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桜の下で君を待つ  作者: 汐井サラサ
第八章:bruise
163/166

―36―

「……っ……く…………」


 口から漏れる嗚咽を堪えることなく、俺は真っ暗な部屋の中で一人泣き続けた。

 こんなに泣いたのは生まれたとき以来じゃないだろうか。

 いつの間にか泣かなくなっていた……泣けなくなっていた……。


 それが。どんなに辛いか……俺は重々承知していた……だから……何より……


 泣かなかった碧音さんを見るのが辛かった。

 あんなに泣き虫だったのに。泣かせてやることすら俺には出来なかった。碧音さんが笑う度に俺は苦しかった。

 身体の中の物が全て焼きつくように痛かった。


 ……ごめん……。


 碧音……本当にごめん……ごめんな……。


 届くことの無い謝罪を繰り返し俺は机に突っ伏した。


『私のことは忘れて。ゆっくりでも、少しずつでも良いから……忘れて。お願い……』


 ―― ……そんな願い聞けるわけないじゃないかっ!


 でも……碧音さんの俺を見る目は「No」とはいわせてくれなかった。

 そういってしまうことが、彼女の枷となってしまうだろうことは……昨夜の碧音さんを思えば……すぐに分かる。


 奥歯を強く噛んだ瞬間……傷が開いたのか、口の中に鉄分の冷たい無機質な味が広がった。


 これから……また……この無駄に広い部屋に一人帰って来ることを考えるとぞっとする。

 親父は手にしたものを永遠に失くした。

 俺は……手が届きそうなところにあるのに…… ――

 永遠に手にすることすら叶わなくなってしまったのかもしれない。


 俺の方が


 俺の方がずっと……


 無力だ。


 俺は碧音さんのガンとした意思に負けてしまった。

 彼女を見ていると、自分本位に突っ走ることを頑なに拒否されていて

 そうすることが、まるで罪のように思えて


 碧音さんは俺の考えの全てを見透かしたように微笑むから……


 俺って……子ども……。


 早く大人になりたいと願ったあの頃から何一つ変わっちゃいない。


 子ども……だ。


 誰にも聞かれることのない声は、ひんやりとしたフローリングの上を空すべりして掠れて消えていくだけだった。

 


 ―― ……忘れて……少しずつでも……忘れて……お願い……。

  ……オ……願 イ ……



 俺は、彼女の願いを聞くしかなかった。


 ―― 『さようなら』 ――


 彼女の口から聞くとは思わなかった。


 暗く……静かな……この部屋で……俺はこれから……一人で過ごす……。

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