娘と勇者が恋仲であることは魔王の俺が知っている
とあるサイトからアイデアを得ました
我は魔王デビル・ゴーア(2026歳)。
我は見てしまった。我が娘であるルシエラ・ゴーアに恋人ができるところを。
始まりはあの日だった。娘のルシエラに経験を積ませようと上級ダンジョンへと配置したのだ。
「娘がいる階層までは誰も到達出来まい」
そう我は確信していた。だがその確信はすぐに間違いだと分かった。
ある日、部下のゴブリンが伝令を持ってきた。
『勇者、ルシエラサマの階層へ到達!』
と。
その伝令を聞いた瞬間、我は激しく冷や汗を流し、ダンジョンの元へ浮遊魔法「フライアス」、空間魔法「エアーダー」で飛んでいった。我が魔王城を貫通破壊しながらだ。
そして、最高速度でダンジョンの元へ行きダンジョン内を駆け抜けた。
その道中、恐らく我の部下を弾き飛ばしてしまった……と思う。まあ、そんなことはどうでもいい。
そうして、ルシエラのいる階層の扉の前まで来た時だった。
「フフッ」
ルシエラの声が聞こえ扉を開こうとした我が腕が止まる。
そこで我はしっかりと状況を見ることにした。扉をゆっくりと小さく開ける。
我が見たのは驚きの光景だった。
ルシエラと黒髪の男が倒れたオブジェクトに一緒に座り、喋っていたのだ。
「勇者様は面白い人なのですね」
「ははっ、そうか。そんなことを言ってくれるなんて嬉しいよ」
なんだ?なんなのだ?この空気は我が空間魔法では演出できぬ甘さだぞ!?
「あのう、勇者様。」
「うん?」
「私と付き合ってくださいませんか?」
「な、何だと……ッ!?」
我が耳を疑った。あまりの衝撃に、展開していた防御結界が自ずと霧散
していくのを感じる。
付き合って、だと? 我が愛娘、ルシエラが、よりによって人間の勇者などに、自らそんな言葉を向けるなどと……!
我が空間魔法「エアーダー」をもってしても、この空間に漂う、蜂蜜を煮詰めたかのような甘ったるい空気を遮断することはできぬ。あまりの精神的ダメージに、魔王たる我が膝がガクガクと震えそうだ。
我はここで突入するべきか?そう思考していた時だった。その勇者の言葉に我は決断した。
「あなたのような美しい方にそう言ってもらえるなんて光栄です。こちらこそよろしくお願いします!」
そう言い……そう言い、こやつ(勇者)は我が娘の御手を握りやがったのだ。許せん!!!その瞬間、我は部屋に突入した。
「ふざけるなあああ!我が娘はやらんぞ!空間魔法「エアレイダー」!」
対象の周りの空間を操り、対象を押し潰す我が必殺の魔法だった。
だが、
「くっ、すみません。ルシエラさん、また会いましょう「フルーフ」!」
「フルーフ」を勇者が唱えた途端、勇者の姿は空間の壁に押しつぶされる前にかき消えた。
「ぬう、転移魔法か?一瞬で我が魔法の弱点に気づくとはやるのう」
そう、我が少し感心した時だった。娘が真っ赤な顔でこちらへ歩み寄ってくる。おお、おお、勇者から助けた我に感謝を告げようとしているのだな。
「ルシエラよ、もうこれで安心だ!」
パチン!!!
瞬間、我が頬に衝撃が走った。HPは1程度しか削れなかったがそのダメージは我が人生で一番のダメージだったと言えよう。
最初は受け入れ難かったがルシエラからビンタをされたのだと数秒後に理解できた。
「ルシ……エラ?」
「パパなんてだいっきらい!!!」
その言葉は、かつて神界の最高神から喰らった聖属性の極大魔法すら生ぬるく思えるほどの、圧倒的破壊力を持って我が胸に突き刺さった。
ガハッ……! と、声にならない悲鳴を上げながら、我はその場に崩れ落ちる。HPは残り1。いや、精神的HPはすでにマイナス2026である。
「ル、ルシエラ……? 我はただ、お前をあの不届きな勇者から守ろうと……」
「もう! パパのせいで勇者様とせっかくいい雰囲気だったのに! 邪魔しないでよ!」
プンプンと怒りながら、足早にダンジョンの奥へと去っていくルシエラ。その背中は、かつて「パパ、だっこー!」と無邪気に笑っていた頃の面影など微塵も残っていない。
ポツンと一人残された我が耳に、タイミング悪く通信魔術から我が腹心の呼び出し音が響く。
『あ、魔王様? 本日の「全魔界・娘を持つ父親の会」の定期集会ですが、予定通り20時からでよろしいでしょうか?』
「……すまん、今日の議題は急遽変更だ」
『え? 何にするんですか?』
我は床に両手をついたまま、血涙を流さんばかりの勢いで叫んだ。
「『娘に嫌われた時の対処法』と『転移魔法を使った勇者を地の果てまで追いつめる方法』についてだあああ!!!」
こうして、2000年以上生きた魔王の、最も長くて過酷な夜が幕を開けたのである。(なお、翌日からルシエラは口をきいてくれなくなった)
いかがでしょうか?




