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桜の下で君を待つ  作者: 汐井サラサ
第四章:live with -1-
65/166

―6―

 ***


 ったく、さっきからちょこちょこと鬱陶しいな。ていうか、マスターと優の姿がさっきから、見えないけど何やってんだ?

 二人の姿を探して俺は、裏へ顔を覗かせた。


「居ないと、思ったら。こんなとこで何やってんだよ」


 調理台の上でシャンパンを、今日あいつらのために仕方なく作ったオードブルの残りをつまみに、いっぱいひっかけていた。


「今日は、皆さん克己のお客様でしょう。ちゃんと、お相手してあげてくださいね。私たちはここで今日はお休みです」


 にっこりと笑みを湛えながら、マスターがいう台詞に同乗するように「よろしくねぇ」と優が小さく手を振った。

 マスターのいうことは間違っていないような気がしないでもないが、優は違うだろう。全く、手伝えよ。


 ―― ……あ。そうだ。


 今日は、ブッシュ・ド・ノエルを焼いてきたんだった。

 昨日は、生ケーキだったから、今日はロールケーキにしようと思って、ええっと。

 冷蔵庫から、それを取り出した俺は、カウンターで一人になっている碧音さんのところへ運んだ。


「おい。何やってんだ」


 人が目を離した隙に、さっきまであやが座っていた席に透が座っていた。


「お? おかえり。何それ美味そう」

「お前のじゃね~よ。さっさと、戻れ。冗談が過ぎると、本気で怒るぞ」

「いやん。克己くんてば、怖いんだから。怒られると怖いから、か~えろっと。じゃぁね。碧音ちゃん」


 ひらひら~っと、手を振りながら、透は自分の席へ戻って行った。そんな、あいつを碧音さんは笑顔で見送っていた。


 ―― ……全く、油断もすきもない。


「あいつ、何か変なこといってなかった?」

「うん? 別に挨拶ぐらいだよ。でも、どうして私の名前知ってるんだろう。克己くん仲良いの? あの子と?」

「別に、仲が良いってわけでも、ないけど。いっつも絡んでくるんだよ。全く」


 ぶつぶついいながら、持ってきたケーキをカットしていた俺を、碧音さんは笑顔で見ていた。

 ま、気分を害しているわけでも、なさそうだし。良いか。


「そうだ。今日俺の顔なんかおかしいか?」

「へ? なんで。普段と変わんないと思うけど」


 ―― ……だよなぁ。


 優もあやも、何だっていうんだ。

 意味深な言葉ばかりかけてくるから、顔になにか書いてるのかと思った。そんなはずないのに……。


「美味い?」

「うん。美味しい。克己くんって、何でも作れるんだねぇ」

「一緒に暮らしたくなった?」

「べ、別に食べ物で釣られたりしません!」


 本当に美味そうに食べながらそういった碧音さんを、からかうつもりでいったんだけど。俺の方が冗談が過ぎたようだ。


 碧音さんから、笑顔を消してしまった。


「ああっと、悪い。そんなつもりじゃなかったんだ。その……何か飲むものだそうか?」

「ううん。良いよ。これ食べたら帰るから、克己くんもみんなに参加しないといけないでしょう?」


 全く持って、一言多いんだよなぁ俺も。


「参加は、別にする気はないけど、最後まで付き合わないといけないから。今日は遅い」

「そう? お疲れ様」


 そういってくれた碧音さんの言葉には、心がこもってなかった。今まで、碧音さんからこんな感じを覚えたことはなかったのに。きりきりと腹の奥の方が痛む。

 もしかしなくても距離を置こうとか思われてるのか? 俺。


 ちゃんとした、説明と理解をと思ったのに、透たちに呼ばれてしまう。そんなもの無視して当然なのに、碧音さんがそんなことをさせてくれるはずもなく、俺は、渋々奴らの相手に回った。



 ***



 ―― ……ことっ。


 私は、静かに空っぽになったお皿の上にフォークを置いて、席を立った。克己くんはお友達の相手が忙しそうで、邪魔してはいけないかとも思い私は一人店を出た。


「ちょっと待てよ。どうして、何もいわずに帰るんだよ」


 エレベータがあがってくるのを待っていると、克己くんが駆けつけてきた。少し、顔が赤くなっている。飲まされたのかな。


「忙しそうだったから、悪いと思ったの」

「ああ? 悪くねーよ。黙って出て行くほうが、嫌だ」


 よく考えたら、私、克己くんが酔っ払ったとことか、見たことないな。まぁ、お酒も強そうだし、酔っ払ったりはしないと思っていたのだけどその実弱いのかもしれない。


「おい。上がってきたぞ」

「ああ、ごめん」


 ぼんやり、そんなことを考えてたからエレベータのドアが開いたのにも気がつかなかった。

 先に乗り込んだ克己くんが、ドアを抑えながら、待っていたので慌てて乗り込んだ。


 エレベータの中の密室は妙にひんやりしていて、息が白かった。


「て、何で克己くんまで、乗ってるの?」

「ん? 別に。見送りサービス」

「ははっ。何よそれ」


 あんまり、つまんないことをいうので、思わず噴出してしまった。


「―― ……良かった」

「え?」

「怒ったのかと思った」

「怒る? どうして、私が一体何に? どこに腹を立てるの? どうして? だって、どこにも……え……?」


 ―― ……ぽふっ。


 まくし立てるように一息にいった私をどう思ったのか分からないけど、克己くんは私を抱き寄せて少し笑っていた。


「克己くん?」

「いや、なんでもない。ちょっと、可愛いな、と……思っただけ……」

「うん?」


 語尾が小さくて上手く聞き取れなかった。

 聞き返したのに克己くんはただ笑ってるだけだった。返事のないまま、エレベータのドアは開いて、見送って貰った。


 白い息を吐きながら、空を見上げると星が見えなかった。通りが明るすぎるせいもあるのかもしれないけど、なんだかちょっと寂しい感じがして、私は小走りになった。

 早く。早く家に帰ろう。そう思いつつ、急いだのに


「これ……何? どうしたの?」


 私は、部屋へ戻って唖然とすることになる。

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