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桜の下で君を待つ  作者: 汐井サラサ
第六章:miss each other
94/166

―7―

 ***


「で、何かあったのか?」


 何かあったのはどっちかといえば、俺の方なんだけど。自分から、真に相談するような気にはなれなかった。


「最近、透に会ったか?」

「ん? 会ったぞ」

「本当か?!」


 ファーストフード店で向かい合わせに座っていた俺に、真は身を乗り出して真意を確かめた。俺がそんな嘘を吐く必要はどこにもない。そのくらいは分かるはずだろうけれど、真は時々、色んなことを見落としている。

 俺は微妙に身体を引いて「まあ、座れよ」と促してから頷いた。


「ああ。本当だよ。昨日大学の図書館で会った。その透がどうしたっていうんだよ」

「―― ……なんだ。そうか、大丈夫なら良いんだ」


 ―― ……かたん


 俺の返答に脱力した真は呟くようにそういって、ようやっと静かに椅子に腰掛けなおした。


「いや。連絡もとれないし、メールも送ってこないから、ちょっと気になってたんだ。前に何か悩んでいたみたいだったから」

「―― ……悩んでた、か」


 そういえば、前に店に顔を出したときも様子が少しおかしかった。

 何かを愚痴っていたが……何の脈絡もないようなことを淡々といっていたような気がする。


「古河なら、何か聞いてるかと思ったんだけど、昨日何か聞いたか?」

「いや、別に何も聞いてないけど……どうして、俺に話してると思うんだ?」

「透の奴。案外お前には、気を許してるところがあったからさ。俺にいわないことでも知ってるんじゃないかと思ったんだよ」


 ―― ……そうか?


 真の話には、いまいち納得はいかなかったが、訪ね返したりはしなかった。

 透が俺を? そうだろうか? ぴんとこないが、他人から見たらそう見えたという話だろう。それで、今日の用はそれだけかと聞こうとしたら、正面に座っている真が目を丸くした。

 どうした? と重ねるより早く、ずしんっと俺の肩は重くなる。


「どうしちゃったのかなぁ? 克己くぅん」

「別にどうもしてない……お前、重い」

「透っ!!」


 真の大きな声に「大きな声出さないのー」といつものように笑いながら、俺の肩をぽんぽんと叩いて追い越すと、真の隣に腰を下ろした。


「お前。今まで何やってたんだよ。それに」

「ん? 真が、メールでここに来いって送ってきてたじゃん」


 真の動揺を他所に、さも当たり前にそこにいるように透はポテトをつまんでいた。


「で、克己に何か、あったのか?」

「いや、俺のことじゃなくて、真がお前の事を……」


 ―― ……RRR……RR……


「あ、悪い。ちょっと、席はずす」


 俺達を呼び出した張本人の真が携帯片手に席を外してしまった。

 多少呆れ気味にその後姿を見送って、小さく溜息。俺に用なんてないから、なんとなく黙ったら


「で、お前顔色悪いけど? どうした?」


 そう問い掛けてきたのは、透の方だ。透の表情からは笑顔が消えて、真摯な対応になる。


 どうしてこいつは他人の機微に敏感なんだろうな。いうほど、顔に出ているとは思わない。現に真はそんなこと一言も触れなかった。


 俺は苦笑して、肩をちょっと竦めて「別に」と答える。

 不思議と俺自身もこいつには隠す気にはなれなかった。が、今回ばかりは、話す気にもなれなかった。



 ***



「白羽さん。お昼にしても良いわよ」

「ええ。そうですね」


 結局、葉月チーフの外回りに付き合ったあと、持ち出していた資料の整理をしていたら、いつの間にか、お昼を過ぎていた。


 もう少しで乱雑になってしまった書類も元の形に戻るし。午後からは、資料室に戻しにいけそうね。


 一息吐いた私は、あやを誘いに向かった。

 そして、珍しくあやを掴まえることに成功した私は、二人で社外でランチを取ることにした。他愛のない話をしながら歩いていたのに、ふと、あやが足を止めたので私も同じように立ち止まる。


「あれ、克己じゃない?」


 あやの指差す方にはファーストフード店がある。促されるままに視線を移すと、確かに座ってるのは、克己くんだ。目立つから直ぐに分かる。

 向かい合ってるのは、透くんかな? クリスマスパーティーの時にいた。

 その隣の子も、その時にいたような気がする。


「何か、三人とも、小難しい顔してるわね」

「―― ……そう……だねぇ」


 あやのいうとおり、三人とも何だか、難しい話でもしているように見える。仲の良い友達とつるんでわいわいという雰囲気ではない。


「寄る?」

「ううん。良いよ。割って入れる雰囲気じゃないし……」

「それはそうね」


 それにまだお怒りの最中だろうから、私は冷たい洗礼を受けることになるだろう。だとしたら、やっぱり一対一が良い。


「あ、そういえば、いうの忘れてたけど」

「何?」

「静也。ここ離れるわよ。確か、イタリアの方に行くらしいような、書類が出来てたと思うわ。ロンドンは無理だった見たいだけどね。良いんじゃない? 国内支社はどうしても嫌だったみたいだしね」


 ―― ……そっか。


 そうか。小西さん。

 行っちゃうんだ。


 あやの話に小さく頷いたが、何だか複雑で返す言葉は見つからなかった。


「まぁ、あんたが、無理しなくても、良いように転がす奴は勝手に転がっていくのよ。だから、あんたがいちいち、責任感じることないわ」

「―― ……そう、だねぇ」


 誰かが自分の選んだ道を正しかったと判断してくれるわけじゃない。

 結果を出すのは自分自身で、結局、小西さんも良いように進んだのなら、きっと私の判断は正しかったんだろう。


 ただ。

 ただ……私は、彼の進むべき場所を一つ削ってしまったことに違いはなかった。


 私の、今の生活は彼の削られてしまった道の上に成り立っているわけだ。小西さんには、悪いことをしてしまったかもしれない。


「だから、あんたが責任感じなくて良いって、いってんでしょうが!」


 黙り込んでしまった私は、あやにこづかれてしまった。


「ほら、笑いなさいよ。立ち直りの早さだけは負けないでしょう。あんたはもう別の道を歩いてんのよ。あんまし、ひっぱってたら、一緒に歩いてる人に失礼だと思いなさい」


 ―― ……新しい道。一緒に歩いてくれてる人……


「ふふ。そうだよねぇ」

「そうよ」


 本当に、あやのいう通りだ。

 本当に、あやはとても不思議。


 いつだって、私の欲しい言葉を簡単に探し当てて、告げてくれる。

 しみじみと感心していると、最後にぴしゃりと頭を叩かれて、二人とも同時に笑いが零れた。


 よし。元気でた。

 今日こそはしっかり……和解の道を模索するぞっ! っと……。


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