表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜の下で君を待つ  作者: 汐井サラサ
第二章:Fragile happiness
25/166

―13―


 ***


 翌朝、目が覚めたけど。頭は冴えていなかった。

 相変わらず船乗り状態だ。

 気持ち悪い。


「おい。起きたか? 会社自分で電話出来るか?」


 ぐらぐらする身体を起こすと、ドア口でコーヒーカップを片手に克己くんが立っていた。

 そうだった、私は昨日克己くんちに転がりこんでしまったんだ。


 でも……


「電話って?」

「今日は休むっていっとけよ! って、いってんだよ。それとも、俺がかけるか?」

「あ、いや。ううん。私がする」


 確かに、こんな調子じゃ、出勤しても役に立たない。給料泥棒といわれても仕方ない感じになってしまう。

 そうはなりたくない。けど、昨日のことで休んだと思われてはみんなに悪い。


「大丈夫だよ。そんだけ声がかわってりゃ、誰も仮病だなんて考えねぇよ」

「……そっかなー……」


 って、克己くん私の心がよめるんだろうか?


 確かに、昨日とはうって変わって酷い鼻声だ。

 唾を飲み込んでも喉が爛れたように痛む。


 けほっ


 私は、何度か咳払いをしたが、声は変わらなかった。


「俺は、ちょっと学校いくけど、昼には帰るから。寝てろよ」

「ううん。帰るよ」

「真っ直ぐ歩けないだろ? そんな奴は黙って寝てろ。それ食ったら薬飲んで休めよ」


 そういって克己くんはサイドテーブルを指さした。

 そこには冷えた桃缶の中身が器に盛ってあった。


「―― ……ありがとう」


 そういうしか私に選択権はなかった。

 そんな私の言葉を確認して、克己くんは部屋を出て行った。


 一人残された私は、とりあえず会社に電話を入れようと携帯電話を取り出す。短縮ナンバーでコールしつつ、誰が出るのかは検討がついていた。


「どしたの? あんた、凄い鼻声じゃない」

「うん。風邪ひいちゃって、だから……」

「ああ。良いよ、あたしがいっといてあげるわ。で、大丈夫なの?」

「平気と思う。ちょっと、熱があって出ても役にたちそうにないからさ」

「そう、分かった。じゃあ、今日帰りにお見舞い行くよ。何かと一人じゃ不便でしょ。ちゃんと寝てるのよ」

「え? ちょ……っ!」


 私の返事を待たずにあやは一方的に電話を切った。


 それにしても、どういう風の吹き回し? あやがお見舞いなんて言葉を口にするなんて。最近私の周りがなんだか妙だ。

 それに今、私は、家にいるわけじゃないしお見舞いは困る。

 こうなってしまっては這ってでも帰んないと。

 私はぐらぐらする頭を気力でおこして、ベッドから出てきた。


「ええっと。着替え……」


 ふらふらとリビングまで出てくると、昨日びしゃんこになってしまった洋服がきちんとハンガーにかけられていた。

 シャツにはアイロンもかかっているようだ。


 克己くんって几帳面なんだなぁ。こんな子なら親も一人暮らしさせても安心だよね。


 そんな余計なことを考えながら、何とか着替えをすませた。


「何か、メモる物」


 お昼には帰ってくるといってたし、心配掛けてもいけないから、私は書置きを残しておくことにした。


 ***


「克己ーっ!」

「なっ!!」


 席についてぼんやりしていた俺に突然透が抱きついてきた。


「なっ、なんだよ! 離れろって!」

「もう克己くん大好き」


 調子に乗った透は頬擦りまでしてくる。

 もう、勘弁してくれ、俺は今考え事をしていたんだぞ。って、何を考えていたんだっけ?

 擦り寄ってくる透を突き放しつつ俺は我に返った。


「お前薄情だよなぁ。俺たちほったらかしにして帰っちまうんだから」

「失礼なこというなよ。朝早かったしお前らはぐーすか寝てたじゃないか。起こされなかっただけ良しとしろよ」

「まぁ、そんなことは良いんだけど、早紀がお前の連絡先聞いてたぞ」


 早紀? 誰だそれ……て、確認するまでも無いあの女のことだろう。

 しかし、残念なことにその女のことを思い出そうとしたが無駄で、思い出せたのは組み直す足くらいのものだった。


 うん、足の綺麗な女だ。


「で?」

「で、何考えてたんだ? もの凄く遠くへ行ってたぞ」

「別に、何も考えてないさ」


 俺の隣を陣取った透は「そっかなぁ」と納得いかない様子だったが、半ば何も話す気の無い俺を諦めたのかどうでも良いのか、ふとこの間の話を始めた。


「何とかはぐらかしといたけど、どうかな。あの手の女は情報が早い。気をつけたほうが良いぞ。あと、瑠香ちゃんから何か……これか? 何だちゃんと付けてるじゃないか」


 透は、すっと俺の腕をつかみ上げるとそういったが俺は静かに否定した。

 これは碧音さんから貰った物で、瑠香に(多分)貰ったものは、その早紀って女が身に付けてるはずだ。

 そうか、瑠香は俺が身に付けてないとでもごねていたのだろうか?

 全く女って奴はどうして、こうなんだ。

 勝手にくれておいて、それを俺がいつ身に付けようが勝手じゃないか……それを、どうのこうのと。


 あいつも、俺がこれを付けてなければそう思うんだろうか? でも、結構長いこと付けてる気がするが何かいってきたりはしていない。


 付けてることなんてきっと気にもなってないんじゃないだろうか。


 ―― ……そうか……。


 あいつにとっては、ただそれだけの物でしかないわけだよな。いやいや、俺にとってもそんなに価値のあるものじゃない。


 ただの気まぐれだ。こんなものいつだって外すし、後生大事につけているわけじゃ……って、俺、何で自分に良いわけ並べ立ててんだよ……。


 あまりの不甲斐なさにがっくりと項垂れた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ