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全能神  作者: 碾貽 恆晟
第四章 魔神に魅入られた男
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エピローグ 帰郷




「終わったな」


 空には星々が輝いている。田舎によくある光景の一つがそこにはあった。


 ──どうするんですか?


 何をするか、は決まっている。と、頭の中で答える。


 マーヴァミネを倒したあとのことなどとっくのとうに決めている。


 あとは、実行するだけだ。


 ──すぐに始めるのですか?


 なぜ、そんなことを聞くん?


 思わず質問に質問で答えてしまった。俺のやられたら嫌いなことのトップ10にランクインしているのに、自らその愚を犯してしまうとは……。


 ──猛省してください


 いや、人から言われるのはなんか違う。


 ──面倒くさいですね


 言わないで……。そういうのって、人には一つや二つ程度、いや相当数あるでしょ?


 ──それはそれこれはこれ


 なにが?


 ──考えるより、感じてください。


 ……。


 お話にならない、と思いながらもとりあえず、と世界を見渡す。


 やはりというかなんというか……。世界は蜂の巣をつついたように荒れ果てている、それもこれも、オトルスというかマーヴァミネが起こした宣戦布告のせいで、見るも無惨な光景が広がっていたりする。


 路上では、よくわからない新興宗教を開いていたり、店内のものを盗んだり、人殺しに強姦etc. 『ここは世紀末?』と言いたくなる有様。


 やっぱ、あの方法しかないだろ。


 これを思いついた自分はすごいと自画自賛したくなる。


 ──結局何をやるんですか?


 時戻し!


 ──ベタすぎですね。


 違うんだ! ただの時戻しじゃないから!


 ──そうだとしても、自慢できるほどではないかと


 ヤメロ! ヤメテくれさい。


 ──ください、では?


 わざとだよ。


 ──わかってますよ?


 じゃあ突っ込まないでよ。


 ──ここは突っ込む所かなと思いまして。


 そうじゃない……。


 ──まぁ、そんなことは置いておきまして


 置いておかないで!


 ──その『時戻し』とやらをいつやるので?


 ……今やるか


 完全に無視されたことに、一瞬心が折れそうになるが、自らを奮い立たせることに成功する。


 そして、気を取り直してもう一度目を閉じる。そうすると、精神が引き締まり、世界をじっくりと見つめることができるようになる。それはつまり、世界の全てを五感、それ以外のあらゆる感覚で感じるのだ。


 世界全ての時を戻すためには、今現在も続く宇宙の膨張、今まさに終わりを迎えようとしている恒星、衝突して砕ける小惑星、宇宙を高速で飛んでいる光、それら全てを認識していなければいけないのだ。


 もちろん、ただ戻すだけじゃつまらない……ゴホンゴホン、もっと良い方法があるので、いろいろと手を加えている。


 戻す過程、力の作用全てを考慮して、世界に与える悪影響を最低限にして力を振るう。


 宇宙の端から端に至るまで、全能の力が覆う。それは、普通の人には見えないエネルギーの塊。


 だが、それらは確実に宇宙全体に行き渡り、時戻しのための前段階を遂行してくれている。


 ── ……すごいですね


 肩に止まっていたオウランが思わずと言った調子で考えを漏らした。


 ふふふ、褒めたってなんもでないぞ?


 ──褒めてはいませんよ?


 負け惜しみに聞こえるが、そういうことにしておこう。


 そして、全ての準備が整った。エネルギーの量は問題なし。誤作動などは起こらないだろうし、あとは発動するだけ。


 手に少し汗が滲む。


 緊張しているのかもしれない。


 ただ、今から行うことが失敗することではなく、行うこと自体に緊張しているのだろう。


 死んだ人は生き返り、生まれた人はいなくなる。


 時を戻せば、そこにはもうマーヴァミネはいないし、俺の行動も変わる。


 全てが書き換えられた世界となるのだ。


 それが、怖いのかもしれない。


 が、『違う』と心が否定する。


 もっと、スケールの小さいというか、そう、小宮ばあちゃんに会うこと自体かもしれない。


 だが、これから止めるなんてことはしないし、したくはない。


 一つの、たった一つの小さな勇気が必要なのだ。ただ、それだけでいいのだ。


 恐れる必要などない。


 自らを叱咤し、目を開く。


 多くの人には見えないだろうが、俺には見える全能神の力。それは、あらゆる宇宙内の空間全てを覆い尽くしているため、星一つ見えない。


 なにせ、全能神の力は俺の目にとって光の粒に見えるのだ。それらが充満しているのだから、光しかないような世界に見えるのは当たり前だ。


 そしてそれらを改めて確認すると同時に、その力は俺の思い描いた通りに、時を止めた。


 もちろん、俺の五感やそれ以外の多くの力によって地球全てを知覚できている。


 少し、たった少しだけ意識する。


 それだけで、時が戻っていく。


 俺の望んだ通りに、世界は巻き戻っていく。


 されど、俺の体感ではとても膨大な時間が流れていくように感じられる。


 星々の動きや、地球上も内も、全てを把握できる。そして、全てはうまくいっている。


 宇宙のはるか彼方で、俺と同じ“授与の根源”から力を受け取った存在たちが何やら反応しているみたいだが、全て無視だ。


 嬉しいことに、俺の邪魔を仕掛けてくる奴は皆無のようだしな。もはや、あそこまで高次元になると無頓着になるのかもしれない。


 それはともかく、俺の目標としたことは全て達成された。



 目の前には田畑が広がり、虫が鳴いている。


 上を見上げれば満点の星空。


 余す所なく、俺の思い描いた通りに世界は戻った。


 俺が全能の力を受け取った夜中に。


 ──これで、望んだことは終わったんですか?


 あぁ、俺が旅の始まりに掲げた目標は全てな。


 ──これからどうするんですか?


 帰るんだよ


 ──???


 今の俺は塾帰りの学生だぞ? 家に帰って、そのまま布団にダイブしたい気分だ。


 ──そ、そうですか


 オウランはどこか引いたような瞳でこちらを見つめてくる。


 ……おいおい、そんなことされちゃぁ、アドレナリンがとまらなくなっちゃうって。


 ──さっさと帰ってはどうですか?


 蔑みだ! 蔑みを感じる!


 俺は、言われた通り帰宅のために歩き始めながら脳内抗議を開始する。


 だが、悲しいことに、オウランは一切の反応をやめてしまった!


 脳内でいくら叫べど、思考をわざわざ強くオウランに送っても、うんともすんとも言わない。


 ──着きましたよ


 返答があったのは、家の前に着いた時だった。


 もっと早く返事をしてくれてもいいのに。


 ──入らないのですか?


 いやいや、入るよ。


 玄関のドアに手を当てて、ゆっくりと開く。


 いつものように、LEDのランプと、小宮ばあちゃんに「おかえり」という声が聞こえてきた。


 なんでもない光景。


 俺は思わず立ち止まって、入るのを躊躇った。


 オウランが頭をこづきでようやく俺は家に足を踏み入れる。


「ただいま」


 声は自然に出た。


 ガチャリと、ドアの閉まる音と、小宮ばあちゃんの声が、俺が日常に戻れたことを教えてくれた。





ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

とりあえず、いったんここまでで完結です。

続編は、ネタだけあります。いつか書くかもしれません。

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