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桜の下で君を待つ  作者: 汐井サラサ
第三章:falseness
51/166

―19―

 ***


 太陽が登るとかなり頭がすっきりしていた。


 お天気も上々だ。

 いや、ちょっと寒いけど。


 昨日の私は世界で一番不幸に見舞われた様に落ち込んでいた。

 でも、考えてみれば、あれが初めてというわけではない。大体、分かっていたことだ。自分がどれだけ詰まらない女か、なんてこと。

 だから、これもいつも通り、そして私が導き出す答えもたった一つ。

 私は馬鹿だから、もう、どうしようもないのだ。

 悩むだけ無駄。

 自嘲的な笑みを溢して、いつも通りに会社に向う。ほんの少しまだ目ははれぼったいけど、休憩ごとに冷やしていけば、夜には少しはましになるだろう。


 私は小西さんのことが好き。

 あやのことも好き。

 だから、本当にどうしようもない、私の考えは変えられない。


 今朝方私は小西さんにメールを打っておいた。

 会社の最上階の展望ラウンジで仕事が終わったあと、待ち合わせ……ということで……。


「んん~……っ!」


 大きく深呼吸して、私は出社した。



 ***



『まぁ、あんたに任せるから何とか上手く慰めといてあげてね』


 とかなんとか、勝手なこといいやがって……。

 俺に一体何が出来るんだよ。


 昨日から俺はそんなことで頭がいっぱいで、気が散ってしょうがなかった。誰かを、慰めたり元気付けたりなんて、俺は今までしたことないし。

 一体どうしてやったら良いのか、全く見当がつかない。

 そもそも、なんで俺が……と思わなくないのに、はっきりノーといえなくて、ずるずると……。オカシイ、俺はもっとハッキリした人間だった筈なのに。どうしてあやには気圧されてしまうんだ。


 それに、今日はあいつが小西に返事を出す日だろう。


 答えは、一体どっちに傾くんだろう。

 あの様子では、どっちに折れるか俺には分からない。


「女って、何されたら元気になるかなぁ」

「おい?! 克己? 大丈夫か?」


 ―― ……しまった。


 つい考えるあまり、つまらないことを口にしてしまった。

 真が目を真ん丸くして俺を見ている上に、透には激しく揺さぶられてしまっている。

 ていうか、休みに入ったのに学校に付き合ってるんだから、感謝して欲しいぐらいなのに、この扱いは何なんだ。


「き、気持ち悪くなるからやめてくれ」

「ああ。悪い。心ここにあらずかと思ったら、急にうわ言のように不気味なこというから、つい、驚いたんだ」


 無茶苦茶に揺さぶるからむせてしまった。


「で、誰を元気付けるんだ?」

「あ~……いや。何でもないんだ」


 心配そうに俺の顔を覗き込んで尋ねてきた真に、何て説明して良いのか分からなくてそう答えてしまった。それに、真面目に説明しようものなら、真は俺よりも真摯に頭を傷めそうだ。

 真はそれでも俺から話を掘り下げたそうだったが、あっさり透がスルーして俺に、なぁなぁ! と、纏わりついてくる。


「克己。今日バイト休めよ。イヴだぞイヴ。仕事しにいくなんて、お前くらいじゃないのか?」


 確かに、今日バイトには行かない予定だった。昨日の帰りにマスターにはいっておいた。


 しかしそれは、こいつらのためじゃなくて、もっ! もちろん、あいつのためでもなくて、だな……いや、ただ、だるかったから……とか、そう! だから休んだんだ。透に付き合う気は頭から無かった。


「だってよぉ。真だってさ、今日は瑠香ちゃんと会うんだってよ。俺一人ぼっちや~ん」

「え? そうなのか?」


 透のぼやきに驚いて、思わず真に目を移した。


「いや、まぁ。そんな感じだ。ちゃんと、話とこうと思ってさ」


 照れくさそうにそういって顔を赤らめて、席を立った。「ちょっと、悪い」そういって俺達から離れた。どうやら、バイブレーションに設定してあった携帯がなったようだ。


「イヴに一人ぼっちなんて、寂しいよぉ」

「はいはい。でも、俺は今日は付き合えないんだよ。我慢しろ」

「はぁ~……。小春ちゃんとデートなのぉ? 克己ちゃん」

「小春? 誰だよ、それ?」


 透が突然、謎の女の名前を挙げたので思わす怪訝な顔をしてしまう。

 これ以上問題のある女を増やさないでくれ。

 そんな俺に悪びれるふうもなくにやにやと答えた。


「例の克己の愛しちゃってる子だよ」

「ダレ? 碧音さんのことか?」

「なるほど。碧音ちゃんっていうのか。変わった名前だけど。うん。そんな感じかもな。名は体を現すってか?」

「いや、愛してないしっ!」


 思わず全力否定したあとで、やっと透にはめられたことに気がついた。透は、そんな悔しそうな顔をしてしまった俺をみて、声を上げて笑っていた。

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