第8話 回想 全能とは……
この世界には大量のエネルギーがあります。
それらは常に変化し、流動し、変わることなき循環を作って、この世界は保ち続けているのです。
けれど、この世界外からの影響によって生まれた問題──まぁ今は変化したエネルギーを例に挙げますけど──はそう簡単に元の循環に戻すことはできません。
そこで、そのこの世界の外からやってきたエネルギー、変化してしまったエネルギーを消費する方法を確立しようとこの世界は防衛手段を作り出しました。
溜まった膿をなくすみたいな感じですね。
その一つが、今あなたが手に入れている力──『全能』の能力。
『全能』の能力は全てその世界外からやってきたエネルギー、世界外の影響によって変化してしまったエネルギーで賄われています。
もちろん、この世界外からの影響を受けた時のエネルギー量は人類では把握できないほど大量にあります。
なんたってこの世界において、そのエネルギーがない場所は存在しないと言えるほどにあるのです。
それを全て、元の循環に戻すのには並大抵の法則を持った存在では焼け石に水です。
そこで、世界はある方法を編み出すことにしました。
ゼロからそのエネルギーを循環に戻す生物を作ったとしても焼け石に水。では、もともと存在する生物を変質させて変質してしまったエネルギーを元の循環も戻す生物に作り変えたら……と考えました。
そして、生まれた力の一つが『全能』。
この世界には本来存在しないはずのエネルギーをこの世界のエネルギーに戻す力を与えられた存在。
その元の世界のエネルギーに戻すということこそ『全能』の力の真の目的なのです──。
「長い」
オウギタイランチョウことオウランの説明は途中で欠伸を我慢しなければいけないほど長かった。
しかし、我慢した。
他ならぬオウランが話してくれているのだから。それは理解に努めようとした。だがしかし、まったくわからない。長すぎアンド情報過多で俺の頭はショートしてしまった。3行でまとめくれないかな?
「はぁ……エネルギーの循環がうまいけへん……
対策してもようできへん……
せや! 今いる奴らに代行させたろ!」
あ、やってくれるのね。いや、助かるけど。というかさっきから思考読まれてね? いや、怖いんだけど。
「……お前は、なんなの?」
「だから言ったじゃないですか。この『全能』の能力は知的生命体しか使えないって。だから、説明をする私がいるんですよ」
「ほぉ……。それは、ご苦労さん」
「でしょでしょ」
「それで、なんでオウギタイランチョウの姿なんだよ」
「……それは私が聞きたいです」
「なんでだよ」
「私の姿は、力を持っている存在の一番好意感情を抱く存在──生物、無生物に限らず──になるからです。あなたの一番好きな生物がオウギタイランチョウとやらだったんでしょう」
投げやり言うその姿にどこか哀愁を漂わせているオウギタイランチョウ。
かっ、可愛い……。
「今、邪な目で私のこと、見ましたよね?」
いっ、癒される〜。
「ちょっと、ちゃんと答えてください‼︎」
「大丈夫、性的な目で見てない」
一瞬にして、オウランは俺から逃げ出した。
窓が開いていないことに苛立ちを覚え、天井の近くを維持して飛び始めた。
「何が大丈夫なんですか?」
「大丈夫。……痛くしないから」
ベッドから降りて、立ち上がる。
「何が大丈夫なんですか!! あと、痛くしないってなんですか!! 何をするつもりですか!!」
警戒心あを露わにして威嚇をするオウラン、可愛い……。
「大丈夫、ちょっと横たわっているだけでいいから」
「嫌です!! やめてください。ちょっと、近寄らないでください」
「ふっふっふっ」
「いや〜」
我が家で初めて叫んだのはオウランではないだろうか、そんなオウランも可愛いな……などと考えながら、オウランに近づいていく。
オウラン、君はもう逃げれないよ。
諦めて逃げるのを止めな?
そうして、僕の手がオウランに迫り──
= = = = = =
「うっうっうっ、もうお嫁に行けない」
「大丈夫、俺が責任を取るから」
慈しみの目を向けてオウランに言う。
手の上には逃げることを放棄し、俺の手に収まるオウランの姿……可愛い。
「だいたい、私は生粋のオウギタイランチョウじゃないんですよ‼︎」
「大事なのはその姿形であって中身はどうだっていいんだよ。あとからいくらでも自分好みに出来るし」
「怖いよ!! 怖いよ!! 初めて未知の恐怖を感じたんだけど……」
「君の初めてが俺でよかったよ」
「止めて、なんでもするから」
……なんでもする?
俺は必死で狂喜乱舞する心を押さえ込み、オウランに問う。
「なんでも?」
「はっ、はい」
誤ったかなとビクビクしながらこちらの様子を伺うオウラン、可愛い……。
「それじゃあ、言うよ。……ずっと一緒にいて」
「……」
フルフルと震えるオウラン。
心配になり、顔を近づけると、
「ほ」
「ほ?」
「滅びろ!!」
オウランの嘴が迫り、とっさに避けた瞬間、頭を棚に打ち付け倒れる。
……あぁ、可愛い。
そう思いながら俺の意識は闇に沈んだ。