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桜の下で君を待つ  作者: 汐井サラサ
第八章:bruise
132/166

―5―

 ***


 例の事件はその後、特にテレビで連日大騒ぎするということもなくなっていた。

 同時に、解決した、犯人が逮捕されたなどのニュースが流れて来ないというときの静けさには、嫌なものがあった。


「これ、やるよ」

「―― ……? 何?」


 講義が終わり教室を移動してる最中、真が俺の前に小さな何かを突きつけた。


「何って、防犯ベルだよ」


 あまりに真が真剣な顔で突き出してくるから、俺に持てといっているのかとあからさまに怪訝な顔をしてしまった。

 そんな心内を悟ったのか、真は慌てて首を振ってから


「いや、別に、お前に持てとはいわないけどな。俺は瑠香に渡したし、お前も彼女に持たせとけっていってるんだよ」

「―― ……ああ、なるほど」


 考えたら直ぐに分かりそうなものなのに、どうして気がつかなかったんだろう。

 俺は真からそれを受け取りつつ、しげしげと眺めた。


 みんなあのニュースに、不安を抱えているってことだろう。


「一日中、傍にいることも出来ないわけだし。気休めにでもなれば良いだろ?」

「あぁ。これはこうして……」

「ばっ!! バカッ!!! やめろ透っ!!」


 ひょっこりと俺の後ろから現れた透は、俺の手からそれを抜き取って、ちゃっと一部部品を抜き取った。

 と、同時に鳴り響く豪快な機械音に俺達は耳を塞いだ。

 傍を歩いていた奴らまで何事かと当然俺達を振り返る。怒りの形相で真が「早くもとに戻せっ!」といってるのが分かったが声は聞こえない。


 ―― ……かちっ。


 慌てふためく真を見て楽しんだ後何事もなかったように、透は外した部品を元に戻した。


「ふぅ。なるほど。これなら大丈夫」


 ―― ……ゴスッ!


 やれやれというような調子で、額を拭いながら納得する透に真の拳骨が入る。

 当たり前だ。

 こんなもん試し鳴らしするやつがあるかっ!


「痛い」


 というオーバーリアクションを取りながら透は俺にそれを返し、視線を集めていた周りの奴らに「ごめんねー、なんでもないよー」と頭を軽く下げた。

 そしてようやく、止まった時間を取り戻したように周りも足を進め始めた。


 ―― ……ま。帰りに『X―クロス―』にでも寄ったら渡すかな。


 備えあれば何とかっていうもんな。とか思い浮かぶ自分に苦笑する。やっぱり、こんな風に他人を気遣う自分っていうのは、まだ慣れない。


 それもこれも仕方ない。そのうち慣れるだろう。一人頷いて、ころんっとそれを鞄にしまいこんだ。



 ***



 「克己くんまでねえ……」


 私は可笑しくてたまらなかった。

 『X―クロス―』へ夕飯に寄ったら「もらったから」とか何とかいいつつ渡してくれた、防犯ベル。確かに、何でもないよりはあったほうが良いかもしれないけど、まさか、克己くんからもらうことになるとは思わなかった。

 結局、本気で心配してくれてるんじゃん。

 可愛いとこあるよね。


 くるくるっと指の中で一回転させると私はそのまま、バッグの中へ滑り込ませた。


 そして、笑った私に物凄く不愉快そうな顔をして、頬を赤らめる克己くんを思い出すと、また笑いそうになる。

 でも、一人帰る帰り道でそんなことをしていたら、私の方が怪しい人になっちゃう。

 そう思って、浮かんでくる笑いを飲み込んで、私は帰り道を急いだ。


 いつもと変わらない道順で、足を進めても町の中は至っていつもと変わりない。そこかしこにいたような警察官も今はまばらだ。


 もう、警戒するのやめたのかな?

 ……ってそれは早いか。

 制服だと目立つから私服になったのかもしれないな。


 ―― ……こっから先って、案外人が少ないんだよね……。


 そう感じると急に恐くなって、急ごう。と足を速めた。

 大通りを一つ折れて公園の横の歩道に入ると、数メートルごとにある街灯の明かりのみを頼りだ。


「すいません」

「っ!」


 びくつきながら足を進めていると、若い男の子の声に引き止められた。

 恐々振り返ると、そこには、にこにこしながらもう一度「すいません」と声を掛けてくる姿が街灯の下に見て取れた。

 道でも聞かれるのかと思った私は、身体ごとそちらに向き直りその笑顔に答えた。


「―― ……はい? どうかしましたか?」

「―― ……ですよ、ね?」





 ―― ……ホンノ 一瞬 ノ 出来事 ダッタ……。



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