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桜の下で君を待つ  作者: 汐井サラサ
第二章:Fragile happiness
18/166

―6―

「みんな良く寝てるわね」


 女は自分で開けたその先の部屋を見て、楽しそうに笑っていた。


「俺、帰るわ」


 今、自分の前にいる女と昨夜何があったかなんて特に興味はなかった。何かあったとしても、どうせ酔った席の話だ。気にしたってしょうがない。こいつだって気にしたりしないだろう。


 そんな雰囲気を感じさせる女だった。


 ソファーの下に置かれていた服を無造作に取り上げて俺は立ち上がった。


「そう? ねぇ。一つ聞いて良い?」


 悪ふざけでも考えているように、口元に紅い爪を添えて声をかけてきた女に、俺は着替えながら面倒臭そうに「何?」と問い返した。


「それって大切な物なの?」


 そして着替えた俺の右手を指差してその女はいたずらっぽくそういった。

 女の指差した先で、華奢なブレスレットが僅かに揺れた。


「ん? いや、そうでも無いけど。どうして?」

「昨日、克己の何か欲しいと思って、それ、外そうとすると凄く怒ったから」


 俺が、怒った? こんな物のためにか?


「まぁ、変わりにこれ貰ったからいいけど」


 そういって左手を俺に向けてかざした。

 その左手の親指には見覚えのない指輪がはめられていた。


 あんなものどこに持ってたんだ?


 俺のそんな疑問符に気がつくこともなく。女は嬉しそうに指輪を窓に翳して喜んでいるようだ。まぁ、それで納得したんならそれで良い。基本的に俺は物には執着しないタイプのはずだ。


 そう納得した俺は他の奴らを置いて、玄関に向かった。

 靴もばらばらだ。目を凝らして自分の靴を発見し、ドアの鍵を回した。


「ねぇ。今度はいつ会えるの?」


 一瞬俺の時間は止まった。

 まさか、そんなことをいってくるとは。見かけによらず厄介なことになりそうだ。次。次なんてあるはずない。今だってなんだったのかよく分からない。記憶にないし。興味もない。なかったことで問題ない。


「とりあえず、今日は俺帰るわ」


 どうともつかないあやふやな返事をして、俺は何とか部屋を出た。そして、家路を急ぐ中あの指輪の出先を思い出した。


「ああ」


 ―― ……瑠香からのプレゼントだ。


 答えを導き出すことが出来て良かった。分からないだらけの中、僅かでも分かったことに胸を撫で下ろす。一瞬だけ、どうしようかと思ったが、今更あそこに戻る気もしないし、あの部屋に瑠香はいなかった。


 まあ、良いか。気にするほどのことじゃない。俺がもらったものを俺がどうしても構わないだろう。そう思うことにして俺は引き返さなかった。



 ***



 今日もいい天気だ。


 私は日の高くなったこの時間、まだベッドの中にいた。

 ベッドの後ろ手にある窓のカーテン越しに日の光が差し込んでくる。


 私の身体には昨夜の小西さんの感触がまだ残っている。優しく触れてくれた指の感覚まで鮮明に思い出せる。いつも一緒に居られるわけじゃないから、余計に忘れたくないし忘れられない。

 だから私は未だその余韻に浸っていたかった。

 ふふっと一人ほくそえんでしまってベッドの中で身体を丸くする。


 久しぶりの上天気のようだ。折角の天気良い休日だ。

 有意義にすごさなくちゃ!


 頭の中ではそう思うのだけど、身体が思うようにいうことをきいてはくれない。


 もう一眠りしようと、布団を頭からかぶった。丁度そのとき、りんごーんっと少し古めかしい呼び鈴が鳴る。この音も私にはお気に入りだ。


「碧音ー。居る?」


 私の折角の安らぎの時間を割いたのは、あやだった。

 あやだけはうちの鍵がどこに隠してあるか知っていて、鍵をかけていても遠慮なく入ってくる。


「なぁに~?」


 私はベッドから出ることなく、返事をした。

 あやは、ずかずかと部屋に入ってくると寝ている私から布団を剥ぎ取った。


「いつまで寝てるの? もう、11時過ぎよ。折角、珈琲飲みに来たのに」


 ―― ……寒い。


 私は仕方なく眠い目をこすりながら上体を起こした。早朝ではないとしても、あやだって夜遅いタイプのはずなのに、私と違って爽やかだ。って、珈琲飲みに来ただけなの?


「珈琲だけ?」

「んん。そうよ。その後、買い物にでも行こう。外は良い天気だしね」


 はぁ、あやの無鉄砲さにはほとほと呆れる。

 でも、そんな奔放さにも嫌味が無いのがあやの良いところなのだろう。そんなあやの雑談に今日は付き合うことにした。


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