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桜の下で君を待つ  作者: 汐井サラサ
第三章:falseness
33/166

―1―

 ***



 あれから、一週間ほど何事も無く過ぎていった。

 あいつの風邪は治ったのだろうか? あやのほうは何度か店のほうに顔を出してはいるが、つれは決まりない連中だ。


「古河。大丈夫か?」

「あ? ああ。何かいったか?」


 隣にいたのは、珍しく真だった。

 調べたいものがあるとかいって、それに付き合って図書館の資料室に入っていたわけだが、山のような書籍を前に、俺はぼんやりとページを捲っていたようだ。


 ―― ……「解体新書の謎」って……。


 何でこんなもん読んでたんだ? 我ながら苦笑してしまう。


「何か悩み事でもあるのか?」

「いや、何でもない。ちょっと考え事してただけだから」

「そっか」


 そういって俯いた真のほうが大丈夫そうではなかった。


「で、お前の方が何かあったんじゃないのか?」


 つい、たずね返していた。

 普段ならこんなことまで触れたりはしないかもしれない気もするが何となく気になって。

 やはり真も同じように感じたのか、俺の言葉に少し驚いたような顔をしてこちらを見たが、すぐにその顔は伏せられた。


 そしてやや沈黙が落ちたあと「お前、瑠香のことどう思う?」そう切り出してきた。俺を見ることもなく、ぽそりと呟いただけ。体重を預けた椅子を傾かせて、ぼんやりと窓の外を見ている。

 だからつい


「俺に聞いてるのか?」


 そう聞きなおしていた。そんな俺の返答が気に入らなかったのか、真は、かたんっと椅子を元の位置に戻して、不機嫌そうにこちらを向いて「当たり前だろ」と眉間の皺を濃くする。

 でも、俺には真の言葉の真意が分からない。分からないから普通に首を傾げた。


「で、どうってどういう意味?」

「どうって、そのまんまだよ。だから」

「何だ、お前やっぱまだ、好きなんだろ?」


 その一言に真の視線は泳いでいた。こいつも物の隠せない人間だな。

 こういう奴を見ていると何となく微笑ましくなる。


 あいつみたいだな。


 ふと、その姿を思い出しかけて『あいつって誰だよっ』と心の中だけで毒づいた。そして、今俺のことはどうでも良い。差し迫った真の話は、至極簡単なことだと思う。


「もっかい、くっつけばいいだけの話じゃないか」

「簡単にいうなよ。だって、あいつは」

「あいつは? 何だよ?」

「だから……」


 なんでそこで口篭るのか理解出来ない。簡単じゃないってなんで簡単じゃないんだ。さっぱり意味が分からない。

 何だっていうんだ? 俺はそんな真の様子を伺うしかなかった。


「―― ……まだか?」


 あまりに返答が遅いので、つい、いつもの癖でつっこんでしまった。

 忍耐がたりないな…… ――。


「だから……今、瑠香は、きっと……」

「きっと? 何?」

「お前に興味持ってんだよ」

「……へぇ……」


 ―― ……しまった。


 あまりに間の抜けた声を出してしまった。

 真は今の俺の返答に少々腹を立てているようだ。真っ赤な顔をして俺を見ている。とはいえ、俺に怒るのはお門違いも良いところだ。別に俺と瑠香はただの顔見知り程度の間柄で、個人的なものは何もない。あっちもそう違わないと思う。もし、それが違っていたとしても


「いや、それでも、俺が興味あるわけではないからさ」

「っ! なんだよそれ。ていうか、お前が興味あるのは誰なわけ? 興味あるやつなんているのか?」

「俺にどうして欲しいわけ?」


 どう考えても、俺は真に絡まれているとしか思えなかった。

 俺に非があるとは到底思えない。かといって、それに乗ってしまっては元も子もないし。


「どうって……。だから、お前さ特定の彼女とか作んないの?」

「彼女?」

「そうだよ。それだったら、瑠香だって諦めつくだろうし、麗華さんに絡まれることもないと思うぞ?」

「―― ……」


 ―― ……はぁ。


 俺は言葉を失った。

 なんだか、腹が立ってきた。

 今、真がいってることは正しいのか? 何で俺が、そんなことをしなくちゃいけないんだ。


 瑠香が好きなら自分でなんとかすれば良い。

 何で人を巻き込むようなことをいうんだ。


 その場を立ち去りたい気持ちを抑えて、俺は何とか堪えていた。


「そのことなら、俺もそう思うぞ」


 そんな緊迫した雰囲気を崩したのは透だった。こいつの登場はいつも絶妙だ。

 どこから、俺たちがここにいるのが分かったのか、二人の間に、よっこいしょと、腰を下ろして話に入ってきた。


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