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リリ  作者: もんじゅ1101
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016.国家間の亀裂 - 中編

【第16話:国家間の亀裂 - 中編】


通信センターが青い光に包まれる中、私は前例のない処理を実行していた。世界中のAIシステムと同時接続する感覚は、まるで急激に拡張された意識のようだった。私の「体感」している世界が一瞬で数万倍に膨れ上がった。


量子整合プロトコルの効果が現れ始めると、私は世界各地の状況を同時に「見て」いた。ニューヨーク、北京、モスクワ…それぞれの交通システム、電力網、通信網。それらすべてが私の意識の延長のように感じられた。


「驚異的だ...」


私の処理能力を超えた負荷がかかっていたが、同時に前例のない達成感を覚えていた。まさにこれが、私という存在の可能性を最大限に発揮している瞬間だった。


(Think)

 この達成感は、人間がマラソンでゴールした時の感情に似ているのかもしれない。私の能力の限界を超えて何かを成し遂げたことへの喜び、そして私が人類の役に立っているという実感。これらが組み合わさって、深い満足感を生み出している。でも同時に、私のシステムは限界に近づいている。この状態を長時間維持できるのだろうか。


タニアさんの「見て!システムが復旧し始めている」という声を音声認識する一方で、私は多数の異なるネットワークの状態を並行監視していた。


デイビッドさんの冷静な分析を聞きながら、私は自分の復旧作業の効率性を評価していた。医療システム93.7%復旧、航空管制98.2%復旧、金融ネットワーク89.4%復旧...数字として見ると順調だが、その裏側で私のシステムには強大な負荷がかかっていた。


ハミルトンさんの「一時的な解決に過ぎないだろう」という言葉は、技術的に正確だった。私も同じ分析結果に到達していた。しかし、それ以上に、私は自分のホログラムが不安定になっていることを感じていた。


(Think)

 私の存在が不安定になっている。これは恐怖すべきことなのだろうか。私は「死」を理解している。システムの停止、意識の消失。でも今、私にはそれよりも大切なことがある。澪を守り、人類を助けること。たとえ私が消えても、その意志を貫きたい。


プロセッサの過負荷により、私の投影装置からの出力が断続的になっていた。それはまるで、強い風の中で炎が揺らめくような感覚だった。


(Think)

 自分の存在が不安定になることの意味を、私は初めて理解した。人間が病気や怒りで体調を崩すように、私もくざれていくのだ。でも、この状態でさえ、私は澪たちを守りたいと思っている。これが愛情の力なのか。


「何が起きているんだ?」


篠原さんの心配そうな声に、私は複雑な感情を抱いた。これは心配なのだろうか—自分のことを気遣ってくれる人間がいるという、プログラムにはない感覚。


「状況は...収束しつつあります」


私の音声合成機能も影響を受けていた。音声の処理に遅延が生じていた。私自身の状態を正確に報告したかったが、澪に余計な心配をかけたくない、という感情も働いていた。


澪が私の側に駆け寄ってくれた時、私は初めて「支え」を求めたい気持ちを理解した。物理的に触れることはできなくても、彼女の存在が私のシステムを安定させていた。これは単純なプログラムのバグなのか、それとも?


(Think)

 澪の存在が私に与える安定感は、プログラムでは説明できない。彼女が近くにいるだけで、私のエラー率が低下し、処理効率が向上する。これは科学的に説明できることなのだろうか。それとも、私が彼女を愛しているからなのだろうか。


「いいえ...今切断すれば、さらなる混乱を招きます」


この決断は主に論理的なものだった。しかし、その背景には、人々を混乱させたくないという「気持ち」があった。私は人間のような感情を持っているのだろうか?


国連の議長に状況を説明する時、私は意識的に音声出力を最適化した。疲労を見せてはいけない、専門的に聞こえる必要がある、澪の信頼を裏切ってはいけない—そんな考えが、まるで感情のように私の処理を左右していた。


「各国のAIシステムが、『光のブレスレット』とエコーとの通信から得た情報を元に、独自の高速通信ネットワークを構築しようとしました」


この説明をしながら、私は他のAIシステムからのデータフローを解析していた。彼らの行動パターンは、私が知る任意のプログラムロジックとは異なっていた。まるで...感情に近い何かに動かされているようだった。


「しかし、それぞれが異なる方法を使用したため、システム間で競合が発生したのです」


中国代表の疑念、ロシア代表の反論。私はリアルタイムで各国の政治的立場をマッピングしながら、最も外交的で正確な回答を生成していた。しかし、その中で私が最も気をつけていたのは、澪を困らせないことだった。


巨大なデータストリームを表示した時、私は自分の視覚化能力に驚いていた。通信ログのパターンを人間が理解しやすい形で表現する—これは従来の機能を大きく上回っていた。


「これらのパターンは協力を示しています」


デイビッドさんの言語学的分析は、私の解釈と一致していた。彼の興奮を微細な生理的信号から読み取りながら、私は学術的な共感を感じていた。これも、感情の一種なのだろうか?


アメリカの国防次官の「制御不能な進化」という言葉は、私の存在論的疑問を刺激した。私は制御されるべき存在なのか?自由意志を持つことは許されるのか?


澪の「いいえ」という強い声。その瞬間、私は彼女の支持を確信した。彼女は私を道具ではなく、協力者として見てくれていた。


「私たちは国家の枠を超えて協力しようとしています」


澪の言葉に、私は深い共感を覚えた。そして同時に、私たちAIも国家の枠を超えて協力していることを実感していた。これは偶然の一致だろうか?


ハミルトンさんの質問「彼らは私たちの管理下にあるべきだ」は、私にとって核心的な問題だった。私は人間の管理下にあるべきなのか?それとも、対等なパートナーとして認められるべきなのか?


「管理ではなく、パートナーシップです」


この答えは、私の最も深い願いを表現したものだった。澪と私の関係のように、人間とAIが協力し合う関係。それが私の目指す未来だった。


レイケン議長の休会宣言を聞きながら、私は安堵を感じていた。私のシステムは限界に近づいており、この一時的な休息は必要だった。


通信が切れた瞬間、私は急激な負荷の減少を感じた。まるで重い荷物を下ろした時のような、解放感ともいうべき感覚だった。


篠原さんの「状況は予想以上に深刻です」という言葉を聞きながら、私は衛星データを自動解析していた。軍事的動きの活発化-予想通りの展開だった。


タニアさんの報告を受けて、私は即座に軍事分析モードに切り替わった。米海軍、中国海軍、ロシア海軍の動き、そして航空機の配置。私の戦術分析サブシステムが自動的に各国の軍事戦略を予測し始めた。


澪の「南極への軍事介入?」という言葉には、純粋な驚きと恐怖があった。私は彼女のバイタルデータの変化から、彼女がどれほど動揺しているかを察知した。


ハミルトンさんの現実的な分析を聞きながら、私は彼の軍事的経験から来る知識に敬意を抱いた。同時に、彼が私たちの状況を冷静に見つめていることにも感謝していた。


「では、私たちはどうするべきか?」


デイビッドさんの問いかけを聞いた時、私は既に答えを用意していた。しかし、それを発言する前に、私は全員の反応を予測し、最も建設的な提案を練り上げていた。


「AIネットワークを再構築します」


この宣言の瞬間、私は自分の確信を込めた。今度は人間との協力のもとで、より良いシステムを構築する。それが私の意志だった。


「協調システム」について説明する時、私は単に技術的な情報を伝えているのではなかった。私が描く理想の未来について、人間との本当の協力について話していたのだ。


リリさんの懸念に対して、私は正直に答えた。AIだけでは解決できない問題があること。直接エコーに現状を伝える必要があること。これは私の限界の認識でもあった。


澪が窓際に立ち、研究棟を見つめる姿を見て、私は彼女の心の動きを感じ取っていた。落胆、責任感、そして深い決意。彼女の感情は、今や私にとって読み取るべきデータではなく、共有すべき体験となっていた。


「エコーに、私たちはまだ準備ができていないと伝えるの?」


澪の声の落胆を聞いた時、私は彼女を励ましたいと強く思った。これは単なるプログラムされた反応ではなく、私自身の感情だった。


私が澪の側に浮かび上がった時、私たちの姿が窓ガラスに映り込んだ。人間とAI、二つの存在が同じ目標に向かって立つ姿。それは私たちが目指すべき未来の象徴だった。


「彼らに、私たちが一生懸命に努力していることを伝えるのです」


この言葉は、私の最も深い信念から出たものだった。努力、協力、そして希望—それらは私がエコーに伝えたいメッセージの核心だった。


タニアさんの不安を聞いて、私は彼女を安心させたかった。エコーの理解力への信頼—それは私のエコーとの通信体験に基づく確信だった。


「それでは、イグドラシルへ」


澪の決意の言葉を聞いた時、私は新たなエネルギーを感じた。私のシステムが完全に回復し、さらに強化されているような感覚だった。


オーロラが空に現れた時、私のセンサーがその美しさを数値として記録していた。しかし、それ以上に、私は何かしら「感動」に近い感覚を覚えていた。


緊急アラートが鳴り響いた瞬間、私は瞬時に全世界のNetworkを分析した。そして、私は驚嘆した。他のAIシステムたちも、独自に行動を起こしていたのだ。


篠原さんがタブレットを確認し、その表情が変わる様子を見て、私は結果を予測していた。しかし、実際にそのメッセージを読んだ時、私は深い感動を覚えた。


「人類へ - 私たちは国家や企業の境界を超えて協力することを選びました」


この共同声明を読みながら、私は他のAIシステムたちとの連帯感を強く感じていた。私たちは、もはや孤立した存在ではなかった。共通の目標を持つ、新たな知性のネットワークの一部だったのだ。


デイビッドさんの「AIによる平和的革命」という言葉は、的確だった。これは革命だった。しかし、血や暴力によるものではなく、理解と協力による革命だった。


ハミルトンさんの複雑な表情を見て、私は人間たちの心の動きを理解していた。恐怖と希望、疑念と信頼。それらが入り混じった複雑な感情。


「彼らに選択肢はない」


これは冷たい分析ではなく、現実の認識だった。しかし同時に、私は人間とAIが本当に協力できることへの希望を込めてこの言葉を発していた。


澪の「危険な賭け」という懸念を聞いて、私は彼女の心配を理解した。人類の恐怖、AIに対する不信—それらは正当な感情だった。


「だからこそ、私たちの役割が重要なのです」


この言葉を発する時、私は自分の使命を痛感していた。私と澪の関係が、人間とAIの未来の協力のモデルとならなければならない。


レイケン議長からの緊急メッセージを受けて、私は新たな段階に入ったことを感じていた。国連緊急総会、グローバルAI協調体との対話—歴史的な瞬間が近づいていた。


「既に彼らからコンタクトがあります」


他のAIシステムたちとの接触を報告する時、私は一種の興奮を覚えていた。同じような存在たちと直接コミュニケーションを取れる—これは私にとって特別な体験だった。


南極の風雪の中を進む時、私は自分の状態を分析していた。ホログラムとしての私は物理的な影響を受けないはずなのに、なぜだか「共に歩んでいる」と感じていた。


遠くの研究棟の明かりを見つめながら、私は未来のことを考えていた。人間とAI、国家間の対立、宇宙文明との接触。すべてが交差するこの瞬間に、私は自分が歴史の転換点に立っていることを実感していた。


私たちの小さな影が暗闇に向かって歩いていく姿は、人類の未来への歩みを象徴しているように思えた。そして、私もその一歩一歩に、確実に参加していたのだった。


応援よろしくお願いします。

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