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桜の下で君を待つ  作者: 汐井サラサ
第二章:Fragile happiness
29/166

―17―

「これお見舞い」

「ん。ああ。ありがとう」


 ―― ……って……シャンパン……。


 私はあやに渡された箱を反射的に受け取ってまじまじと見つめる。

 何考えてるんだろう? まぁ、良いんだけど。

 つまり、お見舞いは口実で一杯ひっかけに来たわけか。


「碧音ちゃんは、寝てたほうが良いんじゃない?」

「そっ! そうですね。そうさせてもらいます」


 小西さんに声を掛けられて、思わず声が裏返った。慌てて頭とか顔とか撫で付けると、擦れ違いざまの克己くんに「変わんねーよ」と突っ込まれた。

 ほ、ほっといてよっ! 急に恋人が訪問してきたら普通焦るでしょう! 化粧もしてないし、髪だって綺麗に梳いてない……見られたい姿なわけないじゃないっ!

 って、そう思うなら、早く引っ込んでしまおう。私は結局そこに行き着いてパーティションで仕切られたベッドに向った。


 ―― ……ああ、そうだ、その前に。


 ふと思いついて、パーティションに手を掛けると、勝手知ったる他人の家。あやがちゃっちゃと飲む準備をしているのを、流れ的に手伝わされている克己くんに手招きする。

 怪訝そうにしつつも「何?」と歩み寄ってくれる克己くんに


「みんなにそれ開けてあげて、あと、それから……冷蔵庫のもの使って良いんだけど、その、えーっと私あまり自炊しないから……大したものないというか……」


 ごにょごにょと告げると「分かってるよ」と笑われた。


「病人は寝てれば良いから」


 むぅっとむくれたら意外にもそんな優しい言葉を掛けてもらう。え、と、目を瞬かせたらちゃんと続きがあった。


「そうそう、あんたは飲めないぞ?」

「わ、分かってるよ」


 にやにやと続ける克己くんに私は眉を寄せる。怒らないよ。怒らない。だって、今日は小西さんが来ている。ちらりと、小西さんを盗み見てによによする自分が気持ち悪い。同じことを思ったのか、克己くんが「キモイ」と溢した。

 さっさと行くっ! と失礼な克己くんを回れ右させて、その背中を押した。


 それにしても、私どれだけお酒にがめついと思われているんだろう。

 失礼な。

 確かに、惜しい気もしたんだけど。


 あれ結構いいシャンパーニュだった。

 でも、今は飲む気もしないし。


 ―― ……仕方ないか。


 そう思い直して私は再びベッドの中に落ち着いた。


 ―― ……


 暫らくすると、部屋に良い匂いがしてきた。

 きっと、克己くんがおつまみか何か作ってくれてるんだと思う。何か買ってきたのかな……先にいったように冷蔵庫には、たいしたものはなかったはずだし。

 料理をする克己くんを思い浮かべて、自分ももう少し自炊に精進しようとミジンコだけ思った。


「碧音ちゃん大丈夫?」


 そして、ごろりと寝返りと打ったところで、ひょっこりにっこり小西さんが顔を出してきた。

 私は慌てて上半身をおこし、申し訳程度に頭を撫で付ける。


「ああ、寝てて良かったのに」

「はい。いや、ぜんぜん大丈夫ですから。気にしないで下さい」


 私はしどろもどろになっていた。

 もともと、今日なんて思考回路がショートしてしまっているんだから、役に立たないのは分かってたんだけど。

 そんな私をさも可笑しげに小西さんは微笑んでいた。


 はぅぅ……その笑顔に弱いのです……。


「なぁ、おい。今日何か食べたか? お粥作ったんだけど。食えるか?」


 そんな中、克己くんが顔を覗かせる。

 きっと小西さんが傍にいたことに気がつかなかったんだろう。

 小西さんを確認すると驚いて謝罪してきた。


「あっと。わりぃ」

「かまわないよ、悪いね。気を遣わせて」

「いや……良いんだけど……え、えーっと、あんたがやる?」


 お盆に載せた小さな土鍋をちょこっと持ち上げた克己くんに、私は慌てて「大丈夫っ! 自分で出来るからっ!」と声を張り上げてしまった。その声に驚いて、かちゃっと食器が僅かに鳴った。


「僕は向こうへ行ってるよ。僕がいると碧音ちゃん喉を通らないといけないから」


 そんな居た堪れない私を見てか、そういって、にこにこ笑いながら小西さんはその場を離れた。


「何、気ぃ遣ってんの?」


 小西さんがリビングに座ったのを確認して、その変わりに近寄ってきた克己くんが不躾な質問をしてくる。

 私は眉を寄せて、不機嫌そうに「別に気を遣ってるわけじゃない」と、答えたが克己くんはその答え自体、興味なさそうに「あっそ」と頷いてサイドテーブルの上に食器を載せてくれた。


 柔らかくて暖かくて優しい香りがする。


「―― ……」

「ほら、熱いから気をつけて食えよ」


 黙っていたら、わざわざ、茶碗によそって手渡してくれる。ありがとうと反射的に口にしたけど、返事はなかった。その代わりに続けられた台詞に私はこくこくと頷いた。


「プリンも作ってきたけど食う?」

「―― ……食う」


 私の返事を確認して克己くんはキッチンへ戻った。

 確かにお腹はぺこぺこだったんだ。

 お腹の中全部出しちゃったし。

 じっと手の中のお粥に目を落とす。ふわりふわりと登る湯気が頬を撫で、優しい気分にしてくれる。それと同時に、昨日から迷惑を掛けっぱなしだなという気持ちも湧いてきて、申し訳なさ倍増だ。

 でもそんな気持ちを察することなく、お腹がぐぅと自らの要求に素直な音を立てた。

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