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桜の下で君を待つ  作者: 汐井サラサ
第三章:falseness
52/166

―20―


 ***



 何だか、今日は時間が経つのが早かった。

 もっとゆっくり、じっくり流れてくれれば良かったのに、一人でぼやきながら一足先に仕事を切り上げ、展望ラウンジへ上がっていた。


 この階には、展望フロアのほかに、カフェと小さなフランス料理のお店があった。基本的に私はイタリア料理の方が好きで、あまりここへ足を運ぶことはなかった。


 夏場ならまだまだ明るいこの時間も、もうすっかり日は落ちていた。


 オフィスビルの最上階から見下ろす眼下は、冬場というかクリスマス独特のイルミネーションでにぎわっていた。

 その様子を、見下ろしていると、心は風が吹き抜けていったように、冷え冷えとした。

 これから、私は一体どうなってしまうんだろうか。

 私の出した結果は「吉」とでるのだろうか「凶」と出るのだろうか……自信はなかった。


 でも、心は決まっていた。私はどうしようもなく融通が利かない。


 日中もそのことで頭がいっぱいで、考えまいと努力してもそんなのは、無駄でしかなく、大きくため息が漏れてしまう。

 しかし、逃げるわけには行かない。なんといっても、これは私の人生の分岐点なんだから。


 ぼんやりと待ちぼうけしていると懐かしい気分になる。私は待ち時間をそんなに苦に感じたことはない。


 ***



「よし。完璧」


 俺には他に思いつくことが無かった。

 誰かのために何かをするなんて、これが初めてだったし、こんなもので良かったのかどうかも分からない。

 でも、少なくとも俺が出来ることといったら、こんなもんだ。


 そう一人で納得した俺は、今夜は冷え込むだろうと予想して、出来るだけ厚着をして部屋を出た。特に約束を取り付けているわけじゃない、会えるとも限らない。だから、どっちにしても待つことになるだろう。


 そして向かった先は、あいつの会社のあるオフィスビルだった。碧音さんの家の方で待っても良かったのだけど、昼間あやからメールがあって、そこで待てということだったから。


 そうやって、考えると実際問題、今足を運んでいるということは、あやの「策略」とやらに結果的にはまってしまっているだけで、そこに俺の意思があるのかという問題になってくると、どうなんだろう。


 そんなこと、いくら考えても今の俺に答えなんて見つからないだろう。だったら、いっそなんだっていい。あやの策略にはまってやろうじゃないか。そんな気にすらなっていた。


 俺のマンションから、そこまではそんなに離れてはいなかった。今夜はクリスマスイヴというのも重なって、街のイルミネーションはまぶしいくらいだ。そんな街中を行きかう人々は、今日、このときを惜しみなく楽しんでいるようだった。


 この遊歩道の先に見える、ビルが目的地なのを確認して、俺はその傍のベンチに腰を下ろした。


「―― ……さむっ」


 座った場所も冷たかったが、風が吹くと刺されるような刺激に襲われた。


 ―― ……頼むから、早く出てきてくれ。でないと、俺は凍死しちまうぞ。


 思わず泣き言が入ってしまう。

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