実習生滝川先生
由良姫のクラスには滝川という教育実習生が来た。毎朝、朝礼や出欠確認もする。タッキーは案外とマメで昼休みも弁当持参で、教室で生徒たちと食べているようだった。生徒から作ってこられた弁当は受取拒否宣言している。
観察していると、上手にJKをあしらっているのがわかった。
「藤吉さんはいつも昼っていないよね。どこでお昼食べてるの」
タッキーがわざわざ聞きにきた。
「部室です」
「さすがに夏は暑いでしょ、プレハブのことだよね」
「いえ、科学部なんで」
「理系女かあ、でも英語もできるよね」
「英国数は必須でしょ、今時」
「頭いいんだな」
「先生、あっちで待ってるよ」
由良姫は目線を向けて、滝川に知らせると、じゃあと言って教室を出ていった。
手ぶらで物理準備室に来ると、冷蔵庫に入れておいた弁当をレンチンする。
「なんや、おまえ、誰連れてきてるん?」
「ええっ?なに?」
宇羅彦が指差す方を見ると、滝川が準備室の外で手を振っていた。
「先生、なに?」
由良姫がつっけんどんに対応すると、ちょっとホッとした滝川が準備室へ入ってきた。
「いいなあ、電子レンジ、借りていい?」
「職員室にもあるやん」
「職員室なんか、息つまるじゃん」
「先生、女子たちと食べるんじゃないん?」
「ちょっと、疲れた」
その言い草に、宇羅彦が笑った。
「由良はファザコンのマザコンやから、ちょっかい出すんムズイよ」
「へえ、お弁当美味そうだもんな」
「お弁当は眴ちゃん作ってるから」
「眴ちゃんはお母さんみたいなもんやんか」
「眴ちゃんは、執事やん」
「執事!?」
「藤吉さんのうちは、この辺でも古くて大きいんだってね」
「知らん」
奥の方から、狐のケンが出てきた。どうやら隣の生物準備室にいたらしい。ケンは滝川の側へ寄ると臭いを嗅いだ。
「ええっ!なに、キツネ!?」
ケンはスルーして、また生物準備室に戻っていった。
その様子を見て、由良姫と宇羅彦は目を見合わせた。
「先生、意外とマジメやんなあ」
「意外とって、あのなあ、教育実習って結構大変なんだぞ」
「いつもどこでも、女子に集られてるイメージしかない」
宇羅彦がボソッと呟いた。滝川は大笑いした。
「マザコンでファザコンで、執事がいて、おまけにシスコンの兄がいると」
「ウーちゃんは弟」
「へえ、そうなんだ。君、大きいよね、俺と同じくらいってことは180近いじゃん」
滝川は弁当を食べながら、冷蔵庫から麦茶を出すと、コップに注いだ。
「部活は?やっぱ物理班?」
宇羅彦は頷いた。
「勿体無いよなあ、ラグビー部から勧誘されんかった?」
「ウーちゃん、ガタイいいから、あちこちから今も勧誘来るよ」
「俺、器械イジりの方が好きなんで」
「ふうん、その割に反射神経いいよね」
宇羅彦は滝川を見て、警戒した。狐のケンが反応しなかったので、モドキには縁遠そうだったが。
「体育の高木先生はラグビー部顧問だから挨拶行ったら、君の話が出たんだよ」
「ああ…」
宇羅彦は面倒臭そうに相槌を打った。
「先生はうちの学校、どう思いますか?」
「相変わらず、自由でユルいし、まあいいんじゃない?3年なったら特待クラス入れば、国公立はまず問題ないだろうし」
「JKに囲まれて、どお?」
「どお?ってなに?俺はそんなメンドーなもんに手ェ出すほど困ってないし」
「そう言うけど、うちばっか当てるやん」
「だって君、頭いいし、後々質問来たりウザくないでしょ」
「ああ、ふーん、そういうこと」
「こんな田舎のJK、誰がマジで相手するかよ。そんなことで将来棒に振るわけないじゃん」
「そっか」
「ていうか、おまえら自由すぎ。ガキはガキ同士で付き合えよ」
「まあ、実習生より、夏休みに帰省するOBとかに気をつけろよ。特に水泳部の瀬名な」
滝川はわざわざ名前を出してきた。ということは、クロ確定だろう。夏休み早々、忙しくなりそうだ。
「あとは音楽部かなあ。あそこは合宿するから。
夏休み中なんて、学祭の準備もあるし好き放題じゃん」
由良姫と宇羅彦は、眴から聞いていた芥見の件を思い出していた。
滝川の話から、夏休みは結構ヤバそうだった。
あちこちでモドキやらケガレが湧いてきそうな、暑苦しさだった。
だから、芥見の、が出てきたのだろう。
今度の日曜、由良姫と宇羅彦は部活で学校へ来ることになっていた。その日、部活の申請を出していたのは音楽部と水泳部だった。
その頃、県境にある高速インター近くのラブホ街では、水泳部顧問の女教師と瀬名が激しく抱き合っていた。
「例の、潰して、あげてる、ンだからっ!あんっ!あぁっ!ああ、いいっ!もっと!あああっ!!」
「うっせぇな!」
瀬名は口止めとして、女教師からセッ○スを求められていた。見た目は清楚で真面目そうでも、人は見た目ではわからない。女教師は瀬名が夏休みで帰省してくると、すぐに誘っていた。
女教師からは腐った魚のような臭いがしていた。




