが来たの?」

山積みの食器を両手に抱えた母親が問いかけてきたので、「あぁ。」と短く応えると母親は意味深な笑みを浮かべた。

「ヴァレリーが来たらアナの機嫌が良くなるから助かるわぁ。」

食堂の看板娘が怒鳴り散らしてばかりの男勝りでは商売上がったりだ、とは母親の口癖だ。

「そんなことねぇよ。」

「小さい頃からヴァレリーの顔を見ると機嫌が良くなってたじゃない。」

それはあれだ。色々と事情があったんだよ。

その事情を詳しく聞かせられないのが残念だ。

まさか自分が1万と5千年ほど前には神の眷属で炎の大剣を振るうマッチョな戦士だった、とは言えないだろう。

「おばさん、こんばんわ。」

いつも間にか厨房にひょいと顔を覗かせた男、ヴァレリーに両親とも良い笑顔を向けた。

「いらっしゃい!」

「今日もたくさん食べていってね!」

「ありがとうございます。」

ヴァレリーは小さく頭を下げると席へと戻っていった。

「はぁ。ヴァレリーは年々いい男になっていくわねぇ。」

まるで年頃の少女のよう目を輝かせながら母親がほぅっと溜息をついた。

昔から母親はヴァレリーがお気に入りなのだ。

父親も然り、年齢の割りに非常に落ち着いたところのあるヴァレリーに一目置いていた。

「お待たせ。」

どん、とグラスになみなみと注いだ麦酒をテーブルに置くとヴァレリーは「ありがとう」と微笑んだ。

遠くの方から「ちっ」という舌打ちがいくつか聞こえたが、ヴァレリーは周りの男たちなど目に入っていない様子でじっとオレを見上げてくる。

「何だよ?」

「いや、アナは綺麗だなと思ってね。」

もしオレが今麦酒を飲んでたとしたら勢いよく噴出していただろう。

「は、はぁ?!お前何言ってんの?」

今まで何度も言われ続けた言葉だが、今だに言われ慣れないのは仕方ないだろう。

決して乙女としての羞恥心とかではない。断じてない。

「事実だよ。今も昔も、ね。」

そう言うヴァレリーの蒼い瞳が冷たい炎のように揺らめくのを見ると、オレは遥か昔の出来事を思い出す。

昔から変わらずオレの傍に在り続けるこの瞳は、時折こうした色を宿してオレの心の奥底まで見透かそうとするかのようにじっと見つめてくる。





1万と5千年ほど前。

まだこの大陸が出来たばかりの頃、神々は多くの眷属を作り出し大陸に蔓延る魔族を滅ぼさんとしていた。

あの頃にはまだ人間は存在しておらず、神々の眷属と魔族は激しい戦いを繰り広げていた。

大地の草花は燃え尽き、湖は干上がり、およそ生物が生息するのは不可能ろうと思われる焦土と化すような、そんな戦い。

魔族は皆屈強な肉体と残忍な性質、そして膨大な魔力と凄まじい繁殖能力を持っていた。

神々の眷属は決して不死ではない。心臓や頭を潰されれば死に至る。それ故、魔族との戦いは常に命がけだった。

その上、眷属には己たちのみで繁殖し数を増やすことは出来ない。眷族を生み出せるのは神々によってのみだった。

神々の力は絶大だったが、この大陸に直接力を及ぼすことは出来ない。それゆえの眷属だった。

削っても削っても減らない魔族の数。それとは逆に日々その数を減らしていく眷属。神々はひとつの決断を下した。

生き残っている神々の眷族の総力を持って、魔族の拠点に攻撃をかける。

魔族たちは不老だが不死ではない。だが生命力が強く、少々の傷ならばすぐに再生してしまう。

その力の源となっているのが、大陸の中央にある大きな山であると気付いた神々は、眷属たちにそこを攻めて山を崩せという命を下した。

恐らく、これが最後にして最大の、過酷な戦いとなるであろうことは誰しもが気付いていた。

その戦いの先頭に立ったのがオレと、オレの親友にして戦友であり好敵手であった1人の眷属だった。

男の名は、ヴァレリーと言った。

炎の大剣を振るうオレと、全てを凍てつかせる槍を振るうヴァレリーは眷属の間でも「神々の双璧」として名を馳せていた。

風になびく銀髪と、感情の見えない冷めた蒼い瞳。ヴァレリーは眷属の中でも最も美しい姿かたちを持ち、神々から最も愛された眷族だった。

だがその戦う様は味方であるオレでさえ背筋が凍るほど容赦のないものだった。

オレが百の魔族を炎で焼き尽くす間に、ヴァレリーはその倍もの魔族を凍りつかせ粉々に砕いて見せた。

オレとヴァレリーがいれば、魔族との戦いにも終止符が打たれるだろうと言われた。



暗雲が立ち込める、昼とも夜とも区別のつかない日。最後の戦いの幕が開けた。

数では圧倒的に有利な魔族たちの大群がオレたちを飲み込む。右も左も、上も下もわからないほどの混乱と狂気の渦となった戦場。

ある眷属はその白い羽を引きちぎられ、知能さえ持たない低俗な魔族たちが覆いつくす大地へと真っ逆さまに堕ちていった。

またある眷属は両手両足を食い千切られ、犬のような形をした魔族の前足で玩具のように弄ばれていた。

オレのすぐ傍で戦っていた眷族は、魔族の繰り出した黒い炎にその身体を焼き尽くされ、塵となって消えうせた。

次々と葬られていく眷族たち。オレは歯を食いしばり、全ての憎しみを魔族へと向けた。

『正面突破は無理か...』

オレの背後で魔族を蹴散らしていたヴァレリーが呟く。

『じゃあ一体どうしろって言うんだ?!』

叫ぶと、ヴァレリーは「落ち着け」と言うかのように冷ややかな視線を寄越してきた。

『私とお前で、左右から山の頂上を目指すというのはどうだ?』

幸い、魔族たちは正面の眷属たちとの戦いに意識を集中させているようで、目の前の大群さえ突破すれば後は易々と山の頂へと昇ることが出来そうだった。

『しかし...』

言いよどむオレにヴァレリーは小さく笑みを浮かべた。

この頃のヴァレリーは常に無表情で、感情を顕わにすることは無かった。

そのヴァレリーが初めて見せた笑みに、オレは一瞬幻かと目を瞬かせた。

『神の(めい)は魔族の殲滅。私たちはその命を遂行するためだけに創り出された存在。』

『...』

神々によって創り出された眷属は、神々の手足となりその命を全うする為だけにここに在る存在。

だが、眷属にも自我というものがある。それにより様々な葛藤を抱き、魔族に寝返った眷属も少なくはない。

ヴァレリーは神々に最も愛される眷属というだけあり、その忠誠心は絶対だ。

オレは眷属の中でも比較的自由奔放な性格で、ただ単にいけ好かないからという理由で魔族との戦いに身を投じていた。

『―――お前は、この戦いの前に神に何を願った?』

周りの魔族を次々と凍らせながら、ヴァレリーはオレに問いかけた。

『オレか?オレは...再びこの大陸に緑を復活させ色んな生き物が平和に暮らせるようにしてくれって頼んだ。』

緑に覆われた大地を、爽やかな風が吹き抜けていく。そこには色々な生き物が互いを傷つけることなく自由きままに生きている。

剣を振るうのも好きだったが、オレはそんな平和で豊かな大地に両足を付けてのんびり穏やかに生きていくというもの悪くないと思っていた。

『そういうお前は何を願ったんだ?』

『私は―――』

一際大きな魔族がオレとヴァレリーの前に立ちふさがる。

オレはそいつの右側に、ヴァレリーは左側に鋭い一撃を繰り出す。魔族の身体は真っ二つに裂け、右は激しい炎に巻かれながら塵となり、左は氷の塊となり砕け散った。

『私は、最後の戦いの後もお前と共にあり続けられるようにと神に願った。』

『はぁ?お前、前から思ってたけど相当変わってるな。』

オレは仲間から疎まれているわけではなかったがどこか遠巻きにされがちだった。

眷属として生まれた直後は力の加減がわからなくて、戦場ではよく他の眷属たちを巻き添えにしたりしていたから、それもしょうがないとは思っていたが。

ヴァレリーはオレよりも少し前に生み出されたが、最初から冷静沈着で神の声をよく聞き、忠実に命を遂行していたらしい。

優等生と劣等生と言うのが的を得ている、そんな両極端な性質の2人だったが、戦場で顔を合わせれば何故か息が合った。

ヴァレリーと共に戦うようになってからは、オレの攻撃に巻き込まれる仲間もいなくなった。

そんな優等生なヴァレリーだったが、オレと同じように眷属の中では少し浮いた存在だった。

そこには他の眷属からの羨望の眼差しや、嫉妬も交じっていたかもしれない。

神々から最も愛される眷族。眷属の中でも孤高の存在であったヴァレリー。

『オレなんかと一緒に居ても何もいいことは無いぞ?』

魔族が居なくなって平穏が訪れたこの大陸で、戦闘馬鹿のオレは最早用無しの存在になるだろう。

オレは存在すら忘れ去れるかもしれない。

だが、それも良いかと思っていた。そうなればどこかでひっそりと時間を忘れるくらいのんびりと自堕落に生きていこうと思っていた。

『何故?お前は綺麗だ。見ていて飽きない。』

ヴァレリーの言葉にオレはここが戦場だということも忘れて顎が外れんばかりに口をぽかんと開いた。

『...はぁっ?!お前、何言ってんの?!』

その言葉を返すまでに数秒を要した。

まさか眷属の中で最も美しいと称されている男から「綺麗だ」という言葉を言われるとは思ってもみなかった。

『あぁ、道が開けたな。それでは、お前はどちらへ行く?』

オレの動揺など気にも留めていないヴァレリーは、一際大きな魔族が消えたことによりぽっかりと明いた穴を指差した。

『...右だ。』

『それではわたしは左へ。』

ヴァレリーはいつもの無表情に戻っていた。オレも動揺を収め、ヴァレリーと背中合わせで頷いた。

『じゃあな。頂上で会おうぜ。』

オレの言葉に、ヴァレリーは応えなかった。その代わり、再び背後でふっと笑う気配がした。





―――結論を言うと、魔族は滅ぼされた。

それから1万と5千年ほど後。

魔族の拠点であった山があった場所には大きな穴が開き、美しい湖が出来ていた。

様々な生き物が命を繋ぐ、緑豊かで平和な大陸。オレが神に願った通りの世界。

そんな世界に、オレは人間として生を受けた。ヴァレリーも同じくだ。

神々の眷属と魔族の戦いは、人間たちの間では神話として語り継がれていた。

王城の中にはその神話をモチーフにした大きな絵画が飾られているらしい。見たことがないからどんなものかはよく知らないが。

「そういえば、ヴァレリーは王城にある神話の絵を見たことがあるのか?」

昔のことを回想している間に食事を終えたヴァレリーに問いかける。

ヴァレリーは王城に勤めているから、見たことがあるかもしれない。

「あるよ。」

「へぇ。さすが宰相府の有望株。」

ヴァレリーは幼い頃から秀才と言われていた。そういえば昔からやたらと頭の回転は速かった。

こいつの華麗かつえげつない作戦で葬られた魔族は数知れず...

その才を転生後も遺憾なく発揮した結果、ヴァレリーは最年少で宰相府に引き抜かれたのだ。

「アナも見たい?」

「そりゃ見てみたいな。」

オレがそう答えると、ヴァレリーは満面の笑みを浮かべた。


...転生してから一番驚いたことは、ヴァレリーの笑顔のオンパレードだ。

オレたちが再会を果たしたのは、オレが生まれて間もない頃だった。ご近所さんだったのだ。

まだ赤ん坊だったオレはヴァレリーを見て大声で泣き喚いた。というか、感情を表現する方法がそれくらいしかなかった。

『なんでお前がこんなところに?!』

その驚きを表現しようとしたら、泣き喚くという行為になってしまったというわけだ。

ヴァレリーはそんなオレに少し困ったような顔をして、おずおずと手を伸ばしてきた。

オレはそれにもさらに驚いて、涙を引っ込めポカンとヴァレリーの顔を見つめた。

すると、ヴァレリーはふわりと、柔らかな笑みを浮かべたのだ。オレがさらに大きな衝撃を受けたのは言うまでもない。

『ずっと待ってたよ。』

そう言って、ヴァレリーはまだ幼いその両腕にオレを抱きかかえた。

それからオレは、ヴァレリーと意志の疎通を図るため様々な試みをした。

オレが前世で神の眷属でしかも男だったということを両親に説明してくれという頼みを、身振り手振りで伝えようとした。

両手を振ってみたり、手に平を何度も握り締めたり、両足をバタつかせたり、きゃっきゃと笑ってみたり、急に泣いてみたり。

―――全く伝わらなくて「何を言ってるのかわからないよ」と笑ってスルーされた。

ようやく言葉が話せるようになった頃には自分たちの生きた世界が1万と5千年も前のことで神話にような存在になってしまっているということを理解し、自分が何者であったかということを両親に伝えるのは自分のためにならないということを悟った。

それでも色々と諦めきれず、元々剣を振るうことが大好きだったオレは騎士とやらになる為に身体の鍛錬を行い始めた。

黙々と腹筋背筋懸垂を繰り返す5歳児...さぞかし不気味だっただろう。

傍らにずっと控えていたヴァレリーは、ニコニコと微笑みながらオレの不気味な行動を見守っていた。

女が騎士になれないと知ったのは、それから3年後のことだった。

その間ずっと鍛錬していたにも関わらず、オレの肉体は一切筋肉をつけなかった。何故?!と絶望するオレの傍らには、やはり穏やかな笑みを浮かべるヴァレリーがいた。

...そういえば、こいつは神にオレと共に居られるようにと願ったと言っていた。

人間に転生、そして何故オレだけが女に生まれ変わったのかは謎だが、ヴァレリーの願いは神によって叶えられたわけだ。


「そうだねぇ。3年後には見せてあげられるかな。」

ヴァレリーのどこか含みのある言葉に、オレは首を傾げた。

「3年後?なんだよ、もったいぶんなよ。」

見れるなら今すぐ見せてくれ。オレは気が長いほうじゃないんだ。

「色々と準備しなくちゃいけないし。それにまだ、その時じゃないんでね。」

「ふぅん。」

もしかして、城内の絵画を一般公開しようっていう動きがあるのか?

宰相府にいるなら、それくらいの情報を察知出来るのかもしれない。

だが、どうやらまだそれを口にするのは時期尚早らしい。ヴァレリーは慎重な男なのだ。

「じゃあ、その時が来たら一番にオレに見せてくれよな!」

無邪気にそうねだったオレに、ヴァレリーは蕩けんばかりの微笑みを浮かべた。

「勿論。特等席で見せてあげるよ。」

「おう!楽しみにしてる!」



オレは知らなかった。

この時のオレとヴァレリーのやり取りを両親が嬉しそうに見守っていることを。

店にいた男共が悔しそうに歯軋りをしていたことを。

そして、ヴァレリーの言う3年後に成人を迎えたオレの人生が怒涛の急展開を迎えることを。



―――オレは知らなかったんだ。


裏設定


・ヴァレリーはアナトール(アナ)が転生してくる以前にも何度も転生を繰り返している。


ヴァレリーの願いは眷属としては少し度を過ぎていた(リスキーな思想)だった為、神はその願いを叶えるためにいくつか条件を出しました。

アナが転生してくる1万と5千年の間に何度も人間として転生を繰り返し、その度に国や大陸の危機を救う為にその身を捧げ、ようやく巡り合えたのでした。


よかったね、ヴァレリー。


ちなみに1万と5千年前のヴァレリーは冷徹そうに見えて根は素直だったので自分の願いをどストレートな言葉で神に伝えた模様(アナトールに語ったような言葉ではなかった)

結果、神は「おいおいwでもまぁ大丈夫☆わたしに任せなさい」ってなノリで条件という無茶振りをヴァレリーに言い渡したわけです。


いつかここらへんの話も突き詰めて書けたらいいなぁ。

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