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桜の下で君を待つ  作者: 汐井サラサ
第二章:Fragile happiness
24/166

―12―

 結局、むしゃくしゃした気分のまま風呂から上がった俺はビールを一缶あおった。


 ―― ……ふぅ。


 こんなつまんないことを、いつまでも考えていてもしょうがないレポートでも仕上げておくか。


 俺は、冷蔵庫からもう一缶取り出したビールを片手に、碧音……あぁ…いや、碧音さんの眠っている部屋の隣の部屋へ居座った。


 ぷ……っと、パソコンに電源を入れ、ビールのプルタブを押し上げる。


 起動と同時にメールの送受信が行われる。


 『受信メール11』


 どうせ、妙な宣伝メールだろう。

 そう思いつつタイトルに目を通す。


「ん……?」


 その中の一つに透からのメールがあった。

 何で、携帯でなくてこっちにメールが来てるんだろう。不信に思いつつ開封した。


『克己!! ケータイ持ってるのかっ?! 反応しろっ』


 冒頭に苦笑した。そういえば、ケータイはリビングに放り出したままだ。嫌がらせみたいにまただらだら透からのメールが届いているだろうなと簡単に予想がつく。


『一生に一度の頼みだ。レポートの題材考えて何か送ってくれ。俺の頭は真っ白だ。(>△<)

 礼には、瑠香ちゃんの機嫌をとっといてやる』


「―― ……瑠香の機嫌?」


 何のことだ?

 俺はその内容のあまりの幼稚さに、噴出しそうになるのを堪えてあてた眼鏡を定位置へ押し上げながら考えた。

 椅子に深く腰をかけて、缶の淵を持って一口呷る。


「ああ」


 そうすると、たった一つ思い出したことがあった。

 それはあの誕生日ことだ。

 そうか、バレたのか。まぁ、別にバレたからといって困ることもないし、わざわざ透を通してご機嫌を伺う必要も俺には感じられなかった。


 例え、どんなに瑠香に軽薄な男に思われようとかまいはしなかったし、それによって、今後、瑠香との接触がなくなったって俺にとってマイナスだとも思えない。


 そう、そのことに、マイナスは思いつかなかった。

 プラスになることも考えはつかなかった。


『送信しました』


 ―― ……結局。


 俺は何のメリットも思いつかなかったが、とりあえず透は助けてやった。

 恩を売っても返ってくるものはやはり想像つかないが、たまにはこういうのも良いだろう。


 ―― ……ふぅ。


 ひと段落した俺が時計に眼をとめると、もう、深夜1時を回っていた。

 隣のあいつは大丈夫だろうか?

 ふと眠る前の苦しそうな姿が目に浮かんで、苦い思いが蘇った。


 ―― ……仕方ない、俺もそろそろ寝るか。


 そう思い立った俺は部屋を後にし寝室のドアを静かに開けると、あいつはまだ眠っているようだが寝息はまた苦しそうだった。

 あれから、どのくらいたったかな。

 暫らく眠っているってことはその間は下がっていたはずだけど、そろそろ、ぶり返してくるころだろうか?


 目を覚まさないように冷却シートをはずして、額に手をおいた。


「冷たい……って、当たり前か」


 そりゃそうだ、さっきまで冷やしてたんだから、まだ額が熱かったらこいつはただじゃすまないだろうしな。

 俺は一人突っ込みをして、そのまま、熱を確認するために頬から首筋にかけて手を滑らせた。でも起きそうにもないし、眠れるなら眠っておいたほうが良い。


 ―― ……まだ、熱いな。


 下がりきっていない体温に眉をひそめ、新しく冷却シートを首にも貼ってやろうかとも思ったがそれで起きては元も子もない。俺は余計なことは控えて、傍に用意していたタオルで少しだけ汗を拭ってやるだけにした。


 さて、どこで寝るかな。って、別に俺がリビングで寝ることもないだろう。

 ベッドはキングサイズだし、こいつは隅っこで寝てるし反対側で寝れば別段問題ない、よな?


 ぶつぶつと、自分をいい聞かせるように呟いて俺はベッドに横になった。


 完全に真っ暗にしてしまっては、夜中こいつが目を覚ましたときにあらぬ誤解を招いてはいけない……などと、余計な気まで遣って、間接照明だけは消さずにいた。

 そんな心許ない淡い室内で、俺は苦しそうに唸る碧音“さん”を最初は何となくぼんやり眺めていた。


 うぅーん……と、唸りながらこちらへ寝返りを打つと眉を寄せた表情が伺える。


 ―― ……にしても、熱のせいで火照った頬が妙に色っぽく見える。


 軽くパーマがかった栗色の長い髪も綺麗だし、実は見ようによってはこいつも「美人」って部類に入るんじゃないだろうか。普段そんな風に見ることもないから気がつかなかった。


「―― ……ん」


 そんなことを考えていたせいか、急に寝返りを打たれると必要以上に驚いてしまった。


「寒いよ……」


 気がついているのかそうでないのか定かではないがうなされている様に、呟いた。熱が上がってきてるんだろうな、少し身体が震えているように見える。


 仕方なく小さく縮こまる碧音さんを俺は抱き寄せた。


 目を覚ますんじゃないかと心配したがその心配は無駄だったようだ。


「ん…… ――」


 ようやく大人しくなったかと思ったとき擦り寄ってきた。

 誰かと勘違いしているのか? 俺と分かっているのか。


「―― ……小西さん」


 ―― ……前者だ。


 俺は何を考えてるのか、全く馬鹿馬鹿しい、もう寝るぞ。

 苛立たしさを振り払い、俺は瞼を強引に閉じた。

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