殿と言う名の
「殿が折角冗談を言われているのであるから……。」
これに乗らない手は無いぞ。
「殿である事を殿は?」
「私がお呼びした。」
「何故そのような事をしてしまったのだ?」
「殿は殿でありますし、どうしてもお伝えしなければならない事がありました故。」
「殿御自身は殿である事を?」
「隠されている。」
「ならば……。」
殿と言う名の渾名の下僕と言う設定で乗ってみるのは如何であろう?
「そうすれば皆も殿を弄る事が出来る。これまで言う事が出来なかった事も言う事が出来る。何故なら殿は下僕であるのだから。」
「だけどどうする?殿が下僕設定に乗ったふりをして……。」
終わった後、調子に乗った連中全員を成敗したら。
「心配する事は無い。」
「いやいや。普段の殿を知っておろう。何故そう言い切る事が出来るのだ?」
「いやいや。状況が状況であろう。斯様な時に我らを手打ちに出来る余裕は無い事ぐらい、殿も御存じであろう?」
「しかしそれをしてしまうと秩序が乱れてしまう。今の状況で、それは許されない。」
「……仕方ないか。殿を文字通り殿として、崇め奉るしかないか。」
「あの……。」
「殿。如何為されましたか?」
「私が平素どのような立場で。どのような振る舞いをしているのか?が薄らではありますが、わかりました。規律が厳しすぎる事については、今後是正して行きます。」
「『敬語を使う殿。』
と言う設定でありますか?」
「ならこちらは
『ため口で返す部下。』
で行こうか?」
「今は秩序が必要なんですよね?」
「そうだが?」
「そこは……。」
線を引きましょう。
「……仕方ないな……。」
「ありがとうございます。先程の質問。名前に付いてでありますが、今本当にわからない状況にあります。事情を伝えても理解していただけない事は重々承知しているのでありますが、そうですね……。」
今、私が入っている人物に関する記憶がありません。
「別の誰かが、今この人物に入り込んでしまっているのであります。」
「曲者?」
「いえ、そうではありません。私は皆様の味方であります。危害を加える事はありません。そこはわかってください。」
「う~~~ん。ならばこうしよう。我らには、我らにしかわからない合言葉がある。それを答えていただきたい。」
えっ!?
「いや。それは無理な注文であろう。何せ殿は全ての記憶を失われているのであるのだから。ここは正直にお伝えした方が?」
「そうだな。遊んでいる場合では無い。」
「ではお伝えします。殿のお名前は……。」
上杉景勝であります。