―19―
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太陽が登るとかなり頭がすっきりしていた。
お天気も上々だ。
いや、ちょっと寒いけど。
昨日の私は世界で一番不幸に見舞われた様に落ち込んでいた。
でも、考えてみれば、あれが初めてというわけではない。大体、分かっていたことだ。自分がどれだけ詰まらない女か、なんてこと。
だから、これもいつも通り、そして私が導き出す答えもたった一つ。
私は馬鹿だから、もう、どうしようもないのだ。
悩むだけ無駄。
自嘲的な笑みを溢して、いつも通りに会社に向う。ほんの少しまだ目ははれぼったいけど、休憩ごとに冷やしていけば、夜には少しはましになるだろう。
私は小西さんのことが好き。
あやのことも好き。
だから、本当にどうしようもない、私の考えは変えられない。
今朝方私は小西さんにメールを打っておいた。
会社の最上階の展望ラウンジで仕事が終わったあと、待ち合わせ……ということで……。
「んん~……っ!」
大きく深呼吸して、私は出社した。
***
『まぁ、あんたに任せるから何とか上手く慰めといてあげてね』
とかなんとか、勝手なこといいやがって……。
俺に一体何が出来るんだよ。
昨日から俺はそんなことで頭がいっぱいで、気が散ってしょうがなかった。誰かを、慰めたり元気付けたりなんて、俺は今までしたことないし。
一体どうしてやったら良いのか、全く見当がつかない。
そもそも、なんで俺が……と思わなくないのに、はっきりノーといえなくて、ずるずると……。オカシイ、俺はもっとハッキリした人間だった筈なのに。どうしてあやには気圧されてしまうんだ。
それに、今日はあいつが小西に返事を出す日だろう。
答えは、一体どっちに傾くんだろう。
あの様子では、どっちに折れるか俺には分からない。
「女って、何されたら元気になるかなぁ」
「おい?! 克己? 大丈夫か?」
―― ……しまった。
つい考えるあまり、つまらないことを口にしてしまった。
真が目を真ん丸くして俺を見ている上に、透には激しく揺さぶられてしまっている。
ていうか、休みに入ったのに学校に付き合ってるんだから、感謝して欲しいぐらいなのに、この扱いは何なんだ。
「き、気持ち悪くなるからやめてくれ」
「ああ。悪い。心ここにあらずかと思ったら、急にうわ言のように不気味なこというから、つい、驚いたんだ」
無茶苦茶に揺さぶるからむせてしまった。
「で、誰を元気付けるんだ?」
「あ~……いや。何でもないんだ」
心配そうに俺の顔を覗き込んで尋ねてきた真に、何て説明して良いのか分からなくてそう答えてしまった。それに、真面目に説明しようものなら、真は俺よりも真摯に頭を傷めそうだ。
真はそれでも俺から話を掘り下げたそうだったが、あっさり透がスルーして俺に、なぁなぁ! と、纏わりついてくる。
「克己。今日バイト休めよ。イヴだぞイヴ。仕事しにいくなんて、お前くらいじゃないのか?」
確かに、今日バイトには行かない予定だった。昨日の帰りにマスターにはいっておいた。
しかしそれは、こいつらのためじゃなくて、もっ! もちろん、あいつのためでもなくて、だな……いや、ただ、だるかったから……とか、そう! だから休んだんだ。透に付き合う気は頭から無かった。
「だってよぉ。真だってさ、今日は瑠香ちゃんと会うんだってよ。俺一人ぼっちや~ん」
「え? そうなのか?」
透のぼやきに驚いて、思わず真に目を移した。
「いや、まぁ。そんな感じだ。ちゃんと、話とこうと思ってさ」
照れくさそうにそういって顔を赤らめて、席を立った。「ちょっと、悪い」そういって俺達から離れた。どうやら、バイブレーションに設定してあった携帯がなったようだ。
「イヴに一人ぼっちなんて、寂しいよぉ」
「はいはい。でも、俺は今日は付き合えないんだよ。我慢しろ」
「はぁ~……。小春ちゃんとデートなのぉ? 克己ちゃん」
「小春? 誰だよ、それ?」
透が突然、謎の女の名前を挙げたので思わす怪訝な顔をしてしまう。
これ以上問題のある女を増やさないでくれ。
そんな俺に悪びれるふうもなくにやにやと答えた。
「例の克己の愛しちゃってる子だよ」
「ダレ? 碧音さんのことか?」
「なるほど。碧音ちゃんっていうのか。変わった名前だけど。うん。そんな感じかもな。名は体を現すってか?」
「いや、愛してないしっ!」
思わず全力否定したあとで、やっと透にはめられたことに気がついた。透は、そんな悔しそうな顔をしてしまった俺をみて、声を上げて笑っていた。