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勢揃い

芥見の本家へ、今、高校生以上で二つ紋、つまり輪紋と響紋両方を併せ持つ者、が集まった。

二つ紋は徐々に産まれつつあったが、それよりもケガレの変容の方が早かった。


鹿野神(かのがみ)は元は響家(ひびきけ)の本家筋で、西の方に点在して暮らしている。

猪野神(いのがみ)は元は奏家(かなでけ)の本家筋で、東の方に点在して暮らしている。


芥見家は、古くからとある地方の芥見という集落に住んでいる。輪紋響紋衆の中でも、物見の力を発言する者が生まれる一族である。


芥見(あくたみ)(げん)常世(とこよ)の眼を持ち、ケガレがよく見える。以前は、御子姫の元で常世の(ケガレ)の研究をしていた。今では現世(うつしよ)に紛れこんできたケガレを視たり、モドキを取り出したりすることができる。


芥見本家には、万里依と宇宙依の姉弟がいた。二人とも現世(うつしよ)の目を持ち、現世でのケガレの動向の予知もしくは予測ができた。


万里依は近くであれば、ケガレやモドキの動向が手に取るよう視ることができた。

宇宙依はケガレが原因で起きるであろう現象の、未来予測ができた。あくまで予測であって、確定的な予知ではないが、概ね当たっていた。


先日、日曜日に、由良姫と宇羅彦に話して祓いに行かせた、水泳部のシャワー室の件は、唐突にイレギュラーが起きた。さらに予測にない、音楽室でのケガレの発生が重なった。

どちらも起きることは予測できていたが、日時まではっきりとわかっていたのは日曜の昼頃だった。宇宙依はケガレの発生が強く感じられた方を優先した。だからシャワー室へ行かせたのである。


「由良、宇羅、ほんま、ごめんな。俺にもっと強い視る力があったらよかったんやけど」

「宇宙にい、大丈夫。とりま、聞いてたし、ヤバいんはわかってたし」

「うちも視れるけど、なんやもう、ワッと一気に入って来て、情報量多すぎてバグるみたいな」

万里依は頭をかかえて、ため息をついた。


「で、それら全部特徴書き出して、宇宙に渡すと、こう、なんや、ヤバいんが浮き上がってくるらしい」

「眴さんが言ってた、いっぱいありすぎて、その中から特にヤバいのを抽出するのがめっちゃ困難」

「それだけ、モドキに巣喰われて、気枯れを起こしそうな人がぎょうさんいてはるってことやろ?」


「うちら、学校の中入ってくわけにはいかへんから、そうやなあ、事件起きそうな繁華街へ行くわ」

凛華がパパッと決め始めた。

「凛華は大きな街の栄で遊びたいだけやん」

初音が呆れ顔で言った。


「そうやなあ、確か3年にパパ活グループあるらしいで、そっちを凛華と初音で見ててもろたらええんちゃうか」

口数少ない宇羅彦が喋ると、いつも結構的確なことを言う。

「じゃあ、大那と虎雅は、うちらのクラスの女子で決まりやな」

由良姫が、二人を見つめて言った。二人はメンドー臭そうに返事をした。


クラスの女子たちは、ダンスチームを作っていた。

そこへ、隣の市にある県立東高の大きなチームに誘われていた。どうも、大きな街で開催される、全国規模の祭りと称するダンス大会に参加するというのだ。

祭りの大会はちょうどお盆の最中だった。

「ねえ、一緒に参加してくれると嬉しいな」


エリと呼ばれてる、リーダー格の女子が大那に笑いかけながらくっついてきた。

「おまえ、臭いな」

エリは驚いて、何コイツっていう眼差しで大那を睨み返した。

虎雅がニコニコさわやかスマイルしながら割って入った。

「君さあ、なんて呼べばいい?」

「あ…エリです」


「エリちゃんさあ、何かつけてる?コロンみたいの」

「あ…シャワーミスト」

「そういうのが、あいつ苦手でさあ。いきなり臭いとか、ゴメンね」

虎雅は上手にごまかした。確かに、エリからはケガレ臭がしていた。

大那と虎雅は、エリの誘いに乗って、県立東高のダンスチームへ行くことに決めた。


由良姫は宇宙依に、入手した音楽部の学内合宿のことを話していた。

高校の古い体育館を取り壊した跡地に、今年新しく合宿施設が完成した。申請条件さえ満たしていれば、どの部活動でも使用可能だった。

そこで、8月初旬に1週間、音楽部が合宿することになっていた。OBやOGも何名か来る。そのうち教員免許を持っている者が3名いる。


もちろん、篠さんも通いで参加するらしかった。

宇宙依は、今すぐ何かが起きるわけではないが、合宿中に学内で、というよりも、そのあととか用心した方がいいと、由良姫に告げた。

8月に入ると、夏休み明けに始まる学祭に向けての準備が本格的になる。

届出をすれば下校時間過ぎても学内に残れた。宿直の先生が見回りに来てくれる。


本当に進学校なのかという、ゆるさがあった。それだけ田舎であるという証拠でもあった。まさか、こんな田舎で、殺人事件並の凶悪事件が起こり得るなんて誰一人として思ってもいなかった。そういう場所だった。

由良姫と宇羅彦が参加している科学部でも、ロボコン班が秋のロボコンに向けて、新しくできた合宿所を使ってみたいというだけで、2泊3日で合宿を決めていた。同じような理由で、合宿を申請している部活動は結構あった。


大きな街へ行っていた凛華と初音からは、早々にパパ活の報告が上がっていた。特に、中心部の東横と呼ばれる、映画館などアミューズメント施設が入ったビルの、大通りをはさんで向こう側に中途半端な空きスペースというか、待ち合わせ場所があった。通称、東横。観覧車横とも呼ばれていた。

そこは元々、ベンチがあって木も植えられている、公園というには小さな、若年層の溜まり場だった。


大きな街の駅前とは全然違う、その街の高級百貨店と繁華街と歓楽街と、とにかく何もかもが凝縮されたような場所だった。

パパ活女子のうちの一人、水泳部3年の美由紀は、待ち合わせた男性と新栄と呼ばれる、栄が広がってできた新町の方に新しくできた高級ホテルのラウンジにいた。

凛華と初音は、そこのティールームにある有名なアフタヌーンティーセットをいただきに入っていた。


様子を伺っていると、美由紀が首を横に振って、何やらもめているようだった。どうやらパパ活の交渉がうまくいかなかった様子だった。すると、一旦ホテルの外に出た美由紀がティールームの方へ入ってきた。間もなくすると先ほどより見た目もスマートで、年齢も少し若そうな男性がやってきた。

「へえ、ゴツいなあ。昼間の高級ホテルやで」

「どうせ、待ち合わせだけやろ」


初音が言った通り、しばらくすると交渉が成立したようで、二人はホテルから出て男性が乗ってきた車でどこかへ行ってしまった。車は高級外車だった。

「初音はよう見てはるなあ」

凛華は感心したように呟いた。

「ここのホテルのラウンジ、言っちゃ悪いけどそんなんばっかやわ。大人も子供も」


「さあ、うちらはアフタヌーンティーをいただいたら、ちょっとJKご用達ブランドの路面店にでも行ってみる?」

「うち、ティファニーに寄りたいねん」

初音は勝手に、ネックレスのチェーンの直しに店へ入っていってしまった。

そこでラッキーなことにおねだり中のパパ活女子のグループの一人に出くわした。

「うわあ、エゲツないわ、臭いが」

凛華が呟いた。

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