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桜の下で君を待つ  作者: 汐井サラサ
第二章:Fragile happiness
27/166

―15―

 そして定時になれば『X―クロス―』へ向かった。

 今日のお勧めは何にしようか。そんなことを考えながら…… ――


「良い香りですね。今日のデザートはプリンですか?」


 厨房で仕込み、というほどでもないが開店の準備をしていた俺にマスターが後ろからやんわり声をかけてくる。


「でも、ちょっと数が多いんじゃないですか?」

「ああ。2、3個持って帰っても良いだろ」

「それはかまいませんけど、克己甘いもの好きでしたか?」


 その問いに俺は答えなかった。答えるとしたら、どちらでもない。だけれど、その必要もあまりないだろう。マスターは俺の味覚にまで興味はない。


 今日は週末だから、混み合うことは予想出来た。

 その予想は裏切られることは無かった。


 まあ、そうはいっても店自体がそう大きいものではなかったし、5.6組入れば混みあってしまう。フロアーが混むと俺までが出なくてはいけなくなるから、基本的には好ましくない。


 優と違って俺は作り笑いというのが、本当に苦手なんだ。

 何で面白くも可笑しくもないのに、へらへら笑えるのか不思議なくらいだ。


 そんな中、また、お客が入ってきた。


「あら、今日も混んでるのね」

「何だ。あやか」

「何だとはずいぶんな発言ね。これでも、常連さんでしょ。大事にしなさいよ」

「で、今日はお一人で? カウンターでよろしいでしょうか?」


 とりあえず、うだうだいうあやに、マニュアルどおりに言葉を繋いだ。


「悪いけど、待ち合わせなのよ。できれば出入り口に近いところが良いんだけど」


 そういうあやに店を見渡すとちょうど席を立つ姿が見えた。


「あそこすぐ片付けるからそこで良いだろ?」


 あやがにっこり頷くのを確認して、案内した。

 席に着くあやに、タイミングよく優がおしぼりを運んだ。それと入れ違いに俺は裏へ引っ込んだ。


 待ち合わせ……。か、また、違う男かな?


 あやはよく“待ち合わせ”にこの店を使う。使うけれど相手が同じだったのは碧音さんくらいだ。


「今日は不思議な組み合わせだよ」


 暫らくして、注文をとってきた優が囁いた。

 あやの待ち合わせ相手が到着したのか。

 俺は何気なくフロアーを覗いた。


「あ、あれ?」


 一番に目に飛び込んできたのは、小西の姿だった。もう一人は、見覚えのない女が座っていた。

 二人ともスーツ姿だから、仕事の帰りだろうか?

 少しして、カウンターのほうであやの声が聞こえた。


「うん。その『リュイナール』で良いわ。箱にいれられる?」

「ええ、かまいませんよ。ちょっと、待っててくださいね」


 そのやり取りが聞こえると、マスターがシャンパンのボトルを持って、厨房へ入ってきた。


「克己。これ、箱におつめして。あやさんに渡してあげてください」


 マスターから受け取ったそれは『リュイナール』というとても人気の高いシャンパーニュ。黄金がかった黄色で、とても小さな気泡が上がって繊細で味も、と、薀蓄はどうでも良いか。

 いわれたとおりに箱に詰め終わった俺は、フロアーに出てあやの姿を探した。

 さっき案内した席には二人しか居ない。


 あやは、それを待つ間、カウンターの開いた席に座っていた。連れの二人はほったらかしだ。


 ―― ……全く、あやらしい。


「お待たせ」

 

 いってカウンターにラッピングの済んだ紙袋を載せる。あやはちらとだけそれを見て、口角を引き上げて、ありがとう。と、微笑んだ。あやの笑みは完璧だと思う。男が尻尾振るのも分かる。俺は振らないけど。


「で、今日はどういう組み合わせなんだ?」


 思わず訊いてしまった俺に一瞬不思議そうな顔をしたがすぐにいつもの顔に戻ると


「克己知ってるの? 静也のこと」

「あいつの、男だろ?」

「うん。そう、今のところはね。で、もう一人は弥生っていう、あの子の下についてる子よ」

「ふーん、妙な取り合わせだな」

「そうでもないわよ。だって、これからあの子のうちへいくんだもの。まぁ、静也は連れて行く気なかったんだけど。あの男、妙なところで目ざといのよ。勝手に行くっていいだして。着いてきたのよ」


 あんな状態のあいつのところへ、こんなメンバーでしかも見舞いはシャンパンで押しかけるって?! 一瞬俺は偏頭痛に襲われた。ぐりぐりと痛むような気がしたこめかみを押さえると、もっと頭の痛い発言が聞こえた。


「そうだ。克己もくると良いわよ」

「ええっ?!」

「マスター! 克己借りて帰っていいかしら」


 ―― ……待てっ! 待て待て……!!


 慌てて、あやの口を塞ごうとしたが遅かった。

 ここはホストクラブじゃないんだぞ!


 マスターはやれやれといった半ば呆れ顔で、ちらりと時計を見てから、あやの問いに頷いた。頷くな。俺を売るなっ!?


 ―― ……マスターもあやには弱いんだから。


 ふっかい俺の溜息を誰も気に止めてくれない。いつから俺はこいつらのおもちゃになったんだ。

 不思議な取り合わせは、がっくりと肩を落とした俺が加わってますます妙なものになってしまった。

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