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桜の下で君を待つ  作者: 汐井サラサ
第三章:falseness
43/166

―11―

 ***



「それはやっぱり『LOVE』だな」


 ―― ……はぁ。


 こいつに話すんじゃなかった。

 意気揚々とそう発言した透に、俺はほんの少し話したことを後悔した。


「今“またか”って思っただろ? それは違うぞ。克己くん」


 ―― ……勝手に俺の心をよんでんじゃねぇよ。


 机に肘をつき俺は項垂れていた。


「だってよ。お前がそんなことくらいで、落ち込んでるなんてらしくないじゃないか」

「そんなことくらいって」

「そんなことだよ。ファーストキスとか、いうんじゃないだろうにさ、その相手も」

「まぁ、それはそうだな」


 透のいうことも一理ある。

 しかし、俺は無抵抗な相手にだな……。口に仕掛けてその台詞は飲み込んだ。

 碧音さんショック受けてるだろうしなぁ。泣いてたし、というか俺が泣かせたんだけど。そんな考えが俺の頭の中をぐるぐると回って、何一つ答えなんて出せる状態ではなかった。

 そう答えが見付からない。だから透に話したんじゃないか、真面目に答えろよな。


「で、その相手ってここの奴?」

「そんなこと、知ってどうするんだよ」

「ん? 興味あるだけだけど」


 透はつまらないことに噛み付いてしまった俺にきょとんとしていた。


「まぁ、お前は知らない奴だよ。店の客だしな」

「ああ。前にカフェの前であった、何かほんわりした子のことか?」


 ―― ……がつんっ!


「い、ってぇ!!」


 考える間もなく答えられてしまったのに驚いて組んでいた足を机にぶつけてしまった。


「そんな、焦せんなよ。まぁ、図星なのは分かるけどさ」

「お前覚えてるのか?」


 素直な疑問だった。ちらっと会っただけだ。いや、明確には遠目で見ただけだと思う。あのときは俺一人が輪を外れたはずだったし……。俺は打ったひざを大仰にさすりながら聞き返した。


「女の子の顔は忘れないって。結構かわいい子だっただろ?」

「可愛いって。年上だぞ。とりあえず」

「何だ、お前結構、月並みなこというんだな」

「だから常識人なんだよ」


 なんだか、前にもこんな会話誰かとしたような気がする。


「ふぅん。良いんじゃないか」

「何が、良いんだ?」


 感慨深げに頷いている透に眉を寄せる。そんな俺に透は物分りの悪い子どもを諭すように話を続けた。


「お前が悩んでるってことは、それだけその子のことが重いわけだろ。その気持ちを『好き』だと解釈しても良いんじゃないかっていってんだよ。現に謝ろうかどうしようか迷ってるわけだしな。ほら、それがもし麗華さんや、瑠香ちゃんだったら、お前悩んだか? それに早紀にはもっと凄いことしてんだろ?」


 もっと、凄いことって……失礼なこというなよ。いや、まぁ、何をしたか覚えていない以上何ともいえないけどな。

 考えても見なかったが……確かに麗華や瑠香だったらなんとも思わなかったかもしれない。

 早紀にも何とも思わないし。正直あんなことをされていい迷惑だというくらいの感情しか湧かない。早紀に関しては、まずいことをしたのは確かなはずなのだけれど。


 思わず傷を負った腕をさすった。


 碧音さんだったから、彼女だから忘れることも出来ずに気に病んでいるんだろうか? 申し合わせなければきっともう二度と会うこともないだろう相手だ。いつもの俺なら……どうでもいいで、済ませられることのはず、そのはずだった……。



 ***



 あやと二人でオフィスビルを出ると、町はクリスマス一色に変わっていた。

 良いよね。

 クリスマスって一年のうちで一番好きなイベントかもしれない。

 自分の吐く息が白くなっているのを見ると本格的に冬になったことが確認出来る。冬の寒さは人恋しくさせる。


「ねぇ、今日、夜開いてる?」


 あやのいつものお誘いだ。

 私はやれやれと思いつつ首を横に振った。

 どうしても、今そんな気にはなれない。出来ることなら、小西さんと一緒に居たいくらいだ。なんとなくあれから私から連絡を取れていない。いつも通りの短いメールのやりとりはあるものの、私は今小西さんの顔を真っ直ぐに見る自信があまり持てない。

 私は悪くない。そう思っても、私に全く非がなかったわけではないだろう。


「ええ。どうして? 良いじゃない。付き合ってよ」

「今日は勘弁して。そんな気分じゃないんだよ」

「じゃあ、どんな気分なわけ?」


 ちょっと意地悪そうな笑みを浮かべたあやが突っ込んでくる。

 別に、こうって理由はないんだけど。


 どうせ待ち合わせに『X―クロス―』を使うんでしょ。行きたくないんだよね。


 ―― ……今はまだ。


「そんなに、弱った顔しないでよ。良いわよ、別に。そんな日もあるでしょ」


 かなり弱った顔をしていたんだろう。

 そんな私を見てそういいながらあやは腕を絡ませてきた。

 あやのこういうさっぱりしたところが、すごく楽に感じる。訊かれたくないことは、無理に問質したりはしない。

 でも、訊いて欲しいことはしっかり、聞いてくれる。

 そんなあやには無駄がないんだろうな。

 ほっと胸を撫で下ろした私は、あやに仲良くしてもらっていて、幸運だなと思う。私はやっぱり人には恵まれている。どこに居るのかわからない神様にもお礼をいいたくなって、ふっと空を仰いだ。

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