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短編小説どもの眠り場

この街は、私のいない明日を迎える。

作者: 那須茄子
掲載日:2026/03/30

 駅へ向かう道は、いつもより少しだけ長かった。

 

 街灯がひとつ灯るたびに、胸の奥で何かがひとつ消えていく。

 そんな気がして、歩幅がうまく決まらない。


 帰宅を急ぐ人たちの背中は、まるで今日という名前の列車に乗り遅れまいとする影のようで、私はその影の端っこに、もう触れられない。


 カフェの窓辺で、誰かがカップを置く音がした。

 その小さな音が、「あなたはもう、この街の物語の登場人物じゃないよ」と告げるようで、胸がひりついた。


 路地裏の落書きは、いつもと同じ色で、同じ場所にあった。

 でも今日は、さようならという言葉の形をして見えた。街が私に気づいて、そっと手を振っているみたいに。






 石畳を踏むたび、足音が私の後ろへ落ちていく。

 「ここにいた証拠を置いていけ」

 私はひとつずつ、思い出を落としていった。



 広場では、子供たちが鳩を追いかけていた。

 笑い声が空にほどけていく。

 その音は、私の知らない未来へ飛んでいく。手を伸ばしても、もう届かない。いや伸ばすこともない。






 ベンチの大人たちは、今日を終える顔をしていた。

 その表情が、ここで生きる人たちの時間を静かに刻んでいて、私はその時計から外れてしまったことを知っていた。




 この街は、私がいなくても続いていく。

 その事実が、どうしようもなく優しくて、どうしようもなく寂しかった。





 駅のアナウンスが、遠くで震えている。

 私は深呼吸をして、胸の奥に残った街の匂いをゆっくりしまい込んだ。


「さようなら」


 声に出した瞬間、その言葉は風になって、街のどこかへ消えていく。

 

 私は歩き出す。


 振り返らない。

 

 この街は、私のいない明日を迎える。

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【追記】  5・7・5・7・7、の31文字(31音)が「短歌」、または「狂歌(きょうか)」だねぃ。「短歌」と「狂歌」の違い、定義なんかは、ググれ!w で、5・7・5、の17文字(17音)が「俳句」、…
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