水泳部3年沢田美由紀③
「あああ、ああっ!お願い、そのおチ○コをちょうだいっ!!」
美由紀の母親と叔父は、いつから絡み合っているのか、部屋中に臭気を発していた。
女は大きく股を広げて、まるでパクパクともう一つの口を開けたように、ビラビラとしたひだを動かしていた。男はその大きな口にむかって、大きくパンパンに膨れ上がったチ○コを入れては出してを繰り返していた。
大きな口は、美味しそうに男の物から溢れ出るドス黒いもの、モドキを吸っていた。
「もっとっ!もっとっ!もっとちょうだいっ!!あああっいいいっ!!」
男は今までに味わったことのない、己の物を根元まで咥え込み、吸い付き吸われる快感に夢中になっていた。
「コイツが世に言うタコツボかあっっ!!食いつかれて離れられん!!おおおおうっっ!!あへぇっ!あひぃっ!おおうっ!!」
女は男を抱きしめると、激しくキスをしてきた。口の中にはいっぱいのモドキが溢れていた。お互いの体の中にモドキが巣喰い合い、もんどりうって交ざり合っていた。
女の下の口は、とうとう男の袋まで飲み込み始めた。
「あひいいいっっ!!ひいっ!ひえぃっ!」
「ああっ!あああっ!あああああっっ!!たべさせてえっっ!!」
喘ぎ声とも叫び声ともつかない、壮絶に悶えて交わり合う声が、かすかに外にまで漏れ聞こえてくる。まるで、家自体がドス黒いものに取り巻かれているようだった。
「もうそろそろ行かなあかんのんとちゃうん?」
凛華がしびれを切らしていた。
由良姫が家の前に立つ人影を確認した。美由紀と雄一郎だった。
眴が嗚咽を漏らしながら、今まで見せたことのないような、鬼の形相になってきた。眴はハンカチで常世の眼を抑えながら呻いていた。
そして突然、車から飛び出していった。由良姫も宇羅彦も、こんな眴を見るのは初めてだった。
そこへ宇宙依がタクシーで到着した。宇宙依は現世の眼のせいで車の運転ができなかった。
宇宙依は眴の様子を見たあと、車から出てきた二人に結界を張るよう伝えた。
「初音、凛華。あの家を全体的に結界張れるか!?」
「やってみる!」
家そのものが、もの凄い瘴気を発し始めていた。美由紀と雄一郎は異様な雰囲気を感じていた。
「入ったらいかん!!」
雄一郎が美由紀を止めた。
そこへ由良姫と宇羅彦がやってきた。
「あなた、狐の…?」
「なんだ、美由紀の同級生か。こんな時間にどうした!?」
万里依と一緒に、大那と虎雅がやっと合流した。
万里依は、常世の眼を通してケガレの瘴気を一気に浴びた眴を車に乗せると、大那に祓わせた。眴は一気にケガレの瘴気が体になだれ込んだので、もう少しで鬼化するところだった。
万里依は現世の眼で、とんでもないものを一瞬で見てしまった。車から飛び出すと、万里依が吐き戻していた。
「万里ネエ、大丈夫?」
「大那、虎雅。由良姫と宇羅彦と一緒に、家に入れるか!?結界を忘れるな!!」
「どんな状態なんだ!?」
「女がアソコから男を飲み込もうとしとる。大量のモドキを集らせとる」
由良姫が美由紀に家の中に入る承諾を取り付けた。
「その代わり、私とお兄ちゃんも一緒に行かせて」
宇羅彦が仕方ないと頷いた。
「大那、虎雅。この人たちも一緒に結界で守って。きっとモドキが降ってくるから」
大那と虎雅は思わず固唾を呑んだ。恐ろしい緊張感が漂っていた。
「由良!」
「うん、ウーちゃん!」
二人は大きな結界を張って、家の中へ入っていった。
「奥の座敷だ!」
「あっ、そこは!」
「なに?」
「お父さんの…」
確かに宇羅彦が言った通り、結界にはモドキがバンバンぶつかってきた。
「コイツら、宿主を探してる。もうケガレ化が進んでる証拠だ」
座敷の襖を開けるとそこには、裸の女が裸の男をアソコに咥えて離さず、ユックリとユックリとズルズル飲み込んでいた。男の下半身は折りたたまれるように、腹のあたりまで飲み込まれていた。
男を飲み込んでいたのは美由紀の母親だった。そして、口からモドキを吐き出しながら目を引ん剝いて飲まれていたのは雄一郎の父親だった。
幸いなことに二人には大量のモドキが集っていて、エグい状態は真っ黒なモドキの中だった。
「お母さん!?」
「親父!?」
二人は在ろう事か、亡くなったばかりの美由紀の父親の仏前でまぐわっていた。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
美由紀の母親はずっとブツブツ繰り返していた。
美由紀の母親の顔は青黒い色に変わってきていた。間もなく気が枯れて、醜いミイラ化が始まる。
母親は最後の気力を振り絞って叫んだ。
「いやあーっっ!!こんな男とっっ!!
助けてーェェッッ!!離れないの、止まらないのよう!!」
美由紀は由良姫の腕をつかんだ。
「お母さん、助けて…」
もうここまで来たら助からない。由良姫は美由紀の顔を見た。
「助からんのなら、今、殺したって。一つになる前に、お願いっ!!」
迷っている由良姫に、美由紀は懇願した。
雄一郎は信じ難い状況に呆然としていた。絞り出すような声で、美由紀の言う通りにしてやってくれと頼んだ。
「お母さんが叔父さんと醜く、くっついて大きくなるくらいなら、消しとばしてよ!!あの時みたいに!!」
「なん、て…!?」
由良姫はこちらへ手を伸ばしてくるミイラ化してきた、美由紀の母親へ輪響紋の術を放った。女は言葉にならない音を発した。
「ギャッ、ギ…ギエ…ッ!! ミ、ギエ…」
宇羅彦が続いて祓っていく。
「ゴ…グェッ、ンッ!!」
最後にもう一度、由良姫がトドメを刺すように術を繰り出して祓った。ミイラ化していたものは、一つになる前に大量のモドキとともに消滅した。
そこに在ったはずの、狂気の塊は、家族の願いとともに消え去った。
大きく一体化し、モドキを大量に宿した強大なケガレになるべく計った存在は、思う通りに行く前に、人の部分を残しつつ祓われた。
本来ならここで、ケガレに関わった人たちの記憶は、ケガレの消滅とともに失われるはずだった。
雄一郎の方は何が起きたのか、きれいさっぱりなくなっていた。しかし、沢田美由紀にはなぜか残っていた。
由良姫は美由紀に呼び止められた。
「お母さんを助けてくれてありがとう」
「どういうこと!?だって私…」
「ケガレだっけ、あんな醜いバケモノになって。一瞬に消すっていうか、祓ってくれた?」
美由紀は由良姫の両手を握りしめた。
「もう助からない。ケガレとかになる苦しみから救ってくれた。あなたのしてることって、そういうことでしょう?」
「あの、もしかして、覚えてるんですか?」
「消すとこだけ。お母さん、光の玉に包まれて笑ってた気ィする。ありがとうございます」
美由紀は涙の残る顔で、にっこり笑って言った。
「もし、都合の悪いことなら、忘れるわ。そういうのは得意だから」
美由紀の目からは大粒の涙がこぼれていた。今日出かける時、母親は何かを言い淀んでいた。
きっとずっと苦しかっただろう。父が倒れて日に日にやつれていく姿から、ずっと臭っていたあの臭い。きっとずっとそうだったのだ。
自分のことで精一杯で気遣ってやれなかった。




