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水泳部3年沢田美由紀①

美由紀は大きな街の駅裏にある大手予備校に通っていた。今日も午前中講義を受けていた。昼は友達とどこかファストフード店で食べて、どうしていただろう。多分図書館や自習室で勉強していたように思う。

今日はなんだか無性にプールでひと泳ぎしたかった。学校に寄ってプールへ行くと、案外自分と同じように息抜きにプーへ泳ぎに来たという3年がいた。


「なんだ、沢田も来たのか」

「お父さんのこと、聞いたよ。元気出せよな」

OBの瀬名も来ていた。ちょうどこれからまた1、2年の特訓らしい。下級生たちも寄ってきて美由紀に父親のお悔やみを伝えていた。

空いているコースで、美由紀は思い切り30分ほど泳ぐとスッキリした。


美由紀がプールから上がってシャワー室へ行くと、入り口で狐が寝そべっていた。

「えっ!?キツネ!?」

狐はくん!と臭いを嗅ぐと、ふん!とでもいうようにその場を立ち去った。

「ケーン!!どこ行ったーん!!」

由良姫が狐のケンを探してやってきた。ちょうど美由紀が着替えて出てきたところだった。


二人は顔を合わすと、あれ?となった。以前にも似たようなことがあったような、既視感というものがあった。

プールからは瀬名の声が聞こえてきていた。


世の中には、モドキによる気枯れに強い人もいる。巢喰われていても、そう簡単にケガレにはならない。

影響力も自らねじ伏せられる強い人もいるのだと、由良姫は思った。


反対に簡単にモドキに侵されてしまう人たちもいる。

「お願いです、もう今日は堪忍して下さい」

「そんなこと言って、あそこから汁を垂れ流しとるのはあんたの方じゃろ」

「ああ…あああっ!ああっああっ!!はあぁぁぁっ!!あああっ!!」

2階の寝室で、熟れきった、し盛りの女の体を、60とはいえ野良仕事で筋骨隆々の男の体が蹂躙(じゅうりん)していた。


美由紀は家へ帰ろうと川沿いの遊歩道の木陰を歩いていると、叔父の息子の雄一郎と出会った。

「今、ちょうど親父と叔母さん、これからのこと話し合っとる。おまえは、行かん方がいい。車で来とるで、ちょっと喫茶店でも行かんか?」

美由紀は年の離れた、この従兄弟のことがあまり好きではなかった。


美由紀が無視して通り過ぎようとすると、雄一郎はその腕をつかんだ。

「何するの」

「無視するからだ。おまえみたいに小便(しょんべん)臭いガキになんもしいせんわ」

「じゃあ、お母さん狙いとか!?」

「そこまで女に不自由しとらん。おまえ、想像力豊かすぎ。そんなことばっか考えとるんか」


「そんなことないわ」

「今は大事なおまえの進学のこと話しとる。おまえ私立のお嬢様大学行きたいって言っとっただろ。それの金の話をしとる」

「それならもういい、県大に志望変えたし。お金かからんようにするで。あんたらの世話にはならせんわ!!」

「へえ、おまえ賢いなあ。県大かあ、こっから通えるしなあ」


そこで、グウッと美由紀のお腹の音がなった。

「なんや、昼飯食っとらんのか。ほら、ファミレスでも行かんか」

美由紀は仕方がないなと、雄一郎について車に乗っていった。

昼過ぎの安いファミレスでは、図書館代わりに学生で溢れていた。

そこへ大人の男性と女子高生という組み合わせでの入店は、周囲からチラ見の対象となった。


「おい、おまえらの頭ん中は、ヤることしかないんか?」

「ちょっと、お兄ちゃん!!」

美由紀は雄一郎のことを小さい頃からそう呼んでいた。思い返せば、結構可愛がってもらっていた記憶がある。

「このませガキが、妹に手ェ出すカスがどこにおるんだ」


雄一郎が大きな声でそう言うと、周りからのチラ見が止んだ。

「なんで、あんなとこおったん?」

「親父を乗せてきて、話が長くなりそうだから、叔母さんにおまえに飯食わせてやってくれって頼まれたんだよ」

「なんだ、最初からそう言ってくれればよかったのに」


美由紀はデザートまで食べて、すっかり満足していた。

「ちょっと待っとって。今おまえん家に電話して確認するで」

雄一郎が取り出したのは、最新の携帯電話だった。いわゆるガラケーの最初の頃の機種である。時代はバブルがはじけゆるく傾き始めていた。


「うわぁ!?ねぇ、ちょっとだけ見せてよ。ダメ、高いんだぞ。会社のだから」

美由紀の家の電話が鳴った。

「クソッ!!今いいとこなんじゃ」

叔父は、美由紀の母親の豊満な乳房をわしづかみにしながら、パンッ!パンッ!、ズプッ!ズプッ!と音を立てて最後の仕上げに入っていた。


「ああっ!あああっ!いくっ!いくっ!いくうっ!!あああああっ!!いいいっっ!!」

美由紀の母親の喘ぎ声が電話のベルにかき消されていた。

「お母さん、出た?」

「もしもし…」

「あ、お母さん?お兄ちゃんとファミレスにいるの」

「ちょっと返せ!通話料、高いんだから」


美由紀の母親は裸のままで電話に出ていた。電話を切ると、慌てて寝室に行った。

「美由紀のことはよろしくお願いします」

「あんたさえ、わしのもんになっとったら、なんぼでも言うこと聞いたるわ」

男は名残惜しそうに、いつまでも女の乳首を吸っていた。


昼過ぎ、芥見本家へ集まった面々は、神守我央がこちらへ来ていることを知らされていた。皆、何度か聞いていた名だった。


同時に、今日から大きな街で東横を中心に、一斉に夏休みの補導強化が始まった。

ニュースにはならなかったが、昨夜は数カ所のホテルなどで異臭騒ぎもあった。

万里依からはケガレの事件について、ほぼ全部報告された。とてもじゃないが、高校生では太刀打ちできないものばかりだった。


話題は、お盆に行われる大きな街での祭りについてになった。徹夜とはいうが、こちらは街の条例などもあり、ダンスについては夜9時で終了、翌朝9時から再開されるということがわかった。

鹿野神家からはお盆は五山の送り火があるから返ってくるよう連絡が来ていた。


「お盆かあ、お盆はなんやワサワサして苦手やわ」

「ご先祖様のように、()(もん)ばっかが帰ってくるわけやないさかい」

お盆には、常世の大河との境の堤では夜通し篝火が焚かれる。なるべく闇をなくし、闇に潜むものが憑いて来ぬよう。また(にえ)となった先祖の御魂(みたま)を供養するためでもある。


「今年は、奏司さんの初盆ですから、御子姫殿の元へ行きますよ。忘れてないでしょうね」

眴が由良姫と宇羅彦に念を押した。

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