―5―
***
「―― ……ん、んぅ?」
カーテンの隙間から指してくる陽光の刺激に耐えかねて目を覚ますと、俺は知らない部屋に居た。
ボーっとする頭を抱えて、何とか上体を起こして考える。
―― ……あの後、確か。
カラオケにいって、あいつらが馬鹿騒ぎしてるのを横目に俺は一人で飲んでて、それから……それから、どうしたんだっけ?
「い、っ、てぇ……」
ずきずきとこめかみと後頭部辺りが傷む。これが二日酔いというやつだろうなと自嘲的な笑いを溢して膝に額を擦りつけてぐりぐりぐり……。
「―― ……」
まあ、一番の問題は二日酔いから来る頭痛じゃなくて、ここがどこか。という根本的なところだと思うが……。他の連中もどこにいったんだ?
透や真の部屋にはいったことがある。そのどちらともここは違う。というか真は昨日居なかったし、合流したような記憶もないような、あるような……ない。
……それに、どちらかといえば、女の匂いのする部屋だ。
俺は急な訪問客に対してか、赤いソファベッドの上に寝ていた。
「さむっ」
じわじわと脳が覚醒してくると、外気温に気がつく。ぶるっと寒気に襲われて身を強張らせた。
全く、なんて格好してるんだ。上、着てないし……なぜだ。
ふと、掛かっていた布団を捲ると下は大丈夫。履いていた。にしても何もなかった保障にはならない。脱ぐ癖があるとは思えないし、その場合は全裸だよな?
俺は小さく溜息を吐いた。
「克己ー。起きたの? 珈琲飲む?」
「あー……ん。もらう」
後ろから聞こえた声に条件反射で答えてしまった。
「はい。どーぞ。熱いから気をつけてね」
そういって、珈琲を差し出した女はカップを受け取った俺に軽くキスをした。
―― ……ああ。やっぱり、昨夜何かあったのか?
とりあえず受け取った珈琲に口を付けた。
だんだん、頭が冴えてきた。
二次会の最中、酔いが回った俺は外の空気を吸おうと、こっそり外へ出た。
そしてその時、俺は見てはいけないものを見たような気がした。けど、まぁあんなことは俺には関係ない。騙されるほうが悪いんだ。簡単に騙されて、あんな馬鹿みたいにリア充な顔しやがって……人間の本質は善だと思って疑っていない。そんな、あいつの方が悪い……。
そう思うのに、余計に苛々して気分が悪くなり。
―― ……俺は何も見なかった。
忘れてしまおうと、そう、気を取り直した。
思い出しても胸糞悪い。嫌な気になってくる。俺がそんな風に思うことないのに、なんでこうも苛々しないといけないんだ。
そんな必要微塵もない。だから俺は今自分におかれている境遇について考察することにした。
ここは多分リビングだ。
珈琲を淹れた女は、俺の足元に腰を下ろしてTVのニュースを見ていた。スラリと伸びた綺麗な足を組みかえる仕草が少し俺好みだ。って、のんきに考えてる場合じゃなくて!
「克己。何も覚えてないの?」
「あ……いや」
「だよねぇ。昨日は結構酔ってたから、二日酔いとかじゃないの?」
咄嗟に口ごもった俺を試すように、その女は口を開いたが、俺の記憶が定かじゃないのを感じ取ったのか降ろしていた腰を上げると、奥の部屋へ続く襖をすっと開けた。
その開けた先には、昨夜のメンバーが雑魚寝をしていた。なるほど、みんなでこの女のところへ押しかけた。ということか。
そうとしても、何で俺だけあそこにいないんだ?
あいつらよくあんな状態で寝ていられるな。男も女も関係なく倒れこんでぐっすり寝込んでいるという感じだ。
しかし、そこに瑠香の姿はなかった。
まあ当前か、無断外泊するようなタイプには見えないからな。