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桜の下で君を待つ  作者: 汐井サラサ
第五章:live with -2-
84/166

―9―

 ***



 寒いと思ったら、昨日は雪が降っていたみたいだ、歩道の端に薄っすらとまだ残っていた。

 ここらへんの雪は積もってもたいして綺麗とは感じられない。

 空気が汚れているせいか、あまり雪が白く見えないから。

 地元なら寒いときはとことん寒いし、周りに何もないから一面銀世界になる。畑と道端の境界線があやふやになって、落ちることも……ない。そんな間の抜けたことはやらない。うん。


 それにしても、もっと、歩きやすい靴で来るんだった。


 ショートブーツで出てきてしまったので、歩きにくくて適わない。今日は、仕事始めなので、大したことはないはずだし、残業抜きで帰宅出来るだろう。だから、帰りに雪に降られるってことはないと思うんだけどな。


 でも、その前に社長の挨拶とか、聞かされるんだよねぇ。今年の社の方針とか、プロジェクトの発表とか、それが結構な時間をとって、社員には辛い限りだし。そのあと社報で回ってくるから、二度手間感が拭えないんだよね。


 去年は確か、そのために2.3時間大ホールに閉じ込められていたことを思い出して、私は少し気が重くなった。


「おはよう。何、新年早々、肩落としてるのよ」


 ―― ……ぽんっ


 そんな私の肩を叩いたのは、あやだった。


「おはよう。今日は早いのね」

「失礼ねぇ……。別にいつも重役出勤してるわけじゃないわよ。それに、今日は朝の準備があるから、あんたたちより、忙しいのよ」


 私の言葉に、笑いながらそこまでいうと「お先に」といって足早に追い越していた。

 そっか、今年の予定をロビーの電光掲示板に表示させなくちゃいけないから、今日あやは忙しいんだよねぇ。

 のんびりとあやの後姿を見送りつつ、私は足元に気をつけて慎重に会社へと向った。



 ***



 10時ごろに家を出た俺は、とりあえず学校へ向かうことにした。


 もう日も高くなりつつあるのに、まだ路上の雪は溶けきっていない。冷え込むわけだ。俺は足早に目的地へ向かった。


 まだ、休みは終わってなかったが年末同様、学内には割りと人気があった。このくそ寒い中、グラウンドを走っているクラブの奴らを横目に、研究室のある校舎へ急いだ。


 がらっ。


 軽くノックをして、静かに引き違い戸をあけて部屋へ入ったが、部屋にいたのは初老のおっとりとした感じの井川教授だった。


 俺は個人的にこの人が割りと好きで、雑然とした机の奥からゆっくりと立ち上がって「どうかしましたか?」と訪ねてくれた教授に思わず目を細めた。


「突然すみません。吉野さんは今日いらっしゃらないんですか?」


 そう聞いた俺をどう勘違いしたのか教授は「君もかい?」とでもいわんばっかりに微笑むと


「先ほどまでは、いらしたと思うのですがねぇ。今はいませんねぇ。何か、用があったんですか?」


 良く分からない、返事を返されてしまった。

 俺まで、吉野さんのファンの一人とでも思ったのだろうことは明らかだった。


 別にそれを否定する必要もないので、とりあえず彼女から頼まれていた書類を差し出すと、本当に用事があったことに驚いたのか、細められていた目を一瞬見開いたが、すぐにいつものおっとりとした表情にもどった。


「渡しておきましょうか?」

「そう、ですね。じゃぁ、頼みます」


 特に彼女に会う必要は俺にはなかったから、それで充分だった。

 俺の手の中から、そのファイルを受け取ってくれた教授に軽く会釈をして、俺は部屋を後にした。


 このまま帰ってもすることないし、図書館にでも寄っていくかな。


 昨日の雪雲がなくなり晴れ渡った空を、ふ……と見上げて足を進めた。


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