―8―
***
もう、そろそろ家に着いた頃かな?
ふと、時計を見るとそんな時間になっていた。ちょっと、様子を確認するため家へ電話をかけてみる。
RRR……RRR……RRR…RR…
十回以上コールしたのだけど、碧音さんは受話器を上げることはなかった。
まぁ、人んちの電話が鳴っても普通は出ないか。
じゃあ、携帯に。
……といっても番号が分からない。というか書いて残しておいたんだから、あっちから電話してきても良いだろ。
むすっと鳴った形跡のない携帯を睨みつける。
ことを、仕出かしたあとで別段、後悔等々しているわけではないが、本当に碧音さんはうちに来ているのか一抹の不安があった。
―― ……はぁ。
まだ、帰りそうな気配を見せない、透達を横目に俺は溜息を吐いた。
「浮かない顔だな」
そのまま、カウンター席の一つに腰を下ろしていた俺の隣に、グラス片手の真が据わった。
「別に、何でもない」
「まぁ、透もこういうの好きだからな。仕方ないだろ」
「それに、俺が付き合わされるいわれはないと思うんだけどな」
「そういうなよ。そんなに、嫌な気にはならないだろう。あいつは、お前のこと気に入ってるからな」
くすくすと、笑いながらそういった真は嬉しそうだった。一体どの辺りに喜んでいるのか、よくわからないが……。
本当、どうして、透が俺を気に入っているのか知らないが、嫌われているわけじゃないのは確かだろうし、まぁ、良いか。
「克己も飲んで良いですよ」
一体いつから、そこに居たのか、俺の前に、ことりとグラスを置いて、マスターはスノーホワイトを振り、グラスに注いでくれた。
「外、雪が降ってましたよ」
「え? ホントに? どうりで、今日は特別冷え込むと思った」
ちらりとガラス張りの外を見たが、街の明かりがつよくて、はっきりとは確認できなかった。
今夜は長い夜になりそうだな。
―― ……こくん。
「マスター。甘いこれ」
「そりゃそうですよ。これは、卵白のリキュールで……」
はぁ、マスターの薀蓄を聞きながら外を眺め、まだまだ続きそうな宴の終わりを心待ちにした。
***
「はぁ~。気持ち良かった」
ここのお風呂は本当に気持ち良いよね。私んちのお風呂よりずっと広くて、足も伸ばせるし。って、のんきに構えてる場合じゃなくって、私は怒ってるんだった。ついつい、怒りを忘れるところだった。
でも、ずっと怒ってるのも、体力がいるよね。
そして、私は勝手にお宅訪問を始める。
そのくらい別に良いだろう。
こっちが、寝室でしょ。
こっちは……かちゃ……書斎……か。
隣の部屋を、開けると天上までの本棚にびっしりと本が並んでいた。その前の、細長くて大きな白いデスクの上にパソコンが置いてあった。
―― ……そういえば、私のパソコンは?
そうだ。私の部屋は空っぽになってたのに、その荷物は一体どこにいったんだろう。
静かに部屋のドアを閉めて、きょろきょろと辺りを見渡した。残った部屋は、廊下を挟んだ反対にある部屋と、さっきちらっとみたウォークインクロゼットだけだから、きっとここだよね?
人ん家を、ごそごそとやっぱりちょっと悪いとも思ったけど、克己くんだって酷いことしてんだもん。
このくらい良いよね。と、自分で自分を擁護し納得させながら、疑わしい部屋のドアを開けた。
そこには、もう一つの書斎が存在した。強化ガラスで出来た、デスクの上には見覚えのあるパソコンが座っていた。
間違いなく私のものだ。
と、その横には二人掛けのソファーと小さなテーブルも置いてあった、ラックには本とワインセラー、その隣に、グラス。って、私は、そんなに酒飲みか?
まぁ、間違えてはないから良いけど。って、
「ん……?」
デスクに近づいた私の目に留まったのは、またまた、一枚の紙切れだった。そこには
『接続OK』
とだけ、書かれていた。克己くんの性格出てるな。
簡潔すぎでしょ、これじゃあ。
ぽちっと電源を入れるといつも通りに立ち上がった。ネットワークにも接続してあるようだ。なるほど、これがOKといいたいわけか。
ってことはプロバイダも変わったのかな? う~ん。聞かないと分からないな。
とりあえず、その他のものは寝室の方にもあって、一通りの貴重品(?)の位置は確認出来た。一安心して、リビングに戻った私は、克己くんの帰りを待つことにしたんだけど……。
一体いつになるんだろう?
盛り上がっていたX―クロス―を思い出して、なんとなく気の長い話になりそうだと思った。