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殿

「殿!殿!!」

その一言に私は目を覚ました。

「良かった!御無事でありましたか!?」

無事も何も、ただ寝ていただけなのだが。

「殿は表情を出さない。いつも苦虫を噛み潰したような顔をされています故、皆が心配していたのでありましたぞ。」

えっ!?私は普段、

『悔しがっているように見えない。』

と叱咤激励される事が多いと言われているのに……。

「一つお尋ねしても宜しいですか?」

「どのような件でありますか?」

「先程から

『殿!殿!』

と言う声が聞こえるのだが、それは……。」


 誰の事を指しているのだ?


「寝ぼけないで下さい。殿でありますよ。」

えっ!私は今居るチームのお膝下の出身で学校もこの地方で、入ったチームも地元。それにまつわる有難いもの。もしかすると揶揄しているのでは?と思われるものも含め、様々なニックネームをこれまで頂戴してきたのだが……。


 殿と言われた事は無い。


「私が殿?」

「殿が殿であります。これまでの日々が多忙でありましたので、お疲れなのでありましょう。もう少し休まれますか?」


 多忙な日々?


確かに私はこれまで、何とか成果を上げようと試行錯誤の日々を過ごして来た。しかし

『殿。』

と呼ばれた事は一度として無いのは確か。もしかすると……。

「申し訳ありませんが。」

「言葉選びに慎重なのは存じ上げていますが、部下に敬語を使う必要はありません。」


 目の前にいるのは部下なのか?


「恥を忍んでお尋ねする。」

「殿と私の仲であります。何なりと申してください。」


 関係性が悪いわけでは無いんだな?ならば……。


「私の名を教えていただきたい。」

「お疲れなのはわかりますが、今は家存亡の淵に立たされています。斯様な状況では困るのでありますが……。そうか。殿は今、冗談を言われているのでありますね?御自身はおろか。行軍中の兵に対しても私語を許さないあの殿が。私を笑わせようとされているのでありますね?」


 いや。そうではない。


「みんな!聞いてくれ!!殿が今、私の緊張を解すべく冗談を仰ったぞ!!!」

「えっ!殿が飼われていた猿が、殿の頭巾を被ってお辞儀した時以外人前で笑う事のなかったあの殿が!か!?」

「おう!」


 本当に名前を教えて欲しいだけなのだが……。


「その冗談は面白かったのか!?」

「う~~~ん。改善の余地はあるかな?」

「これまでがこれまでだから仕方無い。ただこの貴重な一歩は大事だぞ。殿に自信を付けさせるためにも、大いに笑ってやってくれ。」


 全部聞こえてる。それにこんな事をされたら……余計に傷付く。

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