自転車を見た君は、自転している車ってかっこいいよねと言った
「なろうラジオ大賞7」参加作品です。
「あ、自転車だ」
高校3年生、部活帰りの横断歩道。マネージャーの怜奈と帰る道は、陽に照らされてじりじりと暑かった。
自転車が通ったことなんて、大して話題にするようなことでもない。ただ、話していたかっただけ。
「ねね、自転してる車ってめっちゃかっこいい名前じゃない?」
唐突に、怜奈がそう言った。
「自転してるから自転車ってワケじゃないんじゃない?そもそも自転してないし」
僕がそういうと怜奈は黙り込んでしまった。沈黙が続き、僕は俯く。失敗した気がした。
「あっ、じゃあさ、賭けようよ!私は、自転してるから自転車だと思う」
元気にそう言い放ち、お菓子を賭けようと提案した怜奈を、僕は直視できなかった。
真夏の日差しはどこまでも明るかった。
◇ ◇ ◇
結局、その後の試合に負け、僕らの世代は引退した。
「みんな、頑張ってた」
怜奈が涙をこぼしながら僕らを認めてくれた。唯一気に入らなかったのは、その言葉が僕だけに向けたものではないってこと。
悔しかった。みんなぼろぼろ泣いていた。
僕も泣いた。こんなときにまで不純なことを考えている自分を許せなかった。
噛み締めた唇から血の味がした。
それから、怜奈と話すことは無くなった。建前も、必要も、僕らの間にはもうなかった。寂しさだけが心に居座った。
◇ ◇ ◇
怜奈とは違う大学へ進学し、視界に入ることすら叶わない。
周りにいるのは、良い仲間たちだ。だからこそ、君がいないのが――
「ねぇ……私たち、付き合わない?」
そう、仲のいいクラスメイトに言われたとき、僕は返事ができなかった。心の奥には、まだ彼女への想いがくすぶっていた。
「――ごめん」
そう答えながらも、僕は解っていた。
――今こそ、この想いに区切りをつけなければいけない、と。
それから1週間後の土曜日、僕は自転車に乗って怜奈に会いに行くことにした。
誰かに言われたわけじゃない。自ら、動く。
僕自身が、自転車のように。僕自身が、自転車を漕ぐ。
自転車にまたがり、漕ぎ出すと、顔いっぱいにそよ風が吹きつけた。
ペダルを力いっぱい踏みつける。怜奈に渡すお菓子がカゴの中で転がり、音を立てた。夏の入り口はもうすぐそこだ。
私に現実恋愛は早かった。ということで純文学ジャンル。




