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桜の下で君を待つ  作者: 汐井サラサ
第二章:Fragile happiness
14/166

―2―

 ***


 ―― ……そして、週末。


 俺は暇つぶしに、大学の図書館にいた。どこで嗅ぎつけたのか、ふらりと現われた麗華がさも当然という風に、俺の隣に座っていたが、それ以上の邪魔はしないので気にしないことにした。いつものことで慣れた。というほうが正しい。

 だから、静かな時間を過ごせていた。それなのに、そんな俺の静かな時間を遠慮なく壊しに現れた奴がいた。


「おっ! 発見。こんなとこにいたのか」


 もちろんそれ以外にありえない。

 透だ。隣に座っていた麗華が少し顔を顰めたのが視界の隅に入った。


「今日も麗華さんと一緒か。まぁ、良いや」

「どういう意味です?!」

「ごめん。深い意味は無いよ。美人といつも一緒で羨ましいなぁと思っただけだよ」


 嘘をつくな。嘘を……。


 透はどんな女も基本的に好きだが麗華だけは苦手だというのは、疎い俺でも知っている。そして、麗華も透を嫌悪の対象としてみている。水と油で相容れない。

 また、こんなとこで麗華とひと悶着起こされては敵わないと俺は話を元に戻した。


「で、何だ。用事があったんだろ?」

「そうそう。お前今日誕生日だろ」

「は? そうだったか?」


 思わず間の抜けた声を出した。


「勘弁してくれ。まだ、誕生日と年齢を忘れるにはちょっと早いぞ」


 大げさに肩を竦めて嘆息する透に俺は「仕方ないじゃないか」といいそうになって飲み込んだ。大体そんなことをいわれても、誕生日なんかに特別な思い入れなんてない。

 別段、変わった日になることなんて、今までなかったし。


「それは、お祝いするべきです」


 すっく、と麗華が立ち上がった。

 透から小さな溜息が漏れたのが伺えた。透の考えそうなことだ、俺の誕生日とやらを餌に合コンでも開く気だったんだろう。

 麗華のお祝いというのにも、透の合コンにも、参加する気にはなれない。体よく断る理由を直ぐに考える。考えていたのに……


「なっ?!」


 突然、透が俺の腕をつかんで、図書館を走り出た。強行突破だな。

 麗華のヒステリーが目に浮かんで、暫らく近づかないで欲しいと俺は心に強く思い、無宗教だが小さく十字を切った。



 ―― ……



 結局、強引な透に負けて、俺は誘われるままにいつものイタリアンレストランに来ていた。

 今夜は若干、人数も多いようだ。

 レストランの中二階の一部屋を貸しきっている。透、やる気満載だな。しかし今回、真は来ていなかった。


「今日、真は来なかったのか?」

「ん? ああ。何か用事があるとかいってたぞ。まぁ、瑠香ちゃんも居るし参加しにくかったのかもな」


 それを、分かっていて、瑠香も呼んだのだろうか。透、鬼だな。

 公然的に酒も飲めるようになったし、とりあえず、最初の乾杯に使ったシャンパンに手を付けた。


 正直、最近の俺はちょっと変だ。


 何が変なのかは、よくわからないけど変なんだ。あやの一言も妙に気にかかって仕方ないし。

 あいつら、こんなことやって、何が楽しいんだろう? お互い騙し騙され、くっついて離れて、馬鹿馬鹿しい。

 その度に「辛い」とか「苦しい」とかいうくせに、分かってるのに何で何度も繰り返すんだ。


『関係を持った女の数と、恋をした数とは同じとは限らないのよ』


 あの日あやは、ふてぶてしく俺にそういい残して帰っていった。まぁ、実際女に困ったことはない。しかし、どの女も好きだったという感触は一度も感じたことも無い。

 好意、か……。

 それを抱くことが馬鹿馬鹿しいと思うものの、それを得たことがない俺にそんなことを思う資格はないということも分かっている。


「―― ……ん。克己くん!」

「あ? ああ。何だ瑠香か」


 しまった。

 ついこんな賑やかな場所で、物思いに耽ってしまった。瑠香は何度も呼んでいたらしい。ようやく、気がついた俺に少々呆れ顔だ。


「また、考え事? 克己くんて、いっつも何考えてるの? それとも、酔った?」


 ―― ……よくいわれる言葉だ。


 別に、俺が何考えてようと誰にも関係ないはずだ。なのにどうしてみんなそんなことを聞くんだ。

 俺は気分を害して、視線を逸らした。


 気がつかなかったが、みんなそれぞれ、今日のお相手は決定しているようだ。

 なるほど、俺と瑠香はあまり者同士ってことか。


「もしかして怒っちゃった?」


 瑠香が黙ってしまった俺に心細そうに声をかけてくる。


 ―― ……やれやれ。


 別に瑠香が悪いわけじゃない。

 もしも、誰かが悪いというのなら、それは俺が自分自身にいうべきだ。俺は自嘲気味な笑みを浮かべると、短く嘆息した。そして、短く告げる。


「別に怒ってない」

「そっか。良かった。じゃあ、ちょっとこっち付き合ってもらって良いかな?」


 瑠香は俺の機嫌を確認すると、にこりと微笑んで席を立ち、ドアの前で俺を手招きした。気は進まないが、ここにいても楽しいわけじゃないし。席を立ち瑠香の後ろに続いた。


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