第５話 回想 学校に登校したら……
俺の朝は早いと言っていいだろう。
朝の６時に起きて、小宮ばあちゃんが作り置きしてくれたご飯を食べる。
小宮ばあちゃんは毎日４時に起きて、畑仕事をしている。
今もアルバイトというか、スキマバイトの人と一緒に精を出しているのだろう。
今日の朝御飯は玄米に梅干し、味噌汁と焼き魚、小松菜の胡麻和えだ。
今日も今日とて豪華な料理だ。
流石、小宮ばあちゃん。
味噌汁を温め、御飯を炊飯器からよそう。
お茶をコップに入れて並べる。
手を石鹸で洗い、席に着く。
「いただきます」
朝御飯を食べ始める。
長年食べ続けた味はとても言葉では言い表せないほど美味しい。
食べ終えると、食器を洗い、水切り籠に丁寧に入れておく。
台布巾を水道で洗い、食卓を拭く。
台布巾を洗って畳んでおき、洗面所へ移動する。
歯を磨くこと数分。
口を濯いで、二階に上がる。
鞄を背負い、一階に下りる。
だが、家を出るにはまだ早い。細かい話だが、俺は今日、15分ほど早く起きてしまったのだ。
食卓に置いてあった弁当を鞄の中に仕舞いながら、まぁ早く行ってもいいだろうと思い、鞄を背負って廊下を歩き出す。
玄関で靴を履き、傍に置いた鞄の中から鍵を取り出す。
扉を開いて、家から出る。
晴れ晴れとした空を見上げ、太陽の光を眩しく思い瞬きをする。
視線を下ろし、扉を閉めて鍵をかける。
鞄の中に鍵を入れてから、鞄を背負う。
草が生い茂っている道の傍を見ながら、歩き始める。
余裕を持って学校に登校できるのは数日ぶりだろうか。
最近はストレスが溜まっているからか、起きる時間がどうしても遅くなってしまっている。
今朝も、なぜかシャーペンが白く見えた。
ははは、そんなわけがないのにな。
おそらく、寝起きで変に見えていたのだろう。
そんなふうに、つらつらと生産性のないことを考えながら畑道を歩いていた。
太陽が燦々と輝くなか、それと比例するようにして俺の気持ちが闇に落ちていく。
考えてもみてほしい。
今は夏の真っ只中。
そろそろ、学校も一学期の終業式までわざわざ考えなくても数えられるようになってきた頃だ。容赦なく人を照らす太陽の憎らしさといったら、肉親の仇が如くと言っても差し支えはないだろう。
「全人類の仇め」
憎々しげに太陽を見上げ呟く。
言い過ぎだと思うか？ いや、そんなことはない。この世界には熱中症で命を落とした方々がいるのだ。あぁ、だがしかし、あの憎き仇（笑顔の太陽を思い浮かべる）がいなければ人類は生まれなかった。それと同時に、あれ（笑顔の太陽を思い浮かべる）がなければ人類が熱中症で死ぬこともなかった。
なんという皮肉よ……。
この世界は理不尽だ。
改めてそう思った。
またもや生産性のないことを考えてしまった。
はぁ、とため息を吐く。
そんなふうに、あーだこーだと考えていると十数分が経っていて、俺は市街の近くまできていた。
変わらぬ情景──学校に向かう学生たちに、会社へと向かうサラリーマン、などなどがちらほらと見掛けられてくる。
変わらぬ日常音──蝉の鳴き声も夏独自の風物詩ではなく、半月以上聞けば飽きてくる。
変わらぬ気象──茹だるような暑さに汗が体を伝い、体にシャツが張り付く。これに関しては、まじ変わってほしい。気温が下がる方向でお願いしたい。
そして──変わり果てた私立野浦高校。
……ん？
道を間違えたか？
後ろを振り返り、きた道を見振り返る。
いつもの建物が建ち並ぶ変哲のない風景。
再び前を見やれば、クレーターがそこには広がっていた。
黄色いテープが校門に貼られており、警察の人が立ち余計な人──学校の前にいる記者や野次馬──が中に入らないようにしている。
そして、あたりには警察車両や救急車、消防車といった普段はお目にかかれない行政機関の車が止まっている。
あまりの事態に、呆然とするしかない。
……慌ててスマホで確認すると、急行の連絡が数分前に来ていた。遅いって。
唯一嬉しいことがあるとすれば、俺のように同じ学校の制服を着ている奴らがいることだ。
数名は報道陣に囲まれていたり、家に電話していたり、手持ち無沙汰をしている。
そんな奴らを見て思ったことがある。
こいつら、同類だ。
朝のニュースなんて見ずに学校に直行して運悪く学校に着くまでこの惨状を知らずきてしまったのだろう。もしかしたら、野次馬根性できたやつもいるかもしれないが、そんなのは少数派、だよね？
俺は学校へと続く道で、立ち尽くすしかない。
これは、いったいどうしたらいいんだ？
