2.剣術稽古のあとに。
「まったく、アイーシャはいきなり無理しすぎなんだよ」
「あはは! だって、剣振ってると楽しくなっちゃって!」
「……バーサーカーだよ、それは」
アイーシャとの無茶ぶりな剣術稽古を終えて。
俺は服の袖で汗を拭いながら、やれやれと肩を竦めていた。幼馴染みの剣捌きはもう、それは見事なものである。だけど基礎体力が伴っていないため、幼いいまの段階ではすぐにバテてしまうのだった。
それでも数十分ほど、体力が尽きるまで動き回って剣を振られるのは恐怖でしかない。俺は稽古開始と同時、一生懸命に逃げ回るしかなかった。
もっとも、これはこれで持久力の鍛錬になっているのだけど。
しかしながら一歩間違えば大怪我に繋がりかけないので、できるなら避けたかった。
「さて、そろそろ帰ろう。村長たちもきっと、心配するだろうから」
「あー……もう少し待って! アタシ、ホントに限界」
とはいえ、今日も無事に鍛錬を終えたので。
俺は座り込むアイーシャに手を差し出し、家路に就くことを推奨した。だけど彼女は完全にガス欠状態らしく、へたり込んだまま立ち上がれそうにない。
村から離れた森の中には、強くはないとはいえ魔物も生息している。
したがって可能な限り早急に、帰り支度をしたいところだったのだけど――。
「大丈夫だって、ルイン! いざとなったら、アタシが魔物を倒すよ!」
「まったく、仕方ないな……」
幼馴染みの暢気な一言に、こちらの毒気が抜かれてしまった。
たしかに、少しくらいなら雑談をする時間もあるだろう。そう考え直して、俺は近くにあった切り株に腰かけてアイーシャに訊ねた。
「アイーシャは将来、何がしたいんだ?」
「ん、将来……?」
そうして問いかけたのは、自分たちの未来について。
彼女には人並み外れた剣術の才能がある。そして本人も剣を振るうことに魅力を感じており、その行く末には興味があった。
俺の質問に対して、幼馴染みは少しだけ考え込む。
そして、パッと明るい表情になったかと思うと、こう言うのだった。
「アタシね、いつか王都に行って剣士さまになりたい!」――と。
俺はその返答に驚きはしない。
それはきっと、アイーシャの素質や性格を考えれば当然のことだったから。資質に恵まれた彼女であれば間違いなく、ひとかどの人物になれるはずだった。
少なくとも自分は前世で、そんな才能あふれる人々を山のように見てきたから。
だからあと、アイーシャに足りないものといえば――。
「――あとは、環境かな」
生まれたのが、辺境の農村というのは大きなハンデだ。
出自や生活レベルの差というものは、とりわけ幼少期に大きな影響を与える。もっとも工夫次第とはいえるのだけど、俺のやっている鍛錬がアイーシャに合うとは限らなかった。
だからこそ、彼女の夢を叶えるにはどうするべきか。
俺がそう腕を組んで考え込んでいると――。
「ねぇ、ルイン? いま、変な音しなかった……?」
「……変な音?」
アイーシャは何かに気付いたらしく、そう周囲を警戒して言った。
遅れて俺が周囲に気を配ると、たしかに草を踏みしめるような足音が聞こえてくる。いったいなんだろうか、少なくとも人間のそれではなさそうだった。
俺は姿勢を低く構え、息を殺す。
すると、
『グルルルルルルルルルルルルルルルルルルル!』
姿を現したのは、自分たちよりも遥かに大きなイノシシだった。
鋭利な牙に、血走った赤い瞳。家畜のそれとは明らかに違う、魔物と遜色ない存在だ。そいつは鼻息荒くこちらを睨みつけると、涎を垂らしつつ間合いを測り始める。
そして、次の瞬間――。
「アイーシャ、危ない!!」
どう判断したのか、そのイノシシは一直線に幼馴染みの方へと突進した。
「きゃ……!?」
彼女はとっさに木刀で防御を試みるが、さすがに野生の力の前には敵わない。
簡単に得物は弾き飛ばされ、無防備な状態になってしまった。そもそもとして、いまのアイーシャは極限まで疲労が溜まっている状況。つまり、あのように大きな武器は振るえない。
――だったら、どうするか。
俺は必死になって思考を巡らせ、そして手元にあった木の棒を掴んだ。
「アイーシャ、受け取れ!!」
そして思い切って、木の棒を幼馴染みへ向かって放った。
上手く掴み取ることに成功したアイーシャは、驚きつつも表情を引き締める。
「……きなさい!」
そして、イノシシを挑発するように言って。
まるで一人前の剣士のように、木の棒を構えるのだった。
「はは……やっぱり、凄いや」
――『剣姫』というギフトを持つ者は、剣術の才能に秀でる。
だが、いまのアイーシャの場合、あの木刀は身体の大きさに対して不釣り合いだった。だからいまのように、身の丈に合った得物を手にしたとすればどうなるか。
それはもう、一瞬の出来事だった。
「は、ああああああああああ!!」
少女の気合いの掛け声と同時、イノシシの断末魔の叫びが響き渡る。
これが、俺とは正反対の才能に恵まれた者の一撃。目にも止まらぬ速度で繰り出されたアイーシャの攻撃は、狙い過たずイノシシの命を刈り取ってみせた。
その様子を俺は苦笑しつつ眺め、思わず尻餅をつく彼女のもとへ歩み寄る。
そして思うのだ。
やっぱりアイーシャと自分とでは、進む速度に差があるのだと。
◆
「ふむ。悲鳴が聞こえたので、来てみたが……?」
そんなルインとアイーシャの様子を眺める、一人の男性の姿があった。
鎧を身に纏った彼は、その長く伸ばした髭に触れながら考え込む。
そして、こう感嘆の声を漏らすのだった。
「あの子供たち、見どころがあるな」――と。
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