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全能神  作者: 碾貽 恆晟
第四章 魔神に魅入られた男
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第18話 終わり





「けど、お前のその言葉が聞きたかったんだよ、マーヴァミネ。わかるだろ?」


 マーヴァミネの瞳はいっそう鋭くなり、“憎悪”のような、それでいて“悲哀”のようなものが燻っているのがわかる。


「わかるさ。憎らしいことにな」


 舌打ちののち、「クソッタレが」と毒付いた彼は、転がって仰向けになった。


 彼の目に映ったのは、黒々とした墨の上に、いくつものガラスの粒を振りかけたような星空。と言うのはわかりにくいだろうが、それほど小さな小さな星々が集まりあって巨大で雄大な光を作り出していたのだ


 いくつものカラフルな光が瞬き、そのコントラストはあまりに、あまりに美しかった。


「それで、どうするんだ?」


 全てを投げ出したような口調でいながら、マーヴァミネはいまだに生きようと足掻くようだ。


 その心のうちで何を思っているのか、それとも何も思ってもいないのか。どちらにせよ、無意識のうちであればなにかしらの力が働いている。


 それを、知ろうは思わない。


「さぁね?」


 これといった用意はしてない。全てはアドリブが解決する(おい)。そう思いながらやっている。


 だが、


「強いていうなら……全てを知りたかった。お前の生涯全てを知って、それでも俺が決別できるのか。俺は、お前を殺せるのか」


 やると思っていても、心のどこかで否定してしまう自分が出てきたりすることがある。俺もそうでない理由がどこにある?


 だから、試すんだ。自分自身を。


 だけど、それは今ではない。その前に聞いてみるか。くだらない戯言だが、何もしないよりは良いだろうし、面白いことになるかもしれない。ここからの未来は見ていない。ただ、マーヴァミネが死ぬという事実は知っている。それだけでいいだろうし、せっかくの楽しみを台無しにする必要もないだろう。


「お前は、彼女を愛していたのか?」


 彼が最後に見た回帰の夢、そこで彼女は燃えて死んだ。炎に包まれた家が崩壊するに巻き込まれたのか、もしかしたらそれより前に死んでいたかもしれない。


 興味はなかったが、後者が正しかったようだ。つい意識したため知ってしまった。何はともあれ、思わず本音が出てしまったのだろう。


 全能神のデメリットとして挙げられるかもしれない。自分が望んでいることだけに、制限をかけにくいのも余計に煩わしい気分をもたせる。


 さてと、余計な事前知識を持ってしまったが、果たしてマーヴァミネの解答は!?


「私が彼女を愛していたのか……? 疑われるとはわかってるが、間違いなく私は彼女を愛していたさ。そして、そのような感情を抱いた私自身に憎悪した。相反する感情が私に同居している。この無力感を、お前は私に教えたかったのだろう?」


「……まぁ、間違っちゃいないね」


「ならば、これ以上何を望む?」


 確かに、お前はそう思うのかもしれない。だが言わせてもらおう。


「今言ったことを、これまでお前がしてきた相手に言えるか? お前が無力感を味わい、憎しみを感じたようなことを、数えられないほどしてきたお前が」


 ありきたりだが、ありきたりなことは多くの人が思っていることだとも言える。常識と言い換えてもいいが、それはつまり多くの人が共感しているようなことなのだ。


 ならば、《《使える》》ことになる。間違いなく、それは言葉の刃となる。諸刃の剣かもしれないが、そんなことなぞ、今はどうだっていい。


「だが、お前はそうではないだろう。お前は、そんなことを考えるようなたまじゃない。それはただの口実で、それはただのお前の願望だ。違うか?」


 正しくもあり、間違いでもある言葉だ。俺が口実のためだけに言っているわけがないだろう?


 心の片隅にはある感情の一つでしかないとは言え、俺の思っている間違いない考えだ。


「……本当にそう思うか?」


 マーヴァミネは納得いかなさそうに頭を振った。


「違う、ようだな」


「そうだろ?」


 ──口実と言われても仕方ないように私が思いましたが?


 蒸し返すなよ……。と、思考を加速させながらも、思わずオウランに突っ込みたくなった。人からオウギタイランチョウへと姿を変えたオウランは今肩にいる。『少し小突いてやろうか?』と言う考えが頭をよぎる。オウランにはバレないように考えていたから、オウランは話を続けてきた。


 ──人の心は多面的で、必ずしも一つの答えしか持っていないわけではないでしょう?


 全能神でその人の深層心理を含めた感情や考えを全て知っても、それを言葉にすることはできない。それに、その感情とやらも常に変化しいて、常に感情を読み続けなければいけない。なので、一つの答えというより複雑に絡まった思考と感情の集合体となっている。


 未来を読んで、起こる全てのことをみた通りにするなら話は変わるが、今俺は未来を全て読んでいるわけでもないし、ノリでやってるようなものだ。(なお、行き当たりばったりとも言う)


 ──まだ、グダグダやるつもりですか?


 確かに、そろそろ終わらせたほうがいい気がしてきた。


 いやぁ、しかしまだなんか足りない気がするんだよな〜。


 ──個人の感想はいいのでそろそろ決心をされては?


 なるほど、現状を見れば『決心をまだしてない』と捉えかれない状況かもしれない。


 それが指し示すのは、俺はまだ躊躇っているという事実を表す。


「なら、終わらすか?」


 漏れ出た呟きに反応したマーヴァミネが冷めた目でこちらを見てきた。


「やるなら早めの方がいいと思うがな」


 返答まで冷めている。


 つまらない。もっと、他にいいものがあったはずだ。それを選ぶこともできたはずだ。だが、俺はそれをしなかった。俺は俺の考えうる限り最も正しいと思う行動をしたはずだ。たとえ、それが俺の一番望んだ結果を与えないとしても……。


 熟考はもう必要ないだろう。マーヴァミネは終わりを望んでいる。それならそれでいいのだろう。もうどうだっていい気がしてきた。


「……あぁ、一つだけ言っておく。お前は魂まで破壊する。次の人生はないな」


「もう十分生きた」


「……つまらないな」


 右手から黒い靄が生み出される。それでマーヴァミネに触れればあっという間に、体がボロボロと崩れていくと共に、魂も侵食し崩壊していく。


 なんとも、あっけない終わりだった。


 俺は自ら作り出したこの世界から出ることにした。


 俺とオウランが出るとすぐに、世界は崩壊していく。マーヴァミネの残した灰も何もかもを飲み込み虚無となって消えた。


 ようやく、全てが終わったのだ──。


 




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